車から降ろされ、慣れない足取りでホテルを見て回ることになった。
もちろん、XANXUSについて回るわけだが。
容赦ない速度で歩み進むXANXUSの歩幅に足が着いていかず、5分と経たずに靴擦れができてしまった。
本当に慣れない事などするものではないと実感した。
しかし時既に遅し。
傷が痛むのを隠しつつ、綺麗に歩くように心がけた。
ホテルマンが内装だの部屋だの説明してくれているのをほぼ聞き流して着いて行く事だけに力を注いでいた。
そんな無茶は、他人には気づかなくてもXANXUSにはばれてしまっていた様で。
これ以上歩かせることが無理だと判断したのかホテルマンに声をかけた。
「連れが足を痛めた。時間よりも早いが、部屋に入らせてもらいたいのだが」
と、ヴァリアーの面々がここにいたなら全員が固まってしまうほどの丁寧な口調で言い放ったのにはオレも目を丸くした。
「すぐに用意いたします。医者もおりますが、呼びましょうか」
「そこまではいい。少し休ませたいだけだ」
「かしこまりました」
すぐに手配いたしますと、支配人であろう男が方々に指示をし、連絡を取り始めた。
ひとまず、近くの部屋を開けてもらい休ませてもらうことにした。
もうすでに長い距離をこの靴で歩くのはつらいと思っていたオレには幸いなことだったが。
部屋に向かおうと歩き出した足を持ち上げられ、体が浮いた。
XANXUSがオレを抱えあげたのだ。
そしてそのまま部屋に連れていかれ、ソファに投げ出されるまでオレの思考回路はストップしたままだった。
「・・・・う゛あ゛ってっ・・めえ」
「たかだか5分程度歩いたぐらいで足痛めやがったのはてめえだろうが、このカス」
「ぐっ」
「いいから休みやがれ」
口調はいつもどおりだが、言うこと事態は以前とは比べようがないほど優しすぎて。
嬉しいのか困るのか悲しいのか、感情がぐるぐると入れ替わってるような感覚に陥るほどだった。
XANXUSはオレをほおり投げたあと、支配人と話すためにか、部屋の外へ出て行ってしまった。
さすがにあきれられるよな、と納得して気を抜いた。
張り詰めていた身体を少し気を抜いたことで、疲労も感じられた。
女の格好をすることがこんなに大変なことで、こんなにXANXUSに迷惑がかかるなんて思っても見なかったことだった。
「はああぁあ゛、女ってめんどくせええぇんだなあああ・・・」
早いところ足の傷を何とかしてしまおうとまず靴を脱いでみた。
脱ぐときすら痛みを感じた自分の足は、広範囲に渡って大きく傷が着いてしまっていて。
さらに悪いことに、無理やり履かされたストッキングもすでにボロボロ。
無残な足になっていた。
綱吉がこんなことがある、絶対にあると断言していたが本当だった。
助言通りに持ってきた換えのストッキングが役に立とうとは思っていなかったが。
綱吉の読みは大正解だったというわけだ。
靴のヒールさえなければ、と思っても後の祭りで。
今、XANXUSがすぐに戻ってきてもいいように準備だけはしなくてはと。
バスルームで血を洗い流した。
自分で傷を作るなんてことは最近はなかったな。
流れていく血が不思議な模様を作っていた。
バスルームから裸足で部屋へ戻るとちょうどXANXUSが何かを持って戻ってきたところだった。
「休んでいろといったつもりだったが」
「あ、しを洗ってきたんだああ!このままじゃ血が周りについっちまうだろうが!!」
「カス、今オレがやってやる」
「は・・?」
何を言い出したかと思ったら。
XANXUSは再びオレをソファへ投げ出した。
そして持っていた箱から消毒の道具を取り出して、足の傷の消毒をし始めた。
この行動をしているのはXANXUSである。
そう考えても理解できない行動だった。
あまりに驚きすぎて、箱は救急箱だったんだなあなどと別のことを考えてしまっていた。
思っていたよりも丁寧に手際よく傷の処理を終えたXANXUSがオレに一声かけるまでオレは呆然と治療されていた。
「終わったぞ」
「・・・・あ゛・・・お、おお。わりぃ、ボス」
「・・名前で呼べといっただろうが、ドカス」
「あ・・わりぃ、ざ、んざす」
何もかもがいつものXANXUSと違いすぎて動揺を隠せない自分に、いつもの口調でXANXUSが言った。
「夕食まではこの部屋を使わせてもらえることになっている、それまで休んでいろ。」
「お、お゛う」
「もし歩くのがつらいなら、部屋に食事を運ばせる。わかったか」
「・・・・おぉ」
返事はしたものの理解には時間がかかった。
さらに理解した頃には、あまりにXANXUSとかけ離れたこの男の行動に疑問すら沸いた。
これは本当にXANXUSなんだろうか?
オレはいつも平気で殴りつけてくるXANXUSしか知らないから。
物を投げつけては傷つけて笑うXANXUSしか知らないから。
何回見返しても、そこ男の顔はやっぱり自分の上司の顔だった。
back/next
背景画像提供→空色地図様