綱吉と守護者を含めた十代目ファミリーは、当面の間は日本に拠点を置くことになっていた。
顔を合わせることもなければ、下手にあいつに嫉妬することもないだろうと踏んでいたが。
何かと情報を仕入れては話の種にして茶をする連中のせいで、嫌というほど心を乱される日々が続くことになった。


「聞いたー?綱吉ってばさー、ドレスで歩く練習してんだってさあ!」
ししし、頑張るよねーと話を振ってきたのはベルだった。
「そうなんですってよぉ、頼んだ相手が相手だったから相当しごかれてるみたいだけど」
「ボスの負担になるのが嫌、なんだってさ。お金にならないことなのに、よく頑張るよね」
「どうせだったら、王子に頼めば良いのに。手取り足取り教えてやるのにさ」
「やだ、ベルちゃん。そんなことしたらボスに殺されちゃうわよぉ。ボスったらあの子が相当気に入ったみたいだからっ」

くだらない話でまるで女のように茶を飲むのがここの習慣になっていた。
このところの話の種はもっぱら『沢田綱吉』のことばかりだった。





大体、もう綱吉は『お気に入り』などという言葉で括れないだろう領域まで来ていた。
それほどまでにXANXUSは綱吉に対して柔軟な態度を取るようになった。
一方の綱吉も、昔のようにXANXUSを怖がることもなくなった。
それどころか、XANXUSの横に並べるように努力を重ねている時点で好意がないわけがないだろう。
互いに好意を向け合ってる状況はとても面白くなかった。






XANXUSと綱吉は、定期連絡以外にも連絡を取り合うようになっていたのを最近知った。
特に女に対してマメにするタイプではないXANXUSがそういった行動に出るとは思っていなかった。

「ん、ああ。無理してイタリア語使うな。余計にわからん」
報告書を持って、XANXUSの元に届けに行ったときに偶然、遭遇してしまった。
とっとと報告書を出して、次の仕事に行ってしまいたい自分には運悪い事態程度に思った。
ただ電話連絡してるだけ、ならよかったのだが。
XANXUSの話す言葉が、日本語、だったから。

「わかった。今度送ってやる。ああ」
やさしめに話すその声が、XANXUSらしくなくて。
ボスさんどうしちゃったんだ。
変だろ、てめえらしくねえ。と思っていた矢先に聞こえた言葉は本当に信じられなかった。




「Ti Amo、綱吉」




あのXANXUSが愛の言葉を紡ぐ事などありえないと思っていた。
綱吉はいとも簡単にそれをやってのけた。
直後に電話を切ったらしいXANXUSの表情も温和なものだった。



なんだよ、オレより強くてちゃんと『女』なやつが現れたら
オレの居場所、なくなるじゃねえか。

あいつの一番近い場所、オレの場所じゃなくなるじゃねえか。





腹が疼いた、俺の空っぽの腹が疼いたんだ。
鈍い痛みがした。
そこにはもう、何もはいっちゃいねえのに。




XANXUSの隣に『女』として立つことを完全にあきらめてたオレ。
そう思っていたのに。
その立場にまだ未練が残っていた自分にあきれた。

今更、どうあがいたって手に入らないものだというのに。










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