思っていたよりもXANXUSの運転は上手かった。
イタリアの男は皆、二人乗りの車に乗り花束を抱えてデートのお迎えに来る、との話を聞いたことがあったけれども。
いつものディーノさんや今日のXANXUSを見ると本当なのかも、と信じてしまう。
イタリアの男は皆運転上手というのは本当だろう。

「・・・服、ありがとう。XANXUS」
スーツのままでもかまわないと言ったのだが。
最初に向かった先ですぐ服と靴が揃えて用意されていて。
その場でそのまま化粧も施され、髪もいじられ、あっという間にXANXUSの思い通りにされた。
全てを用意していた、ということだろう。
自分が揃えたものに包まれた綱吉を見て、XANXUSは満足そうに運転を続けた。

XANXUSは何を考えてるのだろうか。
サイズまでぴったりで、どこまで調べてあったんだろうか。
色々ぐるぐると聞きたいことはあったけど、気恥ずかしくて聞けなかった。
仕事のときは色々と言えるのに、どうしてなのかな。
真っ赤になった顔がずっと火照ったままで熱でもあるんじゃないかと思うほどだった。

沈黙の続く車の中。
元々口数の多いほうではないXANXUSなので会話という会話が成立しないこともある。
多分言語の部分でひっかかているとは思うんだけど。
それにしても、静過ぎて心臓の音が相手に届いてしまいそうだ。
綱吉は思い切って話を切り出してみた。

「XANXUS・・?」
「何だ」
「どこ・・行くの?」
「食事」
「いや、それ答えになってない。どこのレストラン?予約してるの?」
「行けばわかるだろうが」
「む・・・だってずっと教えてくれないじゃん」

すねたように指先を弄ってみせる。
それでもXANXUSは教える様子もない。
「いいよじゃあ、楽しみにしてる。あと少しでしょ?」
「ああ」
それ以上は何も言わず、車はただ進み行くのだった。





着いた先は有名ホテルの最上階レストラン。
某有名シェフのということで、度々テレビで取り上げられている所だ。
実はそのホテル自体もボンゴレの持ち物だったのだが。

「お待ちしておりました」
「ああ」

しかもあろう事か、貸切で予約していやがった。

「文句は言うつもりないんだけど・・・さ。貸切はやりすぎじゃない?別に他の人がいても・・・」
「前にも言った筈だが?自分の立場を少し考えたほうがいいぞ、ドカス」
「えー、だってここ日本だし」
平和でしょ?と綱吉がきりだすと、XANXUSは眉間の皺を濃くして返答した。
「てめえは少し自分の身の守り方を学び直したほうがいいな、スパルタでやるか?あ゛?」
「う・・・それは勘弁して・・・スミマセンデシタ・・・」
それでも貸し切る必要があるのかは疑問ではあったが、ここでまた反論しようものならば本当にリボーン並の扱きが待っていそうでやめた。


ウエイターがワインを数種類持って来た中から、XANXUSが何本か選んで指示を出した。
綱吉のグラスにワインが注がれて。
二人で乾杯をした。

「ん、おいしいこれっ!」
「調子に乗って飲みすぎんなよ、この間の二の舞になる」
「う・・・気をつけます・・ってあれ?XANXUSとおれのワイン違うの?」
「当たり前だろ、こっちは大人用だ。てめえはお子様用で十分だろう?」
ククっと笑いながら『大人用』のワインを飲むXANXUS。

「・・・確かにおいしいけど・・さ・・」
また子ども扱い。
やめて欲しいんだけどな。
確かにどう見ても子供だし、高校生どころか中学のときから変わらない容姿なのは確かだけれど。
「飲むなら一口、それ以上はやめておけ。てめえには度が強すぎる」
そう言って、XANXUSが飲んでいるものと同じものを差し出される。
「う、うん」
用意されたワインを口にする。
う。
XANXUSと同じワインは舌がぴりっとする大人の味だった。
口には出さなかったが、苦味の強いその酒の味に綱吉は顔をしかめた。

「はっやっぱりガキだな」
思い通りの行動を取ってしまったらしく、XANXUSは嬉しそうに笑った。
相手にすべて見通されているこの状況がくやしかった綱吉は、ぶすくれたかおをして。
「お子様で悪かったですね・・成長してませんよぜんっぜん・・・」
とすねてしまったのだった。

その姿にまた、XANXUSは満足げな表情をしてワインを飲み進めた。





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