そのときは、気まぐれで思っただけだった。
いっそ、困り果ててしまえばいい。
待ってる時間の長さが、体の痛みが。
あとは、腹にたまったもやもやを吐き出したかったのかもしれない。
オレの秘密。
聞かせてやるよ。
「なあ、綱吉」
「ん?スクアーロも飲む?」
こういったちょっと時間が取れたときにお茶を出して飲むのが綱吉の習慣だったようで。
どこからか出してきた茶器を片手に暖かい飲み物を入れていた。
「いや、飲み物はいらねえ」
「おもしれぇ話してやろうかと思ってな。御伽話ってやつだ」
「え!御伽話・・・?」
多分、オレが御伽話を知ってることに驚いたのか。
不思議な顔をしていたのは気になったが、そのまま話し始めた。
昔むかし、あるところにとてつもない大きな炎に憧れた女がいました。
その女はある日、炎を纏った男に出会いました。
一目で女は恋に落ちたのでした。
しかし、その炎の男は一国の王様だったのです。
女は一介の娘に過ぎず、身分違いの恋だと知りました。
それでも女はその男のことがあきらめられず。
恋として実らないならば、せめて傍にいることを願って、
『女』としての自分を捨て、
剣士となって男に仕える道を選びました。
王様はその想いに気づかずに、他の国のお姫様と結婚して
幸せに暮らしましたとさ。
「お仕舞い、だあ」
「・・・スクアーロ、それって・・・」
うまいこと話してやったと思った。
綱吉はしばらく考えてから、俺に何か言おうとしたのだが。
いいタイミングでノック音が部屋に響く。
「ツーナー?」
タケシが丁度よくやってきたのだった。
「山本、あ、悪かったね。着て貰っちゃって」
「今日の分、もう終わりだったから平気なのな。それで用って・・」
「オレだあ゛、小僧!」
「!?スクアーロ!」
タケシのことはオレも相当気に入っている。
タケシ自身も、かなり慕ってくれているのはわかる。
だからこそ、こいつを呼んでもらった。
「久しぶりなのな!」
「おう゛、急でわりいんだけどよぉ、オレを部屋まで運んでくれねえかあ?」
「え?ああ、いいよ。」
でもさー、小僧って呼ぶのそろそろやめね?と言いながら、オレを立たせてくれた。
タケシに凭れ掛かりながら、鈍い身体を必死に動かした。
「オレに勝てるようになったら、名前で呼んでやるぜえ」
笑いながら答えてやった。
「ねえスクアーロ?」
「綱吉、オレはさっき『御伽話』って言ったぜえ?」
それ以上は何も言わない。
綱吉もそれ以上の答えを望めないと踏んだのか、何も言い返さなかった。
オレはタケシに引きずられるようにして部屋に戻った。
よほどオレが軽かったらしく、食事を増やせとか心配してくれるタケシには本当に感謝した。
とうとう、綱吉に攻撃を加えてしまった。
自分の中だけで抱えていれば良いのに。
痛いのは自分だけ十分だというのに。
いつまでも軽くならない痛みのせいにしてしまいたかった。
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背景の花:秋明菊
花言葉・遠ざかっていく愛情
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