「・・・なあ」
「なんだ」
その不機嫌そうに返事をする様はXANXUSそのものである。
「なんか今日のてめえ・・・変だ、きもちわりぃ!」
「あ゛?」
「別人なんじゃねえかああ!?オレに優しいなんて」
「・・・何言ってやがる、てめえは上司の顔も見忘れたか」
「いや・・・」
この男に着いて10年どころではない。
忘れるどころか夢にまで見るほど相手だ。
もちろん、見間違えなどしたことがない。
感覚ですでにわかるほど、心にも身体にも刻まれているのだ。
「オレの知ってるボ・・・XANXUSはあ、オレに優しくしたりするような奴じゃねえはずだああ!」
そうだ、オレを傷つけるのがボス、XANXUSだ。
「女扱いしたり抱えあげて運んだり、傷の治療をしたりする奴じゃねえはずだああ!!」
行動一つとってもらしくないのに、それを纏めてされたオレはもう大混乱だった。
声を荒げる、とはいかないまでもいつも以上の声で疑問を投げつけた。
元々声の大きいオレの叫び声をまともに受けたXANXUSは。
眉間に皺を増やし、面倒くさそうに目を通していた新聞を置いた。
そしてこちらに向き直してから言った。
「じゃあてめえの目の前にいるのは誰だというんだ?あ?」
「ぅ・・」
「カスに目を配るだけでもめんどくせえっていうのに、キャンキャン叫びやがって」
不機嫌が態度にも表れて始めている。
オレ自身もしまった、と思った。
怒らせてしまったかと思ったのだが、XANXUSらしくない行動はまだ続いていたのだ。
疑問に対しての答えを話し始めた。
「綱吉に、色々言われてる。あいつがそうしろといったからな」
「綱吉が・・・何だって?」
「慣れてしまうほどあいつの行動に付き合わされたからな、嫌になるほど身についてやがる」
「あ・・・?」
急に話の通じなくなった自分のボスが、ため息をつきながら話を続けた。
「『初めてオレをエスコートしたときのようにスクアーロをエスコートしてあげてね』だとよ」
「え」
「てめえの今日の行動はすべて綱吉の予想通りだったわけだ、あまりに一緒で笑えるがな」
「なに・・初めてって・・・あ゛!」
オレ自身の記憶からは消し去ってしまいたかったあの『十代目お披露目パーティ』のことを指しているのだろう。
あのXANXUSの表情は今でも思い出して苦しくなることがあった。
「慣れねえ靴履いて足に傷つくってみたり、歩いてみたらヘロヘロだったり、強がりだけは一人前。そっくりじゃねえか」
おかげで楽しませてもらったがな、と付け足して。
よく考えてみたら、あまりに似た行動を取るオレと綱吉。
綱吉はそれを予想できていた分、手を回してくれていたということだ。
XANXUSに心配されるなんて気持ちわりいが、それでも。
綱吉と同じ扱いしてもらえたのは少し、嬉しかった。
「あいつ、未だに歩くのも下手だし、しょっちゅう足に傷作ってやがるがな」
ポツリ独り言のように言ったその言葉は聞かなかったことにしよう。
オレももしかしたら、そうなるかもしれないわけだな。
「あいつ、色々考えてくれてたんだなああ゛」
「普段からカス共に気をかけすぎだ、だからトラブルに巻き込まれやがるし」
「らしい、じゃねえかあ」
「まあ・・な」
なにかを思い出したかのように、ふっ、とXANXUSが笑った。
同じ部屋にいるのに、見てる先はオレではなく別の存在。
オレは見えてないのかと思うくらい。
せめて、ここにいるときぐらいはオレを見て欲しかった。
「なあ・・・なんで綱吉なんだ」
「急に・・・どうした?」
「なんで、綱吉を選んだんだあ?」
突然オレに投げかけられた疑問に、XANXUSは面倒くさそうに答えた。
「・・・あいつだからだ」
「何でだよ、あいつが十代目だからか?それともあいつの強さかあ!?優しさか!?・・女神のような雰囲気かあ!?」
「何言い出しやがる、ドカスが」
XANXUSがいつもと違うオレの雰囲気を悟ったのか、声を荒げるオレを止めようとした。
それでもオレは続けた。
「なあ、あいつとオレ、何が違う?なあ、オレじゃあダメなのか・・・?」
半分泣きそうになりながら、声を振り絞って言った。
わかってる、本当はわかってる。
オレ、じゃダメなんだ。
XANXUSの目に写るオレは、何もかも足りないし何も満たしてやれない。
自分でもわかっているというのに。
どうしてもXANXUSからの、言葉が欲しかったんだ。
back/next
背景画像:雪柳
花言葉は静かな思い
背景画像提供→空色地図様