涙が止まらなくなってしまった綱吉を、ザンザスは手を引いて部屋へと連れ行った。
いくら貸切とはいえ、泣きじゃくった客がいつまでも居座っては困るだろうと思った綱吉が、かえると言い出したからだ。
残りの料理は部屋へ運んでもらうことにした。
XANXUSの手をぎゅっとにぎりしめたまま。綱吉はまだしゃくり上げていた。
綱吉をソファに座らせ、自分はその前に膝を着いて、下から覗き込む形で綱吉を見上げる。
そして、握られている手をもう片方の手で握り返した。
「泣くな、綱吉」
体中の水分が流れ出るのではと思うほど綱吉は泣いていて、自分でも溶けてしまうのではと思うほどで。
「・・・どうすれば泣かなくて済む?」
XANXUSのやさしさと困った顔が綱吉の顔を駆け巡る。
もう困らせる顔なんて見たくない、優しくしてくれなくてもいい。
どうして、こんなにも優しくするの?
しゃくり上げる喉から、搾り出すように綱吉は紡いだ。
「・・・優しく・・・しないで・・おれのこと、なんとも・・思ってない・・くせにぃっ」
泣きすぎたせいかかすれた声しかでなかった。
「おれ、髪飾りも・・・ネックレスも・・すごい、嬉しかった・・ドレスも、靴も、すごく、嬉しかった・・」
「・・・」
「でも・・XANXUS、何も、言ってくれないじゃん・・おれ、ちょっと、で・・いいから・・褒めて、ほしかっ・・・たあ・・」
無理やり言葉を紡ぎだしたせいで聞き取りづらい部分がたくさんあったと思う。
それでも、出てくる言葉は止められなくなって。
「これ・・全部、おれのわがまま、だから・・・褒めてほしいのも、こども、扱いしないで、ほしいのも・・おれの、わがまま・・・だから・・」
――――だから、おれのこと、好きじゃないなら、優しくなんてしないで。
XANXUSの顔を見ることが出来ず、綱吉はずっとうつむいたままでいた。
同様にXANXUSも、綱吉の手を握り締めたままで黙っていた。
お互い呼吸する音とお互いの温かさは伝わるというのに、大事な何か、が伝わらない。
長い沈黙を破ったのはルームサービスを持ってきたドアフォンの音だった。
「少し待っていろ」
XANXUSは綱吉の手を離し、頭をぽんぽん叩いて席を立った。
泣きすぎて目がなくなったのではと心配になるほど泣いてしまった綱吉は、目を擦って視界をはっきりさせた。
入ってきたときは気づかなかったが、多分スィートとかいう部屋だと思う。
ソファのある場所からは、夜景がすごく綺麗に見えた。
涙のせいもあるだろうが、すごくキラキラしてて綺麗だった。
仕事で話していたときはあれだけポンポン話せたのに。
今、こうやって意識してしまった後で話すのはこんなにも難しく、上手く伝えられなくて。
前回食事を共にしたときも失敗したと思ったが、今回はそれ以上にダメだと思った。
こんな風にすぐ泣くのは子供だ、まだやっぱり中身も子供のままなのだ。
XANXUSがワゴンを押して戻ってきた。
普段のXANXUSからはとても想像できないほど、かいがいしく綱吉の世話をしてくれるのが不思議だった。
本来デザートで出る予定だったろう皿と紅茶と、XANXUSの分であろうワイン。
テーブルにセットして綱吉を呼んだ。
「来い、食べるだろう?」
コクン、と頷いてXANXUSがいる方へと歩いていった。
デザートは季節を意識したケーキとアイス、果物が彩りよく並んでいた。
アイスの冷たさが気持ちよくて、ドレも想像していたよりも美味しかった。
「綱吉」
横に座ってワイングラスを傾けていたXANXUSが話しかけてきた。
「食べながらでかまわねえ、てめえはただ黙って聞け」
手にしたスプーンを口に運びながら綱吉は頷いた。
美味しいものを口にしたせいか、先ほどの涙はなんとか止まっていた。
「じじいの計らい、でてめえと食事したとき、わざわざ俺が贈ったモンつけてきた時には正直嬉しかった。綺麗だったしな」
XANXUSがぽつり話し始めた内容に綱吉は目を丸くして驚いた。
まさか、自分のことを。
口に何も入ってなかったのは幸いだったと思う、口に含んでいたら絶対にむせ返っていたに違いない。
「あまりに綺麗で参った、誰にも見せたくねえぐれえに思ったからな」
体が、顔が、熱くなるのを感じた。
どうしよう、嬉しい。
綱吉は、XANXUSが欲しかった言葉をくれるとは思っていなかったから余計に嬉しく感じていた。
「俺は独占欲が強え、てめえを囲ってしまいたく思っている。だが、それはてめえが望むことじゃねえ」
ワイングラスがコトリ、と音を立てて置かれた。
「このままてめえを攫う訳にいかねえ、今日でてめえの前に現れねえようにする、だから」
急に言葉が止まった。
綱吉がXANXUSのほうを見上げると。
目の前のXANXUSは、本当に困った顔をしていて。
「もう泣くな、出来る事なら笑ってろ」
XANXUSがすごく弱く、見えた。
悲しそうな表情の上に笑みを作って。
「てめえはどうしたら笑う?どうしたら泣かなくて済むんだ・・?」
綱吉は、横からくいっとひっぱって。
ぎゅ、と抱きしめた。
精一杯腕を伸ばしても、XANXUSの体全部は抱えられなかったけれども。
出来る限りいっぱい、いっぱいに包んであげたかった。
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