「・・・・・」
言いたいことはたくさんあったが、何か言ってしまってはすべて壊れる気がして。
オレは何も言わずに黙っていた。

それを察して、綱吉は続けて話しだした。
「もし、もしもの話だよ、スクアーロが先にXANXUSに想いを伝えていたら」
「そんなことあるわけねーだろおが!」
つい、声を荒げてしまった。

少しだけびっくりした様子で、でもまた落ち着いて話を続けた。
「うん、だから『もしも』なんだって。・・・その後に、XANXUSに出会ったおれはスクアーロと同じ想いを抱いていたかもしれないんだなって考えてさ・・・」
どこまでも自分中心に考えちゃってごめんね、とまた綱吉は謝った。


「その世界では、おれがドンナになっていてXANXUSはあくまで部下で。でもそれ以上のことはなにもなくて」
「・・・ん」
「毎日、違う人を想って、違う人の元に帰っていくなんて考えたらさ・・・」
「だから」
遮るように声を出したが、その声をさらに綱吉が遮って続けた。
「『そんなことねー』かな?おれもきっと同じこと言うよ?」
「う・・・・お」
そこで言い当てられっちまうとどもっちまった。



「おれさ、たとえそんな状況になったとしてもXANXUSのことあきらめられない。絶対あきらめたくない。」
真直ぐこっちを向き直して、く、と顔を上げて言った。
「多分その気持ちはスクアーロも同じだと思うんだよ」



す、と綱吉は一枚の書類を渡してきた。
懐から出したその一枚の紙ぺらは、ご丁寧に死炎印まで記してあり、オレ宛になっていた。
「これは、おれからのお願い」




『S・スクアーロ様
ここ数ヶ月の働き、大変感謝いたします。
感謝と慰労の意をこめまして、
2日間の休暇とその期間のホテル滞在を命じます。
期間中に、直属の上司と共に
同ホテルの視察をお願いいたします。』




「・・・これは何だああ?」
「おれからの勅命、死炎印入ってるでしょ?」
「・・・じゃなくてだああ!ホテル視察ってえのはなんだって言ってんだああ!」
「これ?この間、やっと手がけてたホテルが完成したんだけど、なかなか時間取れなくて視察に出向けなくて。」
「他の誰かにぃ」
「守護者の皆も今、別の事業に人手で取られちゃってるから無理なの」

オレだって他の連中が忙しいということは知っていた。
この間、タケシもぼやいていたがそれ以外にも。
暗殺部隊だというのにもかかわらず、こちらにも護衛やら何やら関係のない仕事が回ってくることがあったくらいだ。


「ヴァリアーの方の大掛かりな仕事、ひとつ立ち消えになったからお願いしちゃおうと思ってたんだ。よろしくね。」
「・・・だからって・・・」
「わかってると思うけど、上司はXANXUS。一緒に行くんだからね」
口をへの字にして、子供に諭すかのようにオレに話す綱吉。
俯きがちになっていた顔を上げ、オレの目を見て、こう言った。


「あくまで視察は手段にすぎないからね」
だから・・・


「ちゃんと、スクアーロの気持ちを伝えてきてください」






綱吉は笑顔だった。
ただ、その目には涙が流れていた。

「自分勝手なお願いだってわかってるんだ。全部おれが勝手にこういうことするのはよくないんだってのもわかってるんだ。」
ぱたぱたと涙を流しながら、一生懸命に綱吉は伝えようとしていた。
「でも、おれスクアーロにもちゃんとお祝いして欲しいから・・・気持ちの整理つけてきて欲しい・・・です。」




綱吉はバカだと思う。
自分の好きな相手に塩を贈るまねをするなんて。

今更男と女としてXANXUSと向き合うなんて出来るわけがない。
でも綱吉は、向き合って来いと言った。
しかもその相手が自分の婚約者だというのに。

それだけ愛されてる自信があるということでもあり、それだけ周りにも甘いということでもある。
ああ、これが『愛される』人間なんだな。


それで綱吉の気持ちが晴れるなら、オレもそれを引き受けなくてはならない。
痛みを与えたのはオレ、だから報いを受けるのもオレだ。

XANXUSにはまともにこのところ顔を合わせていなかったから、顔を見るのもつらいけれども。
長いこと続いた痛みを、整理つかない心を、治めに行く機会はこれで最後かもしれないから。
引き受けて、すべてと決別してこようと思った。





「綱吉・・・オレはタキシードしか持ってねえぞお?それでいいのかあ?」
「!!行ってくれるの!?」
「ああ・・・ドンナボンゴレのご命令だろぉお?」
「ありがとう、スクアーロ。・・・着て行く服はこちらで用意するから!後で届けさせるね」


誰かがドンナは聖母のようだといっているのを聞いたことがあった。
今、俺に向けられた彼女の笑顔は本当にそう思えるほどおだやかだった。
つられて、オレも笑った。

「スクアーロ、XANXUSのこと、よろしくおねがいします」
彼女に惹かれたXANXUSの気持ちはわからないが、綱吉の良さは少しだけわかった気がした。












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花言葉は初恋


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