「・・おい」
まだ手際がいいとはいえない手つきで茶を淹れなおしている綱吉にXANXUSが話しかけた。
「ん・・・何?ちょっと待って」
「あ゛?」
「納得いくまで話し合うってのでもかまわないから、お茶淹れさせて」
「・・・これはてめえが淹れたのか?」
XANXUSは手にした紅茶カップを指していった。
「へ?うん、いつもは誰かに頼んでるんだけど今日は皆出払ってるからおれが淹れた。ごめんね、まだ練習中で・・・」
「・・・いや・・」
よく見ると、XANXUSは全部飲み干していた。
喉渇いてたのか、と再度紅茶を淹れて出してやった。
自分の分を運びながら、XANXUSを見ると嬉しそうにその紅茶を口にして何となく笑ったように見えた。
「・・・こういうことは出来んじゃねえか・・」
多分独り言のつもりでXANXUSは言ったのだろうが。
綱吉の耳にはその言葉が届いてしまった。
気づいたらぶわあっと一気に顔が真っ赤になって。
火照る顔を見られないようにこっそり手のひらで仰いでみたが、そんな程度では治まりそうもなかった。
なんてこと言うんだこの男は。
赤くなってしまった顔を隠しつつ、XANXUSの正面に座りなおした。
「・・・あのさ」
「何だ」
「・・納得できた・・かな?」
「出来るわけねえと思わねえか?」
「・・・ですよね・・・」
「だが、休暇が多めと考えさせることにすればカス共も納得するんじゃねえか」
「あー、そっか仕事がなければ休み、だもんなあ・・・」
「てめえだってとっととこっちに仕事回せば休み取れんだろ」
「うー、そうだけどそれは無理だって・・・休みはうらやましいけどね」
休暇、か。
綱吉はこのところまとまった休暇が取れていなかったため、ヴァリアーの休暇の件が本当にうらやましかった。
半日の休みはほぼ教養やらマナーレッスンやらで使ってしまっていたし。
夜もなかなか長い睡眠時間すら取れてはいないのだ。
今の仕事量を考えると、半年先でもまとまった休暇など無理であろう。
「はあ・・・いいなあ」
今日の仕事はあと少しで終わりそうだが、もうやる気が起きなくなってしまった。
仕事が不満なわけではないが、休暇は少し魅力的で。
「ああ、もう。今日は仕事終わりにして遊びにいこうかな・・・五月蝿い人もいないし」
ぽつっとそんなことを綱吉が漏らすと。
「それは都合がいい、おい、着いて来やがれ」
「は!?何・・・?どこ行くの?」
綱吉の質問には一切答えずどんどん足を進めるXANXUS。
着いて行くべきか、否か。
直感で悪いことはなさそうだ、と思いひとまずついて行く選択をとることにした。
どうせ、誰もいない。
監視する人間もいない。
思い切って出かけよう、そう考えて綱吉はXANXUSの後を着いていった。
足の長さの違いからか、綱吉がXANXUSに付いて行くには早足どころか走らなくては着いていけなかった。。
気を抜くとあっという間に見失ってしまう始末。
「ざっ・・・XANXUSっ!?」
「・・・」
「ちょ・・・ちょっと待ってっ!・・・おいつけ・・ない・・・っって・・・はあっ」
アジト内は広く、さらに自分の執務室を奥の奥に作らなくてはならなかったせいで外へ出るにはだいぶ移動しなくてはならない。
そんなアジト内部を走って移動したのだから息が上がってしまっていて。
最近デスクワークが多すぎて体力が落ちてるのかも、と綱吉は思った。
綱吉の目の前でぴた、とXANXUSが止まって見えた。
が、すぐに今度は自分の視界があらぬ方向へと向いて。
はた、と気づくと体が宙に浮いていて。
また、XANXUSに抱えあげられてしまったのだ。
「へ・・・!?あ、ちょっ・・・自分で歩けるって!そういう意味じゃなくて!!」
「うるせえ、黙ってろ」
「うるさくないっ」
「てめえの歩幅に合わせてたら日が暮れるどころか朝が着ちまうだろうが、カス」
「そんなことないってば!・・・つーか、どこ行くんだよもう!!」
「外」
「・・・・そのくらいおれだってわかるよ・・・そうじゃなくて・・・さあ」
それ以上は答えが返ってきそうもなく、結局黙るしかなかった。
綱吉の作らせたアジトにはたくさんの出入り口がある。
その中でも街中に通じるところまで来て、やっと地上に足をつけることが出来た。
そこは元・黒曜、クロームが管理している場所だった。
そこで待っていたのはクロームとレヴィ。
「ボス・・・」
「お帰りなさいませ、ボス。お車の準備が出来てます」
「おう」
「車?車で出かけるの?て、いうかおれ、今スーツなんだけど」
いいの?こんな格好で?着替えてきてもいいんじゃない?と続けようとしたが全てを遮って。
「いいから乗れ、ドカス」
すっぱり斬るようにXANXUSが一言、言った。
事情を飲み込めていないクロームが、心配そうな顔をしていた。
「ボス・・どこ行くの・・?仕事は?」
「んー、今日はもうオフにするからリボーンと獄寺クンに伝えて?行き先はわかんない・・はは」「うん、護衛・・いるでしょ?私も・・・」
「いや、XANXUSが一緒だから大丈夫でしょ。ありがとうクローム」
「ううん、気をつけて、ボス」
綱吉には笑顔を見せたが、その後ですぐXANXUSを睨みつけた。
クロームも綱吉を大事に思っていたので、自分のボスを攫っていってしまうヴァリアーのボスが嫌いだった。
「泣かせたら・・許さないから」
相手に聞こえるかどうかの声でぽつり呟いた。
用意された車は、座席が二つしかないタイプのもので。
「XANXUSさん・・・これは誰が運転するのかな・・」
「俺以外に誰がいる?」
「レヴィは?護衛で来てるんじゃないの?」
「てめえにゃ俺がいる、その俺に護衛が必要だと思うか?」
「イエ・・・ヒツヨウナイカト・・・」
とはいえ、何となくのイメージでものすごく暴走しそうなXANXUSが運転する車に乗るのは怖い。
元々車で移動が慣れていない綱吉にはVIP扱いの車移動も苦手で。
何も考えずについて来たのは失敗だったかも、と思った。
今更断りを入れられるわけがなく、ましてやXANXUSの誘いを断るなんて絶対に出来ない。
やっぱり、綱吉はXANXUSのことが好きだから。
不安は残るものの、意を決して車に乗り込んだ。
そのドアを閉めて、XANXUSも運転席に乗り込む。
外はまだ夕焼けが綺麗で。
赤い顔した綱吉は、夕焼けの色が自分の色を隠してるよう願った。
ドキドキが隠せないその顔は、やっぱり恋をしている顔だったから。
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