「・・・オレじゃあだめだったかあ・・・?」
引導を渡して欲しくて、繰り返してまたつぶやいた。
女として、XANXUSときちんと話をすること。
そして、今日この想いをあきらめること。
そのためにXANXUSからの言葉が欲しかった。
気持ちを吐き出したのと同時に流れ始めた涙がぼたぼた落ちた。
いつもならどうでもよさそうに、返事することもなく終わることもある。
今日ばかりは、XANXUSはきちんとオレに返事を返してくれた。
「・・・間違ってることがあるな」
ギラギラした目を少し伏せ気味に、俯き加減に話し出した。
「俺が選んだんじゃねえ、あいつが俺を選んだんだ」
ぽつり、と話す様はXANXUSらしくなかった。
呟くように話を続けた。
「俺は二つの大罪をボンゴレ内で起こした、てめえも忘れるはずないだろう」
一度目は九代目、二度目は十代目候補を本気で殺すつもりで事を起こした。
本来ならば日の目を見れない存在か、もしくは存在を消されている。
そうなってもおかしくないほどの行動だったが。
XANXUSもオレもヴァリアーの面々もここに存在しているのだ。
九代目と綱吉の恩情によって、摘まれるはずだったオレ達の命は再び拾われたのだ。
「元々表立って仕事する立場じゃねえから問題ねえが、内部でも同盟ファミりーもよく思う奴らなんざいねえからな」
まあそれは、昔も今も変わったことではないが。
「ヴァリアーの解散、俺の更迭、牢獄行き、色々話は出ていた」
てめえのことも、な。
普段から多めにするXANXUSはまた一つため息をついた。
「そんな状況でも綱吉はヴァリアーを救う手段に奔走しやがった」
無茶な行動にもかかわらずだ。
声のトーンが一段落ちた、ここからではXANXUSの表情が見えないが言いづらいことを言わせてしまっているのはわかった。
「『ヴァリアーは自分の監視下に置きます、二度と同じ過ちはさせません』」
「あいつが十代目になって一番に言った言葉がそれだ。実際十代目の直属になったのもそれがきっかけだった」
オレ達には単なる政権交代のようなものだと思わせていたが、実際にはきちんと理由があったのだ。
今その事実を知った。
「要は綱吉が盾になって俺らを守ってるってわけだ」
XANXUSは目を閉じた。
『おれ、皆を守りたい』
常に綱吉が言い続けている言葉だ。
マフィアのボスとしては甘すぎる言葉だった。
「おかしいだろう、本来命を捧げるべきボスに守られてる状況だ。だがこれが綱吉だ」
「・・・」
まだ声が出せる状態にないオレは無言で頷いた。
「ヴァリアーへの干渉をやめるように言ったこともあったが、
そのときも綱吉は方針や考えは変えないしやめる気はないと全面的につっぱねやがった」
「・・つっぱねた・・」
「そういうところは頑固だからな。」
母親に似たらしい、と。
それはきっと家光に聞いた情報だろう。
「ヴァリアーという組織はなくしても、別の形で俺達に存在していて欲しいんだと」
矛盾している。
暗殺者のオレ達の存在意義を奪っても生きて欲しいという綱吉の考え。
その考えで生かされているのだ。
大きな力、それはある意味で圧力になりうることだと思った。
その考えを悟ったのか、否定の言葉からまた話し出した。
「あいつが大事なのは俺だけじゃねえ、ファミリー全員なんだ。勘違いするな」
「・・・」
「カス共の命と俺を天秤にかけて、交換条件するタマじゃねえ。わかってんだろうが」
綱吉は、ヴァリアーを生かすからXANXUSと付き合いたいなど言い出すような馬鹿ではない。
わかっている、じゃあどうして?
「そんな『ボスに生かされている犯罪者』と『ドンナ』の恋愛事、周りが許すはずがねえ」
いくら九代目の息子とはいえ、そればかりは周りの苦言も計り知れない。
「周りの怒りも苦言も全部受け止めちまう綱吉が、こわれっちまうのが目に見えてた。それでもだ」
「綱吉は俺を選びやがった」
馬鹿だあいつは、と笑って言いやがった。
幸せそうな顔をして。
らしくねえくらいだらしねえその笑顔は、満ち足りていた。
「『負担が増えるなら支えてください、反対が多いなら味方になってください。おれは貴方と恋愛したいんです』だとよ」
きっと、いつもみたいに真直ぐ相手を見ていっただろう。
そこまで予想がつくほどの、まっすぐな綱吉の言葉だった。
この前向きな考えで、俺の背中も押してくれたのだ。
「俺はこの先綱吉以外の人間に膝をつく気もこの腕に抱く気もねえ」
あいつ以外はもう考えられる訳がねえんだ。
スクアーロ、『 』
普段XANXUSが使いようもない言葉が耳に届いた。
「・・・ああ・・・」
オレの方こそ悪かったあ、とか好きでいてわるかったあ、とか。
言いたい言葉はたくさんあったが。
全部全部言葉にならず溶けて消えた。
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花言葉は静かな思い
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