「!!」
「俺がやらなきゃ他に誰がやるっつーんだ。ヴァリアーには頼めるような輩はいねえぞ」

脱衣室まで連れられてきた綱吉は自分の腕で自分の肩を抱き、身を守るようにして体を抱えていた。
それというのも、XANXUSが体が上手く動かない綱吉をシャワーが浴びられるように入れてやろうとしていたのだが、XANXUSがしてやろうとした瞬間、綱吉はものすごい勢いで拒否したのだ。

「今、その体で何とかできるわけねえだろうが、カス」

自分でやる、できると主張する綱吉に対してXANXUSは、無理だといい続ける。

「大体、今ここで服が脱げたとしても、どうやって入る?どうやってシャワーを使う?それこそ無理だっつってんだよ、聞いてんのか」

それでも綱吉は拒否し続けた。
いくら自分の体が利かなくとも、男の人に手伝ってもらって入るのは恥ずかしすぎるし耐えられそうになかった。
ふるふる、と首を振り全力で拒否する綱吉にXANXUSは呆れた。

「男同士で気にするこたあねえだろうが・・・おい・・・」

自分の親切心を受け止めてもらえないほど嫌なものはないだろう。
何もここまで力一杯拒絶されると思っていなかったXANXUSは、少なからずショックを受けているようで。
しかし、もっとショックが大きかったのは綱吉のほうだった。
まさか自分が男だと思われているとは考えていなかったからだ。

「・・・は?女・・・なのか?」

綱吉の心の言葉に反応したXANXUSに、綱吉は小さくこくりと頷いた。
XANXUSが気づかないのも無理はないのだ。
元々肉付きのいい体でも、色気のある顔でもなく、リボーンの命によりなるべく少年らしい格好をするようにしている。
凹凸の少ない体は普通に服を見に纏っただけでも、少年にも少女にも見える便利な体だったが、綱吉にとってはコンプレックスの一つでしかなかった。
自分を抱きかかえたXANXUSはすでに気づいていると思ってたが、それは綱吉の思い違いだったようだ。
XANXUSの顔も見られず、うつむいたままの綱吉にXANXUSは声をかけた。

「悪い・・・が」

とても言いづらそうに、ぽつり言う。

「シャワーを浴びてえなら、俺が手伝うしかねえ・・・ここに手伝えるような女はいねえからな」

自分に見られる方法以外はない、と言うが、やはりそれを拒否したい綱吉。
話は一向に進みそうもなかったが、XANXUSが打開策をしてきた。

「仕方ねえ・・・待ってろ」

脱衣所の外でなにやらガタンと大きな音がして。
XANXUSは大きいバスタオルとバスチェアを持ってきた。

「服を脱いで、そのタオルを巻け。その間、俺は外で待っている、出来たらすぐ呼べ」

すぐ、XANXUSは脱衣所の外へと出て行く。
言われたことがすぐに飲み込めなかった綱吉はしばしぼんやりとしていたが、はたとXANXUSの意図を理解し、時間はかかったが服を脱ぎ始めた。
綱吉の体がすっぽりと入るタオルをぐるりと巻いて、XANXUSを呼んだ。
何度やっても不思議だったが、出ていないはずの声に反応してくれるXANXUS。
まるで聞こえているかのように反応して脱衣所の扉を開けた。

「出来たな」

一応確認をして、返事を聞いてから綱吉の元へと来たXANXUS。
そして、綱吉を抱きかかえ、今度はシャワールームへと入っていく。
先程持ってきたバスチェアを用意してそこへと綱吉を座らせて。
シャワールームとはいえ、普通の家庭のお風呂の二倍以上はありそうな広くて綺麗な空間に綱吉はどきどきした。
どれも高級そうで壊したときのことを考えてのどちらかといえば冷や冷やに近いどきどきだったが。
目の前のアメニティの横にもう一枚の大きなバスタオルを置き、それを指して言った。

「大体全部書いてある、わかんだろ・・・・終わったらこっちのタオルを巻いてまた呼びやがれ、いいな」

出て行ったXANXUSは多分脱衣所で待っていてくれているのだろう。
早いところ洗ってしまおうとボディソープへと手を伸ばしてみたのだが、あと少しというところで届かない位置に綱吉はいた。
シャワーは出せたがこれでは洗えない。
もう少しだからと必死に手を伸ばして取ろうとしたところ、お湯と床のタイルで滑り、床へと転がってしまった。
足が使えない分、踏ん張る力が足りなかったのか、足元の危険をわかっていなかったのか。
自分がかけていたバスチェアが空を舞い、自分の上に落ちてきたのをかわす事も出来ず、カコンといい音をたてて頭の上に落下させてしまった。
部屋中に響くバスチェアの音、それはXANXUSへと知らせる音になってしまったようだ。

「綱吉!?」

焦り飛び込んできたXANXUSの目に映ったのは床に転がった綱吉で、お約束のようにタオルは外れてしまっていて。
女の体など見慣れているのか、それとも綱吉の体がXANXUSにとって女と認識できないのか、あまり反応を示さずに綱吉を抱き起こし、タオルを巻き直してやった。

「大丈夫か?・・・綱吉?」

XANXUSに裸を見られてしまったことが恥ずかしいことこの上ない。
しかも平然とされると余計に恥ずかしくなるということをわかってやっているのかと思うくらい反応のないXANXUSに、真っ赤になって固まってしまった。
本当は大声で叫びたかったが、声は出ることなくシャワーの音だけが響いた。

「ここにいる間だけは我慢しろ・・・でないと別の箇所も怪我しかねねえだろうが、カス」

そう言ってXANXUSは綱吉の体を洗い始めた。
呆然とした綱吉は抵抗することも忘れ、XANXUSが洗い始めて傷になってしまった部分に触れるまで真っ赤になって宙を見ていたのだった。





結局隅々までXANXUSに洗われ、髪もふわふわになるまで綺麗にされ、ほこほこにされたところでシャワールームを出た。
XANXUSの腕の中ですっかり小さくなっている綱吉は、ぐるり巻かれたバスタオルの中でまるで赤ちゃんか小動物のように見えた。

「着替えはどうする・・・ああ、ジジイがてめえに寄越した服があるはずだ、それを着ろ」

大きな包みを一つ綱吉に渡し、XANXUSはもう一つ問うた。

「自分で着れるか?着せてやってもいいが・・・」

びく、と反応した綱吉は、焦ったように首を振った。
自分で着れる、これ以上恥ずかしい思いをしたくなかったから。

「そうか」

ベッドルームの大きなベッドの上に綱吉を降ろし、使いやすいように少し布団を寄せスペースを作る。
そして、包みを開けて着替えを取りやすくしてからXANXUSは部屋を出て行った。
綱吉は九代目が用意してくれたという服を包みから出して広げてみたところ、あまりの酷さに固まってしまった。
全部白を基調としたワンピースで中に入っていた下着も全部白いものばかりだった。
有り得ない。
普段スカートもはかないような綱吉にとってこの服を着るのは恥ずかしすぎるし、何よりもまた同じように抱えられて移動すると考えるとあまり好ましくない。
自分の持ってきた服があるはずだ。
別の服を取ろうと思って、ベッドの横にあるはずの荷物を探る。
昨日XANXUSがここにあると言っていたはずだけれど。
何もない感触に、もう少しと手を伸ばしたところでさっきのデジャブのような出来事が起こった。
ぐらりバランスを崩し、周りの家具や布団を巻き込んで派手な音をたて、綱吉は床へと倒れこんでしまった。

「綱吉・・!?」

再度綱吉の危機を感じ部屋へと飛び込んできたXANXUSは少し呆れ顔をして綱吉に言った。

「・・・着替えさせてやる、大人しくしていろ」

きちんと着替えを用意し、ゆっくり動けるだけのスペースもあったと言うのに綱吉はどうして落ちてしまったのか疑問だったが、まずそれよりも先に綱吉をベッドへと戻すことが先決だった。
タオルを巻きなおしてベッドの真ん中へと座らせる。
そして、ベッドのあちこちに散らばった服をかき集めて綱吉の元へと持ってきたのだ。

「どれを着るつもりだった?・・・何?」

どれも着たくないと別の方向を向く綱吉に対して、XANXUSは眉間の皺を濃くした。

「裸でいるつもりか、ドカスが。この上体調まで崩されたらこっちが困るだろうが」

他に着たい服があると荷物を取りに行こうとするが、有無を言わさずといった様子でXANXUSが目の前の服を掴みそれを身に着けさせていった。
面倒だ、という気持ちが顔に現れているほど目つきが悪くなっていたXANXUSに対して、綱吉は黙って従わされることになったのだ。
大体、面倒かけ通しなのだ。
これ以上我が侭を言うわけに、いかなかった。
結局嫌だと思ったワンピースを着せられ、最後にくしゃりと頭を撫でられた。

「こういう服を着てりゃ、ちゃんと女に見えんじゃねえか。ただでさえちんくしゃなんだ、少し着飾ることを覚えやがれ・・・それも武器になる」

綱吉の目に映るXANXUSが、少し表情を和らげた。
多分これが彼の微笑なのだろう。
その表情に心臓が跳ねたように感じた。

「食堂でカス共が待ってやがる、そこで食事でもいいか?」

頷いて返事をすると、綱吉を再び抱き上げた。
少しバランスを崩しそうになりながらXANXUSに抱きついた綱吉は、先のどきどきがまだ治まっておらず、その音が聞こえないことを祈った。
今までとは違い、何となくまたさらに優しくされている気がする。
勘違いだろうか。
XANXUSは少し気を使ってか、綱吉の体を抱き起こしながら食堂へとゆっくり歩いていった。





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