ホテルの視察のために綱吉が用意したものは洋服だけではなかった。
今回は護衛で行くわけではなく、あくまでゲストとしていくわけで。
そのためにはある程度きちんと着飾らなくてはいけないらしい。
初めてエステというものを体験し、他人に髪をいじられ、化粧を施され、さらには下着までいつもと違ったものを身につけさせられた。
ルッスーリアが常に付いていてくれて、
「エステは気持ちいいものなのよー、心の洗濯なのよぉっ」などと言っていた。
他人にあれこれいじられるのが苦手な自分にはまったく理解できなかったが。
ただ、女というものの涙ぐましい努力は身に染みてよくわかった。
「女ってえのは本当に面倒なんだなああ・・・」
今までホテルに行くにしても、護衛か潜入かのどちらかしかなかった。
本人が意図して利用する機会でも、着飾ることなどほぼ皆無であったオレはハイヒールすらはいたことがなかったのだ。
朝からずっと仕度に時間を取られ、全身の装備が整った今のオレはもうくたくただった。
逆に忙しく準備したこともあって、下手にずっとXANXUSのことを考える暇を与えられなかったのは幸いなことだったのかもしれないが。
「入るよ、スクアーロ?」
ノックもそこそこに綱吉が様子を見に来たのだ。
「ルッス、今日は有難うね。」
「とぉんでもないわあ、ツナちゃんのお願いなら全然おっけぇよぉ!その代わり・・・」
「うん、わかってる、約束してきたよ」
「いやぁあん、ありがっとーっ!」
何の約束を交わしていたのかわからんが仲よさそうにいつも会話をする二人だった。
そんな二人をオレはため息交じりで見ていた。
やっとこちらに向いた綱吉が俺を見て一言いった。
「うわぁ・・・やっぱり綺麗だね・・・」
「ほんとぉよねえぇ、せっかく綺麗に産まれたっていうのにこの子はそういう方面に無頓着だから勿体無いわよねぇ」
いつもの仕草でため息をつくルッスにオレは複雑な表情で返した。
「用意した服、サイズ合ってたみたいだね。よかったぁ」
「ああ、多少腹んとこがだぼつく以外はなぁ」
「もう一日時間が取れたら作らせたんだけどね、今日はこれで我慢してね」
普通の女よりも身長が高く体型もタイトな方なので普段は男物を着用しているオレだったが、今日ばかりはそういうわけにもいかなかった。
ある程度の出来合いの服から手直しを入れて、伸ばしたり詰めたりしてもらったようだが。
それでも、最近食事の量が心なしか減っていたらしく、少しオレの腰の方が細身だったようだ。
「足元がすーすーして落ちつかねえ」
「それは・・・慣れてもらうしかないんだよ。おれもしばらくかかったけどね」
今では何度となくドレス着用の場に出る機会が増えた綱吉がぽそっと言った。
一朝一夕のものではない・・んだな。
「そろそろお時間です」
準備を手伝ってくれた綱吉の部下が伝えにきてくれた。
「お・・おぉう」
いざ出陣となると緊張する。
その気持ちがわかったのか、綱吉が俺の手を取って言った。
「スクアーロ、楽しんできてね」
力いっぱい背中を押してくれた。
頑張ってとも言ってくれた。
おもいっきりいい笑顔で送り出してくれた。
やっぱり綱吉はすごい女だと思った。
そんな綱吉に対してオレは無理して作った苦笑いしか返せなかった。
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