さすがに中学生で俺たちとやりあっただけあって、守護者の連中は度胸もあった。
思っていた以上にすぐ、周りの空気に溶け込んでいた。
反対に綱吉は、緊張の糸がほぐれずにいたのが見えた。
ここで気を抜くようなヤツでは逆に困るのだが、そこまでガチガチに緊張していたのでは先が思いやられる。
当然、本人のお披露目なのだから、休んでる暇などなく。
入れ替わりに話しに来る人間に笑顔で対応していたものの、疲労の色が離れたこちらまで見えていた。
「ドン・ボンゴレっつーのも大変なんだな」
「やだ、スクアーロ。ツナちゃんのことは『ドンナ』って呼ばなきゃ」
「あ゛あ゛、そうかあぁ。ドンナ、ね」
「大変、てのはあの子は特別じゃないかしらねえ。来る人来る人皆にニコニコ、無碍に出来ないって言うか」
「単なる苦労体質じゃねえか」
「まあ、そこがいいところでも悪いところでもあるんでしょうけどね」
同じボスでも大違いだ。
疲れててもニコリ笑って対応していた綱吉が、オレの目にはすごくおかしく映った。
そんなちっさい身体に全部抱え込むなんて無理だろうに、と思っていたところに、
XANXUSが綱吉に助け舟を出した。
会場がざわつく。
急にXANXUSは綱吉を抱え上げ、会場端のソファのある場所まで連れて行ったのだ。
いわゆるお姫様抱っこで。
「やっちょ・・・とXANXUSっ」
「何だ」
「じ、ぶんで歩けるって、歩けます!」
素直に抱えあげられるわけがなく、XANXUSの中で暴れる綱吉だったが。
「足痛めてんだろうが、このカス」
XANXUSの指摘に一瞬にして大人しくなる。
「う・・・バレテマシタ?」
「庇いながら動いてバレねえとでも思ってたのか」
綱吉はぐっ、と息を呑んだ。
本人にしてみれば、バレないと思っていた行動だったのだろう。
もちろん傍目から見ればほぼわからないほどの動きだったに違いないが、隣にいたXANXUSにはわかってしまった。
「あと少しだからと思って、我慢していたんだけど・・」
「カスが、てめえの為のだからってカス共のために身体を壊してどうするんだ」
「・・・ごめんなさい」
普段不機嫌な表情が常なXANXUSだったがこのときばかりはあきれた表情をしていた。
その顔を見て、なおさら申し訳なさそうに顔をすくめた綱吉だった。
何か言い出そうとする綱吉が、急に弾かれた様に表情を変えた。
同じくXANXUSも何かに気づいたようだった。
急に空気が変わったのがオレたちのところにも伝わったが、それよりも先にXANXUSが動いた。
「・・・っXANXUS」
「てめえはここにいろ、俺が行く」
瞬間に銃撃音と、XANXUSの炎の熱が会場に広まった。
狭いとは言いがたい会場内でもドンパチやりあうにはとても向いていない場所だ。
鬱憤でも晴らすかのように炎を撒き散らすXANXUSに対して、綱吉はその敵であろう相手に纏う空気が殺気とは違っているように思えた。
大体、これだけの警備体制の中で危ない状況が起こるとは思えなかった。
ともかくXANXUSも相手も止めなくてはいけない、そう思った綱吉は常日頃持ち歩けといわれたグローブをはめた。
XANXUSが動いた後、オレ達もすぐに動こうとしたが守護者連中に止められた。
「う゛お゛ぃい!なんだよてめえら、緊急事態だろうがあ!!!」
「演習、だから手を出すなだとよ」
ニコ、と笑って山本が俺たちを制止する。
笑ってるのに軽く向けられた殺気にオレもにらみ返す。
「んなことオレたちは聞いてねえ、どけよ」
「んー、でももう多分ツナが終わらせるからちと待ってやって」
あいつ、すっげー強くなったから大丈夫だって、と言い放ったとき。
XANXUSの炎よりももっとすごい炎が会場中を覆った。
数年前の綱吉のものとは格段に違ったそれは、見たものが見惚れるほどの美しさがあった。
腕からの炎がまるで羽根のようになり。
圧倒的なその姿はまるで天使のようだった。
ふわ・・・っと飛び回り、会場中の空気をまた別のものに換えた。
一瞬にして、会場内の視線は綱吉に向けられた。
そして、何もなかったかのようにしぃんと静まり返った。
静まった空気を打ち破ったのは九代目だった。
「さすが綱吉くん、皆これで納得したかの?」
そういって、両の手で拍手をする。
会場内から拍手が沸き起こった。
ニコニコ顔の九代目に、してやられたと思った。
本来の意味以外での『お披露目』も用意されていたということだ。
傍から見たらぽっと出の小娘に十代目など・・という考えの輩が黙らせるには十分な効果があったろう。
苦虫をかんだ表情をしてたやつらが、目を見開いて驚いている姿があちこちに見られた。
「あは・・・はは、よかったあ」
気が抜けた綱吉はその場にへたりこんだ。
忘れていた足の痛みを思い出したようだ。
「ドレス、ボロボロにしちゃった・・・どうしよう」
そう呟く綱吉の元にXANXUSがきた。
「ちっカスが」
眉間の皺も増え、今までにない怒りの表情を見せる。
綱吉はその怒りが自分に向けられているものだと思い、萎縮してしまっていた。
「ごっごめんなさい、勝手に動いちゃって」
とっさに謝る綱吉に対して、XANXUSは、
「カスが」
とまた一言言うに過ぎなかった。
XANXUSの本当の怒りの矛先は九代目であったが、訂正する時間も手間も面倒に思ったため何も言わなかった。
何よりもまず、綱吉の治療が優先だったからこそだ。
そのままXANXUSは綱吉を抱え上げた。
「医務班を呼べ」
「了解」
駆け寄る俺たちに簡単に指示をし、そのまま会場を後にする。
綱吉の心配をする守護者が駆け寄ってもそのまま綱吉を腕から降ろすことはなかった。
腕の中の綱吉もまた皆に声をかけるものの、先ほどのようにもう暴れることはしなかった。
緊張の糸が切れた綱吉は、腰が抜けていたらしい。
綱吉が『翔んだ』ときに、オレは見てしまった。
そのときのXANXUSの表情は、初めてオレがボスに会ったときの表情にきっとそっくりだったと思う。
あれが恋する瞬間の顔、だったんだなと。
認めたくなかったそのXANXUSの表情が俺の頭に焼き付いて離れなかった。
ああ、ボスさんよ。
綱吉に恋したのかよ。
認めたくないその事実にオレは頭をぶんぶん振って否定しようとした。
会場を離れた二人の顔は見れなかった。
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