一目惚れしたあいつのそばにいるためには
『男』でいることが一番だった。
だからもともといらないと思っていた『モノ』を全部捨てた。
XANXUSの傍にいようとするどの女よりも、
近くにいられて、同じ空気を感じられるその場所。
そのオレだけの場所のために、
オレは切り取って捨てる選択をしたんだ。
「お、久しぶりです。」
皆が『男』だと思って戦っていた沢田綱吉と、その守護者の面々がイタリアにやってきた。
本腰を入れて、十代目としてこの世界でやっていくために、そして、それをコッチの世界に知らしめるために、
九代目が大々的にお披露目の席を用意して待っていた。
あの戦いから数年経っているとは思えないほど、あまりサイズに変化が見られない綱吉だったが、
見た目はほんの少しだけ成長し、『女』だとわかるようになった。
「別に隠していたわけじゃないですよ。
ただ、あの時はまだ成長期だったから・・・」
少しだけ俯きながら、そう綱吉は語った。
それに対して、うちのボスさんが、
「今も、そう変わったようには思えんが。」
と、皮肉混じりに言い放つと、さらに俯いて顔を真っ赤にした。
「こっ、これでも少しは成長したんですっ」
まだまだこんな調子のガキ・・・いやお子様方の護衛が今回の俺たちに課せられた任務だった。
「取巻き連中はいい、綱吉を優先しろ」
珍しくタキシードで着飾ったXANXUSが、俺たちに向けて指示をする。
「怪しいヤツいたら、やっちゃってい?」
「かまわん、会場内に騒動を持ち込むな、それだけだ。」
そこまで伝えると、ボスはボスの仕事をしに向かった。
「もっとも、『中』の方が危険な気がするんだけどね」
「だぁい丈夫よぉ、ボスが着いてるんだから。よほどのことがない限り平気だわぁ」
「ししし、ボスはりきってるじゃんっ。綱吉のエスコート役引き受けるなんてね。」
もともと護衛とは名ばかりの任務で、本来は俺たちヴァリアーの幹部にも十代目ファミリーとしての自覚を持たせるために呼ばれたんだそうだ。
九代目の考えることはよくわからないけれども。
守護者連中も他の幹部級の連中も揃ったこの状況で、することもなく雑談に勤しむ俺たちだった。
「・・・スクアーロ?」
「っう゛お゛ぉっ、な゛っなんだあ?」
「何ぼーっとしてんのさ?こんなとこで気を抜くなんて先輩らしくないんじゃないの?」
それとも、王子と遊んでくれんの?と言ってベルはナイフを取り出そうとする。
「っち、何でもねぇ、早く配置につけぇ」
「・・・?変なの」
かまってもらえないとわかったのか、もう別の対象に興味を向けてベルは行ってしまった。
正直、さっさと行ってもらえたのには助かったと思ったが、声をかけられたときにはドキッとした。
オレはそのとき、XANXUSのタキシード姿に心奪われてしまっていたから。
めったに見ることのないその姿を目に焼き付けようと必死になっていた自分がいた。
XANXUSは面倒くさそうに綱吉と十代目ファミリーを迎えていた。
「やあぁん、守護者の面々はほんっとぉに可愛い子多いわよねぇ、了ちゃんとかっ」
「わ!綱吉、ちゃんとドレス着てきたんだ。似合うじゃない」
着慣れないドレスと履きなれないヒールの靴を身に着けた綱吉はどこから見ても『女』に見えた。
が、歩き方がどうにもおかしい。
普段縁遠いドレスやらヒールやら装飾品やらが、綱吉の行動を制限していた。
周りの守護者からも心配の声がかかるも、本人は
「大丈夫、もうちょっとしたら慣れると思うから・・・」などと楽観的答えを返していた。
見てるこっちが冷や冷やする、と思っていたら、
「わっああっ」
「十代目っ!?」
案の定すそを踏んづけて転びそうになってしまっていた、がそこに。
XANXUSの救いの手が伸びたのだった。
「カスが」
ただでさえドレスを着ること自体が恥ずかしかったため真っ赤だった綱吉の顔がさらに赤くなるのが見えた。
「大丈夫ですか、十代目っ」
「う、うん。大丈夫だよ。・・・有難う、XANXUS」
XANXUSは少し驚いた顔をし、その言葉を受け取った。
そして、お決まりのようにため息をひとつ。
「無理してドレス着るこたぁなかったんじゃねえのか」
「うっ、ふ、普段はこんなに布の多い服着ることないしっ。せっかく九代目が今日のために買ってくれたから着なきゃいけないし・・・」
「他にいくらでも着るもんあるだろうが」
「きょっ今日は特別だから!今日を乗り切ればなんとか・・・」
「これからもっとこういう場に出る機会増えんだろうが、カス」
「えっあっ・・・とどうしよう」
また、XANXUSの口からため息が漏れる。
眉間の皺が濃くなるのも見えた。
「今日はオレにしがみついていろ。格好つくように連れて行ってやる。」
あとは練習でも何でもして慣れろ、と吐き捨てるようにXANXUSは言い放った。
その言葉の意味が飲み込めずにいた綱吉は、きょとんとした顔をしてXANXUSを見上げた。
「え・・・あの?」
「時間ねえだろ、いくぞ。」
そう言って、自分の腕に綱吉の手を回させた。
「・・・くっついてていいんですか?」
「元々俺がてめえをエスコートしろと言われていた、そのついでだ。」
さらに皮肉をこめて、守護者に向けて言葉を放つ。
「てめえんとこの守護者共じゃ、役者不足なんだとよ」
「ってめえっ」
一番傍にいた右腕と称する獄寺隼人がXANXUSにつかみかかろうとするが、すぐに綱吉の制止が入った。
「ごっ獄寺くん、やめて。ここで暴れないで。」
「っ十代目、でも」
「XANXUSに付いて貰うのは、九代目の意向だから。言いたいことは後でいっぱい聞いてあげるから、ここでは暴れないで。」
お願い、と手をそろえた綱吉に逆らえるわけもなく。
「わかりました・・・」
と、引き下がったのが見えた。
他の連中も同様に獲物を取り出そうとしていたのが見えたが、綱吉の静止が聞こえたのか大人しくなった。
獄寺の舌打ちがこちらにまで聞こえてきた。
不本意なのはてめえだけじゃねえんだ、と言ってやりたかった。
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