「ボス、おそーいじゃん!王子待ちくたびれたよ、もう」
「準備に手間取った、文句はこいつに言え」
「!?」
「あらあ?ボス、早く席に着いて頂戴、ツナちゃんもね」
食堂に入るなり、ベルフェゴールとルッスーリアの出迎えに合い、綱吉は少々驚いたが二人の柔らかい空気が『仕事』のときとは違う雰囲気を漂わせて安心をした。
もしかしていつも殺伐としていて、常に緊張した食事を取ることになると思っていたので、ほぅっと胸を撫で下ろした。
XANXUSは綱吉を自分の隣の席に座らせ、自分も席に着いた。
「今日の綱吉、カッコ変じゃね?女装趣味?」
「やだ、ベルちゃんったらあ!ツナちゃんは女の子でしょうが、おかしいことは何もないわよお」
「は?オカマバカにしてんの?女?」
ベルフェゴール同様、XANXUSに挨拶をしにきたレヴィも驚いている。
遅れて大きな音と共に食堂へ飛び込んできたスクアーロも同様に固まってしまった。
「う゛お゛おい!?綱吉・・・!?その服はねえんじゃねえのかあ・・・」
「皆失礼じゃない、綱吉は元々女なのはわかってたことじゃない」
マーモンがいつのまにか席に着いていて、そう主張した。
女だとわかっていたはルッスーリアとマーモンだけのようだ。
中世的ではあるが、やはり女には見えてなかったのか、と綱吉はショックを隠せなかった。
この服もやめたほうがよかったかなあ、と俯いてしまった。
「・・・黙って席に着け、ドカス共」
その綱吉の様子を知ってか知らずか、XANXUSはわいわいと騒ぎ立てる皆を止め、席に着かせた。
怒気に当てられて従わない者はヴァリアーにはいないのだ。
その空気を読みつつ、ルッスーリアが食事の準備をし始めた。
熱を帯びた皿が次々とテーブルへ並べられる。
「たくさんあるから、おかわりして頂戴ね、召し上がれ」
各々が好きに食べ始めた。
ちらりちらりと綱吉を気にする者もいたが、XANXUSに睨まれると大人しく食事を口に運ぶ動作に集中していた。
綱吉も、ゆっくりと一口、口に運ぶ。
昨日も思ったがただそれほど難しい料理ではないはずなのに、ものすごくおいしいのだ。
口の中に広がるおいしさに顔をほころばせた。
そしてルッスーリアに向けてにこりと笑う、美味しいよと伝えるために。
「ツナちゃん?おかわり・・じゃないわよね。お茶かしら」
慌てたようにルッスーリアがお茶を入れ始める。
こぽこぽと音をたてて入れられるお茶の匂いは鼻をくすぐる素敵なものだったが、綱吉の言いたかったことはそういうことではなかった。
「おい・・・こいつはてめえの飯が旨いつってんだ」
「あら?そうだったのお!ありがとうツナちゃん」
「・・・やっぱりわかんねえのか」
XANXUSが通訳してくれて、初めて綱吉の気持ちは皆に伝わるのだ。
こんなちょっとしたことすらも伝えられない憤りを感じていた。
XANXUSもその伝えるのを面倒に思っているに違いない。
綱吉は大人しく早く食べ終わることだけに集中して、目の前の食事に没頭することにした。
「ボス、今日の任務ですが・・・」
レヴィがXANXUSに今日の任務について確認を入れに来た。
そのレヴィに目配せして、それ以降は綱吉の理解できない言葉に切り替わる。
イタリア語を使って会話が始まったようだ、内容はさっぱりわからなくなってしまった。
出来るだけ綱吉にわからないようにしているのかもしれないが、疎外感が嫌だった。
「わかったぜえ・・・他にはねえのかあ゛」
「後でジジイからS級任務が数件届く予定だ、やりてえ奴が出ろ」
「ボスは?最近出てないから行きたいんじゃなかったの?」
「俺はこいつのお守りだ、行けねえ」
綱吉の横にいたXANXUSから怒りのオーラが出たことだけは綱吉にも理解できた。
そのオーラに吃驚して、カシャンと皿の音を立ててしまう。
「以上だ、報告は終了後報告書を纏めてから来い・・・行け」
「Si」
綺麗に食事を終えたヴァリアーの面々は各々に席を立ち、行ってしまった。
「後片付けはやりますから、そのままにしておいてちょうだいね」
ルッスーリアも前回と同様の声かけをして、任務へといってしまった。
残されたのはXANXUSと綱吉の二人。
綱吉のためにわざわざ用意してくれたデザートのプリンアラモードを食べながらXANXUSのほうを向くと、すでに食べ終えた彼は食後のコーヒーを飲んでいた。
手には新聞、まるで朝のお父さんのような体勢でそれを読んでいた。
「ゆっくり食え」
一つ一つの動作が大人に見えるXANXUSが綱吉には格好良く映る。
そして学習能力の足りない綱吉はまたぼんやりして、ぽろりとスプーンからプリンを落としてしまったのだった。
ベチャ、と服についてしまいあわあわとナプキンを取ろうとした綱吉だったが、焦りすぎて今度は器ごと逆さまに落としてしまうのだった。
一連の動作を眺めていたXANXUSは、あまりの酷さに口を半開きにしていた。
「・・・また着替え、だな」
ふう、とため息をついたXANXUSの声は綱吉に酷く突き刺さるのだった。
何も出来ない、いるだけでも邪魔になる。
そんな自分の状況を綱吉はよく思わなかった。
何かをしようとするだけでも失敗し、余計にXANXUSの負担になってしまう自分がすごく嫌いだった。
――――でも、少しここにいられることが嬉しかった。
元いた部屋へ戻り、ソファに座らされた綱吉にXANXUSが問う。
「どこか、行きたいところはあるか?・・・欲しいモンはあるか?」
どちらにも綱吉は首を振った。
XANXUSが仕事を抱えていることはわかっているし、本当に欲しい物はなかった。
しかし、その言葉にXANXUSはしかめ面を作った。
「女っつーのは欲望のままに生きるもんだろうが。宝石だったりブランドモノのバッグだったりを強請らねえのか、てめえは」
は?と声が出るなら言っていただろう。
綱吉は口をぽかんと開けて固まってしまった。
宝石もブランドモノのバッグも欲しいと思ったことはないし、手にしたこともなかった。
XANXUSの知る女の人というのはそういう欲しいものを強請って買ってもらうようなタイプなのだろう。
愛人か友人かわからないが、綱吉にはおおよそ想像の範囲外の話だった。
「任務はカス共がやる、時間もある・・・ここに籠りきりもつまらねえだろう、旅行に着てたんだって言ったじゃねえか。好きなとこに連れて行くし、何でも買ってやる」
金はジジイがいくらでも出すだろうしな、と付け足すのを忘れなかった。
でも、と躊躇する綱吉にXANXUSはさらに言葉を重ねた。
「その服、気にいらねえんだったな・・・買いに行くぞ」
え、と戸惑っているうちに綱吉を抱え上げたXANXUSは部屋の外へと歩き出した。
靴も履いておらず服も先程着替えた九代目の選んだワンピースのままでこれを着て出かけることが嫌だった綱吉は嫌だとはっきり狩猟してみるが、出かけると決めたXANXUSはその行動をやめようとはしなかった。
綱吉を車の助手席に押し込み、自分は運転席へと乗り車を動かした。
助手席に乗ってからも綱吉は、お金がないやら服は持ってきているやらこの服で我慢するやら言い続けていたものの、XANXUSはいいから買いにいくと言い続けて、運転を続けるのだった。
「金はジジイが出す、てめの持ってきた服は女らしくねえ、今着てる服が気にいらねえと言ったのはてめえだ、カス。他に言いたいことはあるか?」
うう、と言葉を返せなくなった綱吉にXANXUSはにやり笑った。
「よかったなあ、ジジイもてめえに金出すっつーなら喜ぶぞ」
XANXUSは大通りに面したショップの前に車を止め、綱吉を連れて店へと入っていた。
もちろんその店は綱吉の普段行くような店ではなく、値段が桁二つは増えるところで。
XANXUSが店員に言いつけ、用意された服の値段がちらり見えたときにもう引きつった笑顔を作るしか出来なかった。
なにやら店員にXANXUSが色々と注文をつけて、次々と紙袋に詰められていく。
そして綱吉も奥のフィットルームで服を替えさせられ、靴やアクセサリーも用意され、存分に店員に弄られてしまったのだった。
「いいな、きちんと着飾りゃ見えるようになるじゃねえか」
着替え終わった綱吉を見て満足そうな顔をするXANXUS。
前に着ていた白いワンピースも好ましくなかったが、今着せられている小花柄のワンピースもあまりに女の子らしすぎて綱吉は恥ずかしくなってしまい、顔を真っ赤にして俯いた。
XANXUSの前で女の子の格好をするのはものすごく恥ずかしくて堪らなかった。
XANXUSはカードを店員に出し、そいて車へと荷物を積み込ませて最後に綱吉を抱きかかえて乗せた。
積み込んだ袋の量もトランクにぎりぎり入るほどのもので驚いたのは言うまでもない。
「少し走るぞ」
XANXUSは車を動かし始めた、ゆっくりと走り出した車は先程来た道とは逆方向へと向かっていく。
しばらく走ったところで海が見えてきた。
岬の手前で車を止め、車のドアを開けた。
目の前に広がるのは日本のとはまた違った色と輝きを放つ青色の海だった。
少し強めの風が吹くそこでXANXUSは綱吉を抱えて降ろした。
両腕で抱えたまま、もう少し海がよく見えるところまで歩いていく。
あまりにも綺麗なその景色は、綱吉の目に宝石のように映った。
キラキラが反射して自分の顔までもキラキラになるような気分にさせられて、目を輝かせてその景色を見つめていた。
「少しは気分転換になるだろ」
日の光も眩しくて綱吉の位置からXANXUSの顔は見えなかったけれども、言葉はすごく優しかった。
「・・・早く声が出るようになるといいんだけどな」
ポツリ呟くように言ったXANXUSの言葉は、風が強くなった瞬間で綱吉の耳には届かなかった。
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