思いっきり腕を伸ばして、思い切り抱きしめて。
本当は弱いわけじゃない彼が、見せてくれた弱い部分。
おれ、それでもいいんだよ、って言いたかった。

「・・・XANXUSが笑ってくれたら、おれ泣かない。XANXUSが綺麗って言ってくれて、おれすごい嬉しいんだ、すごく・・」
お互い顔が見えないけど、きっと二人とも顔が赤い。
それだけお互いが近くて、速い速度で鳴り響く心臓の音も聞こえてくる。
顔を見られたくないから、綱吉は余計に腕の力を強くして抱きしめた。

「おれの前からいなくなるなんて悲しいこと言わないで、たまにでいいからちゃんとおれんとこに顔見せに来て」
「そんなことしたらてめえを連れ帰って、監禁しちまうぞ」
「かまわない、XANXUSと一緒にいられるんでしょ?」

綱吉はXANXUSの背中を撫でた。
幼子をあやすようにゆっくりと。
そして、XANXUSに視線を合わせて言った。


「おれ、XANXUSが好き。まだ恋愛とかよくわかんないんだけど、でも、今一番XANXUSが好きなんだ」


恥ずかしいのと緊張とで腕も身体も震えていて、それがXANXUSに伝わってしまうのは嫌だけれど。
綱吉はXANXUSを抱きしめたままで、自分の気持ちを伝えた。
XANXUSは、また困った顔をしていて。

「・・てめえはバカか・・おれと一緒にいたら困んのはてめえだろうが」
「どうして?」
「てめえを攫っちまう」
「いいよ、攫っていって」
「殺しちまうかもしれねえぞ」
「・・今は、そんな気まったくないでしょ?」
「守護者や他のボンゴレ幹部が許可するわけねえ」
「いつもそんなこと気にしないじゃん」

どうにか諦めさせようとして必死に言葉を選ぶXANXUS。
「大体、俺を選ぶ必要なんざねえだろう?たくさん縁談もきてるはずだ」
「うん、きてる。けど全部断ってるよ、だって恋愛する相手くらい自分で選びたいじゃん」
誰に言われてするものじゃないでしょ、と綱吉は笑った。

それでもまだ、XANXUSは何かを言おうとしていたが、それを遮って綱吉は言った。
「おれの負担になるのも周りに反対が多いのも関係ない。おれはXANXUSと恋愛したい。」


だから、XANXUSもおれを選んで。



さらさらと言葉は出てきているものの。
実は綱吉の心臓はものすごくバクバクと音を立てて大きく鳴っていた。

XANXUSが必死で断る言葉を並べるのは綱吉の魅力の足りなさのせい、とまだ綱吉自身は考えていた。
精一杯言葉を紡いで、気持ちを伝えて。
それでもダメだったら、今度こそ諦めなくては、とも考えていた。

多分今までで一番緊張している気がした。




「XANXUS・・?」
「・・・バカが・・・このドカスがっ・・・」

綱吉の視界が急に暗くなった。
XANXUSが綱吉の身体を引き寄せ、大きな腕が綱吉全部を包み込むように抱きしめたからだ。
何度となく抱き上げられていた綱吉だったが、また同じ温かさを感じられたことに喜びをかみ締めた。
XANXUSの腕の中。
その温かさ。
その腕で、おれを選んで、くれた。


「てめえのために諦めてやったのによ・・・カスが・・・」
「うん・・・」
「どう考えたって、てめえに降り懸かる重圧が上がるだけじゃねえかよ」
「うん・・じゃあ、その負担、軽くなるように手伝ってよ・・・」
「周りから反対されるぞ」
「・・いいよ、XANXUSが味方になってくれればそれでいい・・・」


「覚悟、しておけよ・・・もう離してなんかやらねえからな・・綱吉」
「うん・・・」


やばいくらい嬉しくて、また涙が出た。
目の前にはXANXUSの顔があって、泣いちゃダメだって思ったけど無理だった。
く、と視線を合わせると、XANXUSも嬉しそうにしていて、その顔を見て俺も笑った。

そのまま、キスをして、また笑った。





綱吉は、XANXUSの腕の中で聞いた。
「ねえ、XANXUS・・?」
「何だ」
「おれのこと・・・だ・・ける・・?」
「?・・当たり前だろう?」
質問の意図がわからなかったが、本気でそう思っていたので、XANXUSはそう答えた。

「・・よかった・・前に同じベッドで寝てるのに何もなかったから・・・」
「同意のない人間抱けるわけねえだろうが、カス」
「う・・でも結構ショックだったんだ・・・よ?」
「そこまで餓えてねえよ、ガキじゃあるまいし」
「う・・ウエテナイ・・・そっか・・・」
餓えてない、の言葉に過剰反応する。
自分で聞き始めたというのに、綱吉は顔を真っ赤にして言葉が詰まってしまった。

「がっつくほど欲求不満じゃねえ・・・っててめえ、誤解してねえか?」
「へ?」
「俺はてめえが大事だからこそ同意無しに抱けねえつってんだよ、ドカス」
「・・・!?」
さらにその言葉を聞いて、耳まで真っ赤になった綱吉。

「まあ・・・今はある意味欲求不満だがな・・・本当にいいのか、てめえ処女だろ?」
「!!!?ああああっ当たり前じゃんかっっ!!」
「・・・色気ねえな」
「う・・・悪かったですね・・・」

経験がない綱吉にとって、この先のことは怖くないわけではない。
でも、考えただけで恥ずかしくて、真っ赤な顔で必死に言葉を返すだけしかできなくて。
XANXUSはそんな綱吉が、やっぱり可愛く思うのだった。

「てめえが俺を惚れさせた責任、しっかり取りやがれ」
「・・・うん」


XANXUSの大きな手が、綱吉の頭をゆっくりゆっくり撫でた。





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