「あのね」
まるで幼子の話し出しの様に綱吉は言った。

「昨日から今日の昼過ぎくらいまで、昨日話してくれたこと考えてたんだ。」
『御伽話』のこと。
仕事進まなくてリボーンにも怒られたんだけどね、と笑いながら言っているが、本人にとっては笑い事ではなかったのだろうに。
『十代目』に一番厳しく指導するのはあの最強暗殺者を前にしてもなお、仕事が手につかないほどの大事のようになってしまったはずだ。

「おれね、女であっても得したことが全然なくてさ。名前も男名前なものだから男に間違われることもしょっちゅうでさ、ハハ。」
生理痛もひどいしさ、女の子大変だよねーと笑っていった。
「その名前、かわいい響きじゃねえかあ?てめえらしくて」
「ん、ありがとう。でもこの名前って昔のお殿様の名前で・・・あ、王様のほうがわかりやすいかな?」
「王様・・・なのか」
「うん、それも格好のネタになったんだけどね。馬鹿にされる原因のひとつ」
古臭い名前だし、と俯いた。
しゅん、となった表情が急に明るくなったと思ったらやっぱり笑顔だった。
つらい思い出、なはずだがニコニコと綱吉は話した。


「でも、今はこの名前好きだよ。スクアーロと同じでね、XANXUSが響きが良いって褒めてくれたんだ」


ああ、これか。
途端に女の顔になる綱吉。
また、恋をする顔をオレに見せんのかよ。 やめてくれよ、つらいんだよもういやなんだよ。
恋なんざ見たかねえんだよ。


でも、オレと同様に綱吉も苦い思いを持たせてしまったのだから。
ぐ、と奥歯をかんで我慢する。
それがオレにできる今の償いだろう。



その苦い顔に気づかないように綱吉は話し続けた。
「今のおれはXANXUSがいるから、いてくれるから頑張れる。あの人が生きやすいように世界を変えるのが目標になったんだ」
他の人には内緒なんだけどね、と付け足して。
「初めて、おれ自身が女でよかったと思ったのはあの人を好きになったときだったよ」


「でも、多分それってスクアーロとは正反対だったんだよね・・・」



ドクン、と心臓がなる音が聞こえた。
オレの音か、それとも綱吉の音か。


「今は変わったけど、昔のヴァリアーは男性のみの部隊構成だったから女じゃ入隊不可能だった、そうだよね・・・?」
色々考えた、の内には調べた資料もあったのか。
綱吉の行動力には驚かされる。


「あれも見たのかぁ、オレの手術記録。残ってたんだろぉ?」
「・・・うん、まだあったよ。ごめん・・・」
その手術記録を知っているとすれば、オッタビオくらいのものだった。
それも過去の話だが。
例えそれが大っぴらになったとしてもオレはオレである事は変わりない。
そうずっと思ってきたのだから。

「別に故意に隠し通してたわけじゃねえ、聞かれねえから言わねえまでだ」
「それでも、踏み入っていいことではない、と思うんだ。だから・・・ごめん」

強がり、のつもりはない。
本気でそう思っている。
だけど、同情されるのは気に食わない。

てめえみてえに力があったなら、オレだって。





子宮を捨てるなんてことしなくてもよかっただろうけどよ。
―――それは心の奥に刻まれた言葉だった。









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花言葉は初恋


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