タケシに連れられて部屋に戻ったオレは、医務室から渡されていた鎮痛剤を飲んだ。
その後は痛みも薄れ、疲労のせいもあり、また眠りについたのだが。
丸一日そのまま眠ってしまった。
普段長く睡眠を取ることのないオレにとっては、ほぼ初めてに等しい休息の取り方だった。
「ちっと寝すぎたかあ・・・」
鎮痛剤はとっくに切れているはずだが、頭痛も腹痛も体の痛みもほぼ感じないほどに治まっていた。
八つ当たりで消えちまうほどの痛みだったということか。
「・・・綱吉にはわりいことしたわなあ・・・」
攻撃対象にしてしまった。
言ってスッキリするのは自分だけ、それで何か状況が変わるわけではないというのに。
XANXUSと綱吉の婚約の話は決まってしまったことなのに。
あいつを困らせて楽しいわけでもないのに。
「とりあえず、何か食うかあ」
元々あまり食べないオレは気をつけて食事のことを考えないとすぐに何食も取り忘れたりするのだ。
丸一日眠ってしまったということは、それだけ食べていないわけで。
自室には食べ物を置く習慣がないため、食堂にいかなくては食事にありつけない。
めんどくせえ、と思いつつも着替えして向かうことにした。
着替えの途中で、扉をノックする音が聞こえた。
「お゛う?誰だ?」
「綱吉です、スクアーロ起きたんだね?」
ドキッとした。
さっきまで考えていた相手だからだろうか、まだ顔を合わせづらかった。
事態を先延ばしするわけにはいかず、用があるならとっとと済ませてしまいたかったので、
着替えの途中だが呼び入れることにした。
「はいっていいぞぉ!」
「あ、ごめんまだ着替え中だったんだ」
綱吉はなぜか顔を赤くする。
「別にかまわねえよ、見られて減るもんでもないし。」
「減りそうもない十分な体型だからいえるんだよその言葉・・・」
綱吉の独り言とも取れる言葉は無視して、話を進めるように言った。
「用事は何だあ?オレは食事に行くつもりだったんだけどよぉ」
着替え、とはいえYシャツを着るだけで過ごすことにしたのですぐに済んだのだが。
とっとと食事も済ませてしまいたかった。
慣れているとはいえ、薬だけ胃に入れてしまったのはあまりよくないであろうし。
その言葉に綱吉は嬉々として返す。
「これからご飯!?じゃあ一緒に食べようよ!」
おれ忙しくてサンドイッチしかたべてないんだーなどと明るく誘ってきた。
「お゛・・・い、いや」
と断ろうとした瞬間、思い切ったオレの腹の音が鳴り響く。
本当は一緒に食事など御免被りたかったのだが、空腹には勝てず一緒に食事を取ることになったのだった。
もっと気まずい空気で飯を食らうことになるかと思っていたのだが。
綱吉は他愛もない話をこちらに振ってくる。
まるで女共がするかのように会話をしながら、食事を取った。
昨日の話題は振らないように、お互い気をつけながら。
「うん、おいしかったーっ!たまにはお魚とお米が食べたくなるんだよね」
「てめえのどこにそんだけの飯が入ってくんだあ゛あ゛!!?」
「え?まだ食べるつもりなんだけど。今日はアイスもあるんだって!」
目の前のちっこい体があっという間に大盛りの定食をたいらげ、今なお次の食事に移ろうとする姿には胸焼けがした。
さっきのサンドイッチとやらもただの量ではなかったと予想できるほどだ。
一皿のサラダがまだ半分以上残っているオレは綱吉のただならぬ食べっぷりに食欲を失っていた。
「スクアーロ、もう食べないの?」
「・・・これから食べるんだあ、早食いは身体に悪いんだぞぉ」
返す言葉に覇気がなくなる。
いらないといったらきっとこのサラダもあいつの口に消えていくだろう。
「それにしたって遅いほうだよ!守護者の皆なんて、もっと早いんだから。」
ゆっくり食べてたら、食いっぱぐれちゃうよぉ!と主張した。
そりゃあの伸び盛りのでかい野郎どもと飯食ってたらこうもなるんだな。
変に納得してしまった。
「それにしたって、てめえの飯取るヤツなんざいねえんだからゆっくり食いやがれ」
「う、うん。それXANXUSにも言われたんだよな・・・」
あ、という声は出ていなかったが。
綱吉の顔には、しまった、と書いてあるかのような表情を見せていた。
用事、はやっぱりこれだったんだな。
だったらさっさと話せばいいものを。
「・・・もう少しスクアーロと話したかったんだけど・・・」
く、とこちらに向きなおして話し始める。
「本題に入らせてもらうね」
こちらも一呼吸おく余裕があり、気持ちを落ち着けた。
綱吉の『反撃』を受ける気持ちは作ったつもりだった。
ただ、それは防壁としては何の役にも立たなかったのだけれども。
back/next
背景画像提供→空色地図様