食堂は昨日とは違って、皆がもうすでに食事を終えていた。
残っていたレヴィとルッスーリアも席を立つところだった。
「ボス、ツナちゃん、おはようございます。用意できてますから・・・じゃあ私はこれで」
「ああ」
「え、ルッス、行っちゃうの?」
XANXUSの腕に抱かれたまま、ルッスーリアに声をかけた綱吉。
ルッスーリアは驚いて、綱吉を見た。
「声、出るようになったのね!?よかったわあ」
「うん」
「ルッスーリア」
「え・・あら!?じゃあボス、行ってまいります」
「ボス、行ってまいります」
ルッスーリアとレヴィ共にすぐ出て行ってしまった。
今日は皆忙しいのか、昨日よりも早く起きた綱吉たちよりも早く行動を起こさなくてはいけないほどの任務が来ていると言う事だろう。
昨日のXANXUSもそのために執務室で仕事していたと予想できる。
「食べるぞ」
「うん」
用意されていた食事をXANXUSの隣で食べる。
昨日と変わらないその行動が二人きりということで何となくドキドキしてしまう。
意識すればするほど、余計にだ。
先程のキスもあり、これで意識するなというほうがおかしいだろう。
おいしいはずの食事があまり味のないものへと変化したのはいうまでもないことだった。
無理やり流し込んで食事を終えたところで、XANXUSが綱吉に声をかける。
「今日は一日、ここにいなきゃなんねえ。悪いが部屋で大人しくしていろ」
「わかった・・・」
「書庫でも、ベッドの上でも、好きなとこにいていい・・・明日までの辛抱だからな」
そう言ってくしゃり、綱吉を撫でる。
ドキ、とするほど柔らかく微笑んだXANXUSはまるで自分に言い聞かせるかのようにその言葉を言うのだ。
まるで、XANXUS自身が悪いかのように。
「大丈夫、邪魔しない、から」
ぽつり呟くように言ったその言葉は、あまりに震えすぎていて、XANXUSの耳まで届かなかっただろう。
邪魔しない、だから――――。
その続きを言う勇気は出なかった。
結局昨日と同様に書庫にいることにした綱吉だったが、何もやる気が起きなかった。
昨日は面白いと思った辞書も用途がわかると見たくないものへと変化してしまうのも不思議な話だったが、今の綱吉はちょうどそんな気分だった。
手が届く位置の本をぺらぺらと捲ってみるものの、読めない文字が興味を惹くものへと変わることはなかった。
「つまんないや・・・」
声が出るようになっても、話す相手がいないのでは昨日と一緒である。
隣の部屋にはXANXUSがいるから、騒ぐわけにも行かないし、昨日のように眠たくもないのだ。
ぼんやりと規則正しく並ぶ本を眺めて、色々考えては消えてを繰り返していた。
あまり光の入らないこの部屋からは、今日の天気すらもわからず、まるで牢獄の中にでもいるような気持ちになってしまう。
「ツーナヨシ!いる?」
「ベル?」
「む、ちゃんと声出てるのかい?」
「マーモン?」
ドアのほうから声をかけられてそちらを向くと、ベルとマーモンが入って来ていた。
二人ともXANXUS同様、きちんと隊服を身に着けていた。
「今暇でしょ?王子と遊ぼ!?いいでしょ?」
「ベル、それじゃ綱吉が脅えてるじゃないの。ボスが綱吉の相手してやれって言うんだけど、いいかな?」
「え?」
「ここから出るなって言ったから、ここで遊ぶんだよ、王子とマーモンと綱吉で」
ニカ、と笑うとベルフェゴールは本当に楽しそうにそう言った。
綱吉はあまりに唐突な誘いにビクリしたまま声が出せなかったが。
「何をする訳でもない、いい話し相手になってあげるって言ってるんだよ、綱吉。ほんの相手もどうせ飽きてきた頃だろうしね」
「大体ツナヨシイタリア語読めないでしょ、王子読んだげようか」
代わる代わる話す二人は、どうやら綱吉が気になってきてくれたようで、命令であっても話し相手ができるというのは嬉しくてたまらなかった。
「じゃあ、少し一緒にお話してくれる?丁度暇で困ってたんだ、ここに自分が読める本はほとんどないし、動けないし、でさ」
にこりと笑った綱吉に対して二人は顔を綻ばせた。
ベルフェゴールとマーモンが来た後に、ルッスーリアも来てみんなの分のお茶とお菓子と、お変わり用のポットやらお茶やらたくさんワゴンに載せて運んできてくれた。
小さなテーブルに乗り切らない量のそれらを、床にシートを敷いて三人で広げた。
「すごい量だね、このお菓子」
「ルッスーリアってストレスがたまると菓子作りに走るんだよね、すっげおっかない顔して生地びったんびったん打ち付けてるんだぜ」
「そうそう、夜中にそんなこと始めるから怖いのなんのって」
そんなルッスーリアの姿を想像して、ぷっと笑った。
初めて見たエプロン姿も衝撃的だったが、その姿で生地を殴りつけている姿はもうそれ以上の笑いを含んでいるだろう。
「最近、面白い任務もないから皆溜まってるんだよね。ぱーっとしたやつに出たいんだよ」
「金にならない安い任務ばかりだからね。僕もつまらないよ」
「そうなの?」
取り合うようにしてお菓子を食べる二人に疑問を投げかける。
XANXUSはなんとなく忙しそうにしていたのだが、そうではないのだろうか?と。
「もうすぐ大きな任務が来るみたいだけど、その事前調査ばっかで全っ然血も見れないんだもん、王子つまんね」
「僕の調査も昨日で終わったしね、後はボスの声一つで動くだけだね」
「・・・だからXANXUSは忙しそうなんだね」
「ボスはいつも忙しいよ、最近は特に構って貰えなくてつまんないし」
いつも忙しい。
その言葉に、本当に申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。
忙しい中でもほとんど綱吉の元にいてくれたけれども、それは単に仕事の皺寄せがいくだけだろうし。
綱吉が目に見えて落ち込んでいく様は周りにもわかるほどだった。
「つ、ツナヨシ?」
「何か、XANXUSにも皆にも・・・悪いことしちゃったなと思って・・・俺のせいで余計に忙しくなっちゃったんだよね・・・」
「そ・・・」
そんなことない、とマーモンは言おうとしたのだが、XANXUSから任務について口止めされていることを思い出し言い淀んだ。
今だって隣で次々と舞い込む情報をまとめ、指示を出しているところなのだ。
まだ綱吉に自分たちの仕事を見せる必要はない、とXANXUSは強く言った。
いずれ見て知ることになることはあってもまだ――――、と。
「王子、暇だよ?じゃなきゃ街に出て遊んでいるって!」
「そ、そうだよ!僕だって綱吉がいなきゃこの部屋にいるよりもっとお金になるようなことをしてるよ」
「あれ、マーモン?じゃあ王子とトランプ勝負する?」
「絞れるだけ絞ってもいいならね」
「バカにすんなよ?」
色々考えているようでのん気に返すベルフェゴールと、誤魔化す様に色々と言うマーモンのやり取りはまるで漫才を見ているようだった。
ポンポンと次々言葉を返していく二人の会話はとても面白かった。
「ツナヨシもやるっしょ?トランプ」
「うん、やろうかな」
「綱吉にも容赦しないよ」
ふわり笑う綱吉に、また二人は楽しそうに笑い返した。
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