ルッスーリアに立ち方、歩き方をみっちり直されて。
「がに股で歩くなんてもってのほかよ!!」なんて怒られて。
XANXUSが待っているであろう車にたどり着いたのは、呼ばれてから15分を過ぎた頃だった。


「遅え」
以前よりもだいぶ気が長くなったとはいえ、部下のオレが長く待たせてしまうなどということはあってはならないことだった。
「わ・・・悪い・・・準備にてまどっちまってえ」
あの赤い目がこちらを睨んで、ため息をついた。
「言い訳はいい、早く乗りやがれ」
普段なら自分がとっとと先に乗って、へたすると先に行っちまってるのに、今日は何故か車の横で待っていた。


しかもオレの手を取り、車に乗せてくれようとしやがった。


びっくりしてオレは奴の手を振り払い後ずさった。
「なななななな!何しやがんだよボスッ!!!!」
当たり前のように行動するXANXUSに対してオレは思い切り混乱した。

「同伴女性を車に乗せることの何がおかしい?当たり前のことだろうが、このカス」
「じっ自分でのれええぇりうあ・・・う゛お゛っ」
格好が格好なら軽く避けられるのだが、着飾ったこの格好でXANXUSの動きを交わすことは出来なかったオレは
無理やりに手を取られ、無理やりに車に押し込まれた。

「俺がエスコートも出来ねえ輩と一緒に思われてえのか!?あ゛?わかったら黙って従いやがれ、カス」
車を覗き込むような体制でオレを睨みつけXANXUSはそう言い放った。
そしてオレの隣に乗り込んで車を出すように指示をする。
何事もなかったかのように、車はホテルに向けて進みだした。



手を取られ、されたこともないエスコート(と呼べるものかはわからないが)をされ。
そして今、密室の隣には自分のボスXANXUSが座っている状況。
もちろん、もう逃げられない。
そんな状況にオレの心臓はバクバク周りの人間に聞こえそうなほどの音を立てていた。

緊張だけなら、初代剣帝との対決前くらいのものだったが。
そのとき以上に混乱やら戸惑いやらが同居している今のオレは自分でも訳わからないほど落ち着くことができなかった。

「こんなときでも落ち着きねえんだな、てめえは」
「・・・っ、慣れねええんだよぉこんな状況、普段ありえねえだろうがあ」
「任務だと思えばいいだろうが、カス」
「任務でこんな格好するわきゃねええだろうがああ!!!だいったいてめえが」
「何だ?高々車に乗せてもらった程度のことでそこまでうろたえる必要があるのか?」
「ぐ・・・・」

ある程度悪態でもつけば気持ちが落ち着くかと思ったのだが、それすらも出来ぬうちに口を止められてしまった。
余計に顔が火照る。
上手いこと黙らせられたのが嬉しかったのが、XANXUSがククっと笑った。


結局、ホテルに着くまでの道中、小さくなっている他なかった。





ボンゴレの手がけるホテルは大体が世界に名が通るものばかりなのだが、今回はその中でもまた最上級の演出をするために手がけられたものだった。
一見さんお断り、ということだ。

「う゛お゛、すっげーとこじゃねえかああボス!あいつらこんな仕事までできるようになったんだなあ!!」
「おい」
車中からホテルのでかさやら凄さやらをまじまじと見ていたオレに、XANXUSが怒った口調で睨みつけた。
騒ぎすぎたか・・?と焦ったが、XANXUSの思うところは別にあった。

「カス、直すように言っておいたはずだが?」
「は?」

直す?何を?
直されたことといえば、直前に歩き方やら立ち振る舞いやらを学んだぐらいで他に思い当たる節がなかった。
大声上げたことがダメだったのか、それとも口調か?
こればっかりは直すとなると年単位かかることになるだろうが、そうなると黙ってるしかないかと思っていたら。


「招待客として行く奴が、相手のことを『ボス』などと呼ぶのか、ドカス」
「あ゛」


言われてみればその通りだった。
「呼ぶなら名前で呼びやがれ」

スクアーロ




先ほどの火照りが幾分落ち着いてきたと思ったら、あっという間にまた真っ赤に戻ってしまった。
たかが名前、されど名前。
その名前を呼ぶその声に、どきりとしてしまった。

オレも名前で・・・。

「・・・XANXUS・・・」
「何だ」
「ち・・・ちょっと呼んでみただけだああっ」


めったに口に出すことのないこの呼び名。
学生以来ではないにしろ、ほぼ呼ぶことがなかったので恥ずかしかった。


ヘタレと言われても仕方がない。
結局、ずっと黙っていることになりそうであった。














backnext




背景画像提供→空色地図