XANXUSと綱吉が婚約することになった、らしい。
内々に事を進めていたため、知らされていたのは幹部の中でも一部の人間だけだった。
オレに伝えられた頃には、周りの人間は皆、その事実を知っていた。
薄々気がついてはいたものの、実際に伝えられるとダメージはでかかった。
気づかないようにして、現実から逃げていれば楽になれるわけではなかった。
十代目のお披露目の後から、ちょくちょく出てくる腹の痛みがこのところはずっと付きまとうようになっていた。
「そろそろ、医者にでも見てもらったほうがいいのかあ」
精神的な痛み、だということはわかっていた。
特に二人が仲よさそうにしているところに遭遇すると痛みが増していたから。
こうも長く痛みが続くと気になった。
何もないのに、痛む、なんて。
変な話だと思った。
XANXUSにもできるだけ会いたくなかったため、仕事を無理にでも入れるようにしていた。
少しでもヴァリアーの本部から離れて、顔を見ないようにしていた。
だが、その仕事の量が多すぎたため少し疲労がたまっていたように感じた。
腹の痛みもそれが原因かもしれない。
今日の報告書を提出したら、後は少し休暇が取れるようにしないとな。
そう考え、足を進めた。
向かう先はXANXUSの執務室。
目の前の報告書はXANXUSに直接提出することになっていたため、今日は会うことを避けられない。
ならば少しでも先のことを考えて気分を変えようと思った。
部屋でゆっくり剣の手入れをしようか、それとも久しぶりに買い物にでも出ようか。
暇ならルッスでもベルでも誘ってみるか。
早く目の前の重たい紙を出してしまってすっきりしよう、そう考えつつ進んだ。
以前はノックすら面倒で、ドアを蹴り開けてよくXANXUSにモノを投げつけられていたが、
最近はきちんとノックをしてから入るようになった。
成長、じゃない。
ただ、綱吉に向けて笑顔を作るXANXUSの顔など見たくなかったからだ。
ドアの前で深呼吸し、ノックをして返事を待つ。
が、いつまで経っても返事がなかった。
留守、か?
ならば逆に好都合、報告書だけ置かせてもらおうと勝手に扉を開けた。
「ボース!?いねえのかぁあ!?」
一応、声をかけながら部屋に入る。
しかし入ったことを完全に後悔した。
そこには一番オレの会いたくない人物が佇んでいた。
「綱・・・吉」
「あ、スクアーロ!」
無防備に向けられた笑顔が、あちこち刺さっていくのがわかった。
腹が痛む。
何で居やがるんだよ、てめえが。
「ひさしぶり、元気だった?他の皆には会う機会あったんだけど、スクアーロにはなかなか会えなかったもんね」
そりゃあ、オレがてめえを避けてるからだ、などとはもちろん言えなかったが。
あからさまに不機嫌そうな顔を出して、綱吉を向く。
「ああ、まあまあ何とかやれてるぜぇ」
問題はねえよ、とぶっきらぼうに答えてやる。
早くこの場から立ち去ってしまいたかった。
綱吉は、オレと久しぶりだから、といって話をしたがった。
もちろんごめんだ。
「オレはこの報告書を出しに来ただけだあ。これ、XANXUSに渡しておいてくれぇ」
こっちの用事はこれだけだから、無理矢理綱吉に報告書を渡してこの場を去ろうとしたのに。
綱吉はオレの腕をつかんで止めた。
「スクアーロ、この報告書は直接提出のものなんじゃないの?」
「あ゛?お゛お」
「そしたら、ちゃんと自分の手で渡して。もう少ししたら戻ってくるから。」
ヴァリアーはその辺、もう少し厳しくしてもらわないとー、と十代目らしい発言をする綱吉だったが、オレはそれどころではなかった。
この部屋に来ることさえかなりつらかったというのに、
さらに綱吉と鉢合わせをし、この上XANXUSまで来るだなんて、本気で耐えられなかった。
「いいんだよ、いつも俺たちはそうしてんだからああ゛あ゛!いいから離せえぇ!」
つい、いつもの調子で腕を振り上げて。
その腕が運悪く綱吉に当たり。
またさらに運の悪いことに綱吉の顔に爪で傷をつけてしまった。
「った」
「っ!・・わりぃ、大丈夫か・・・!?」
「ん、このくらい平気。ごめん、無理に引きとめようとしちゃったからだよね。」
おれが悪いから、謝らないで。と綱吉は顔をこちらに向けて。
その途端に急に青ざめた表情をした。
「・・・ざ・・・XANXUS・・?」
怒りに満ちたXANXUSが扉を開けた状態で立っていた。
「っこのカスが、何しやがったあっ!!」
「っ!XANXUS、だめえっ!」
XANXUSの振り上げた拳を真っ向から受け止めた。
当たり前だ、自分の女が傷つけられるのを見て怒らない男などよほどの変態か不感症だろう。
俺は殴られて当然だった。
その拳が当たったあたりまでは記憶があった。
痛かった、と思う。
思うというのは、その一発でオレは気を失っていたからだ。
暗殺部隊NO.2ともあろう者が、この程度の一発で気絶するなど恥さらしだと思った。
悪条件が重なりすぎたことも、こいつらを目の前にしたこともあったが。
それでも今までこんなことは一度だってなかった。
いよいよ、なさけないと思った。
なにやってんだよ、オレ。
どうしたいんだよ・・・オレ。
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