ポーカーやブラックジャックをやると主張するベルフェゴールを数回の勝負で完膚なきまでに叩き潰したのは綱吉だった。
引きの強さは年々自分でも上がっているのがわかる。
ババ抜きにしようと綱吉は言ったのだが、ルールを知らないから嫌だと言ったのもベルフェゴールだった。
あっという間に何度も負けたベルフェゴールはションボリとしていた。
「綱吉はカジノ行ったら大儲け出来そうだね」
「そうかな?」
「今度一緒に行こうよ」
嬉々として、その勝ち続ける綱吉に言うマーモンに綱吉は少し困った顔を返した。
「あーもう!!ツナヨシ強すぎ!!」
「ベール!罰ゲームだよ!」
「うえー、王子嫌だあ」
負けたら罰ゲーム、と決めていたのだが(お金が絡むと綱吉の手持ち金がないため払えないから)いざそう言われても思いつくものでもなく、綱吉は部屋のあちらこちらを見て考えてみた。
そのとき、目に飛び込んできたのは昨日の辞書から出たメモだった。
は、と思いついて、綱吉は二人に提案してみることにした。
「あのさ、罰ゲームじゃなく、教えて欲しいことがあるんだけど」
「へ?・・・それって罰の替わり?」
「うん、それでいいよ」
ベルフェゴールは喜んでごろり体を転がした。
よかったあ、と言葉も忘れずに両手を挙げて。
「それで・・・綱吉は何が聞きたいの?」
「あ、と・・そこにあるメモなんだけど・・・」
そう言って小さな机にあがった数枚のメモを指す。
ふわふわと飛んでマーモンはそのメモを手に取る。
「む、ボスの字だね・・これがどうしたの?」
「やっぱりXANXUSの、なんだ」
そこまでは予想通りなのだ、問題はその先の話だ。
「XANXUSって愛人、いっぱいいる?」
「は?」
「だから、愛人、いる?」
「そりゃ、ボスに愛人の一人や二人くらい・・・ってあれ?いないんだっけ?」
「今は、いないはずだよ。忙しくてそれどころじゃ、とか言ってたけど元々長く続いている人なんかいなかったし」
ベルフェゴールは知らないようだったが、マーモンはどこから入れてくる情報なのか、いないと言った。
情報は金になると信じているマーモンならば言うことに間違いはないだろう。
「じゃあ、日本人に知り合い、とかは?」
「・・・要領悪い質問は嫌いだよ、直接言ったらどうかな」
回りくどく言う綱吉の言葉はこの先いつまでも確信をつこうとしないと思い、マーモンは先に釘を刺す形で言い切った。
だらだらと話されるのは本当に時間の無駄でしかない。
う、と少し強い口調に引いた綱吉だったが、意を決して口を開いた。
「この紙、日本語で『綺麗』とか『可愛い』とか練習してあって、『愛してる』て文字もあって、XANXUSにこんな形で愛を伝える相手に心当たりないかな、と思って・・・さ」
「は?」
「む?」
ベルフェゴールもマーモンも驚いたようで、石のように固まってしまった。
綱吉は自分が何か聞いちゃいけないことを言ったかのように固まった二人を交互に見て、あれあれ?と困った顔をする。
二人の間の抜けた顔は初めて見た。
「あ・・のさ、ツナヨシ。それは、ボスに直接聞いたら?」
「そうだね。僕もそれを勧めるよ」
「え、ええ?む・・・無理・・だよ」
「王子たちその答え知ってるけど、言うとボスに怒られちゃう」
「自分で聞いてみてよ、この情報はそんなに安くないからね」
直接聞くなら、ただでしょ?とマーモンは主張するが、それが出来るなら始めから聞いてないよ、と綱吉は思ったが、それを言うことはなかった。
夕方になると、ベルフェゴールとマーモンも再び任務へと出ることになり、綱吉はまた書庫へと残されてしまった。
明日になれば、日本行きの飛行機へと乗り込み帰る事になる。
XANXUSにこのメモのことを聞くチャンスは今日の夜だけ。
綱吉は迷っていた。
XANXUSの思い人の話を聞いてどうするのだ、と。
知ってしまえばその相手に対して自分が悪い感情を抱くことも容易に予想できることなのに。
人に対して悪い感情を抱く自分は酷く醜くて嫌だった。
「やっぱり、聞かないほうがいいよね」
手を伸ばして、辞書を手にする。
何度見ても使い込んであってそれが逆に魅力となって綱吉の目に映りこんでくる。
メモの字も綺麗だと、何度も思った。
自分に向けられた物でもないそのメモを綱吉は大事に手に取り、そして、再び辞書の中へと仕舞い込んだ。
自分がふれていいものではなかった。
初めから見なかったことにしようときちんと閉じたところで、綱吉は一つ思いついたところがあり、その行動に出ることにした。
もう二度と開かれないかもしれないこの辞書にひとつ、悪戯を仕掛けよう。
そう思った綱吉は、一人黙々とその作業に入ったのだった。
「気をつけて帰れよ」
「うん、色々ありがとう」
短い言葉を交わし、綱吉はジェット機へと乗り込んだ。
それは九代目が用意してくれた専用機で直接日本まで跳んで帰ることが出来る。
空港へは家光が奈々とともに迎えにきてくれるように連絡を入れてくれたらしい。
「遅えぞ」
「・・・リボーン、どこ行ってたんだよ」
「愛人のところ、と言っただろう」
先にジェット機乗り込み、綱吉の登場を待っていたリボーンはすでに眠る気満々の体勢だった。
綱吉を一瞥してすぐに目を閉じる。
「歩けねえんじゃなかったのか?・・・どこまでもダメツナだな」
「何で知ってるんだよ」
「てめえのことなら何でもわかんだよ」
む、とした顔をした綱吉は、リボーンにきつめの口調で言葉を返す。
「生憎、今日は何とか歩くことが出来ました。声だって出るようになったし、もう何ともないもんね」
「それがてめえの当たり前だろうが、自慢にもなりゃしねえ」
「う」
「いいから座れ、帰るぞ」
綱吉が座席に着いたのを確認し、パイロットがジェット機を動かし始めた。
ゆっくりと機体が走り出して、イタリアの地から離れていく。
窓の外ではヴァリアーの面々が見送りをしてくれていた。
ベルフェゴールとマーモンが一生懸命手を振っているのに、軽く手を振り返した。
安全に空の上に飛び上がったところでベルトを外した。
「また、来たいか」
「・・・・うん、もう少し自分が強くなったら、来たい」
「そうか」
リボーンはその答えににやり笑った。
ヴァリアーに滞在するとなったときは少し驚いたが、綱吉にとってプラスに働いたようだ。
「帰ったらまたねっちょり鍛えてやる」
「う」
順調にいっても、まだまだ日本に着く事はない。
綱吉もリボーン同様に座席に凭れ掛かり、静かに目を閉じて眠りについた。
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