夢を見た。
XANXUSと向かいあって食事して、手を繋いで街を歩いていて。
手を繋いで歩くなんてちょっと恥ずかしいけど心が満たされて、嬉しさで少し早足になってしまう自分がいた。
幸せだ、一歩一歩進むことすら幸せだった。
XANXUSが歩幅を合わせてくれて、綱吉のペースで進みながら向かった先は小さなショールーム。
たくさんのウエディングドレスが並び、どれもキラキラと輝いて見える。
嬉しそうに選んでいるとXANXUSも横で表情を和らげた、
きっとそれは願望。綱吉が望んでいること。
今まで二人で何もない日本で過ごすことすら出来ていないのだ。
マフィアの人間である以上この先も叶わないことだろう。会えた時ですらもどちらかの状態が良くなかったことしかない二人にとって、夢でしか見られない光景。
未来の世界には望めるだろうか、二人の幸せな世界は今映る夢のようになればいい、と綱吉は強く願った。
暖かい。
寒い季節は布団から出たくない。綱吉にとってはどの季節であっても布団が恋しく感じるのだけれども。
「んー、今何時?」
もぞりと寝返りを打とうとしたが、なぜか身体が動かない。
土曜のはずだから時間を気にする必要はないし、そういう日には母も無理に起こしに来たりはしないのだ。
しかし、身体が動かないと言うのはおかしい。
ぼんやりとする頭を振ろうと首を動かすと、頭をぎゅうと掴まれて、硬い何かに押し付けられた。
「むぶっ…なに、痛い…」
「動くな、落ちるぞ、カス」
「…あれ?」
綱吉が顔を上げるとXANXUSの顔がアップで映った。
「ご……っごめん!」
焦って綱吉は身体を引こうとしたのだが、XANXUSの腕の力が強く全く身動きが取れなかった。確かに後ろに少しでも下がったら落ちてしまうのだけれども、このまま抱き止められているのは心臓と血管に悪すぎる。
朝の低い筈の血圧が一気に上がった気がした。
「狭かった、よね!? ホント、ごめん」
「上に乗っかって眠ってやがったからな」
「い、いや、あの…いつ眠ったかもわかんないんだけど…」
とりあえず、手を離して欲しいんだけど…。
綱吉の呟きを無視して、XANXUSを一層引き寄せる。眠そうに眉を寄せ、また夢の中へと入り込んでいこうとするXANXUS。昨日よりは血色もよく見えるから睡眠はきちんととれたようだ。
抱き枕のように引き込まれるのは初めてではないが、今回は完全に予想外だった。
ドクンドクン、大きな音を立てて鳴る心臓が煩い。これだけくっ付いていたら聞こえてしまっているはずなのに、XANXUSは何も言わなかった。
本当にベッドが狭いので暴れる訳にもいかないし…と困っていると、急に綱吉のお腹がきゅうぅと可愛らしい音をたてた。
「あ…」
その音はさらに綱吉の顔を赤く染めた。
ふ、とXANXUSが笑みを含んだ息を漏らす。
「健康的だな」
「悪かったね…お、お腹はすくもんなんだよ」
「悪かねえだろ、食った分だけ成長するともっといいけどな」
そう言いながら綱吉の頭を撫でてくる。
馬鹿にしているのか、愛でてくれているのか。後者だとは思いたいけれども。
自分だって少しずつ成長しているとは思うのだが、他人の目から見ればさほど変わりないのだろう。
綱吉は少し緩んだ腕から抜け出そうと身体を捩ると、XANXUSが軽く身を引いた。ぴく、とこめかみが動き、まるで今までとは逆で綱吉を避けるように壁側へとずれていく様子はあまりに可笑しな行動で、綱吉は不思議に思いXANXUSの顔を覗き込んだ。
酷く眉を寄せ、軽く空を睨みつけていて、不思議な空気がある。
具合でも悪いのかと焦った綱吉は、半分身体を起こしてXANXUSの顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
XANXUSは軽く口を動かして、何でもない、と言ったようだ。
何でもない人の行動にしては変だと思うのだが。
「お腹痛いとか?」
もしかして自分の寝像の悪さで夜中にXANXUSのお腹を蹴ってしまったとか。有りうる話である。
顔を覗きながらお腹に手を伸ばすと、XANXUSはさらに身を引き、トン、と壁に当たった。
負けじとXANXUSの引いた分だけ、お腹に触れようと試みた綱吉。
自分のせいかもしれない、痛くてもXANXUSはきっと言おうとしないのだからこっちから何とかしなくては!
しかし、手に当たった感触は腹とは違うもので。
「あれ…?」
何、これ? 硬い、けど柔らかいような?
う、とXANXUSが軽く声を漏らした。
「おい」
「なに?」
「手を離せ」
XANXUSは綱吉の手を取り、腹の位置から移動させる。痛いぐらいに掴まれた腕にぴりいと鳥肌が走った。
はあ、と大きく溜息が洩れ、その息が綱吉の髪を揺らした。
「あ…」
「悪いが、そこを触れられて平気ではいられねえんだよ、カス」
「そこ?」
どこ?
キョトンとした瞳をXANXUSに向けると、XANXUSはさらに眉を寄せ顔に影を作り、困った表情になる。もう一度溜息をついたところを見るとわかって当然なことだったようだ。
この辺の、触れられて困るもの?
綱吉は考えを巡らせ、思いついたそれにじわじわと顔を赤く染めていった。
「………っごめ、っ!」
「いや…」
XANXUSはさらに困り顔をしていた。
謝られても確かに困るだろうが、それしか言いようがないのだ。綱吉にとって馴染みの薄い男性器の事情と苦労はわからないのだから。
「あっ…あさ、ご飯の準備してくる!」
必死で綱吉は身体を起こし、ベッドから降りてすぐさま部屋を出る。そして階段をどたどたと走り降りた。
珍しく落ちなかったのは必死なせいで、死ぬ気の炎が灯りそうな勢いだったからだろう。
「…やだ、もう…」
いつもに増してドジを踏んでしまう自分に涙が出る程の恥ずかしさが込み上げてくる。
階段下でへなへなと膝を抱えて小さくなった綱吉はあああ、と暫くの間、呻き声を上げ続けたのだった。
一方残されたXANXUSはむっつりと困った顔のまま、布団の中で固まっていた。
「ありゃ、卑怯だろ……ドカスが」
余計に腰にクる、と軽く身体を縮め、自身がこれ以上成長しないように必死で円周率を心の中で唱え始めた。
この程度で理性を打ち崩していては、今日の計画が丸つぶれだ。はあ、とすでに三度目になる溜息を盛大に吐き出した。
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