イタリア内ヴァリアーのアジトの一つでは、XANXUSと以下幹部の面々が顔をそろえていた。

「ボスぅ?ししし、最近仕事少なくって王子飽きてきちゃってるんだけど?外で殺ってきてもいい?」
「そうよねえ、このところ少し仕事が減ってる気がするわぁ・・・ボス?」
「う゛お゛ぃ!成功率低い仕事ばっかり着てるっつーわきゃねえんだろぉ?何で仕事まわせねえんだああ!?」

各々が好き勝手に話し出す、これがヴァリアーのいつもの会議風景なのだ。
その会議すらめったに開かれることがないのだが、今回は特別だった。
十代目直属、となってからの仕事量が極端に減っている。
そのことをボスに皆が直に物言いをしたかったために集まったのだった。

「仕事をまわさねえんじゃねえ、依頼自体が減ってやがんだ、カス共わかったか」
XANXUSも仕事が少ないことには苛立ちを募らせていたのだ。
怒りのオーラが見えそうなほどの発言に、一同はあっという間に黙りこくった。

「・・・明日、綱吉のところへ行く。同行はレヴィ、てめえが来い」
「はい」
「えー、王子も行きたいんだけど!日本でしょー?」
「ベル、てめえまだ仕事残してやがったろうが。マーモン、ベルに同行しろ。監視しとけ」
「休日出勤だから、手当てたくさんつけてね、ボス」
「わかった、他は待機だ。いいなカス共」
「Si」

本来、ボスであるXANXUSがわざわざ出向く必要のないことなのだが。
前回の例もあり、通信で綱吉に連絡は取れないだろう。
などと言い訳を作ってはいるものの。

XANXUSが綱吉にもう一度会いたいと思っていたから。
日本へ、綱吉の元へと行くことにしたのだ。

あいつは何も変わる予定はないと言っていた仕事がここまで減ったのも気にはなったが。
あの日、あの朝に綱吉が泣いていたことのほうがXANXUSにはひっかかっていたのだ。

あの後、連絡は取り合っていない。
真意が知りたい、そう思っていた。
久しぶりの日本。

綱吉はどうしたら喜んでくれるのだろうか、泣かないでくれるのだろうか。


「ルッスーリア」
「はい?何かしら、ボス」
「買い物に出る、着いて来い」

元々言葉数の多いほうではないXANXUSなので、言葉の端々から意味を判断しなくてはならないのだが。
今回はルッスーリアにはその意図がすぐに理解できた。
「いいお店、知ってるわよぉ!車用意させるわね、行きましょうっ!」

XANXUSの買い物の目的は、綱吉へのプレゼント。
他のメンバーではなく、自分が選ばれたのもそのせいだ。
XANXUSの満足できる、かつ綱吉が似合うものと頭をめぐらせて、ルッスーリアはボスを引き連れていった。

その様子を見て、スクアーロが顔を歪めたが、多分誰も気づかなかったであろう。
苦い、苦い顔をした。







「っはーっ!やっと一段落かな」
綱吉は思いっきり背伸びして、身体をほぐした。
山のように毎日来る書類にプラスして、本来なくてもいいはずの始末書やら綱吉宛のお見合いの話やらが舞い込んできて、まさにてんてこ舞いだった。
本人が望まない婚姻話があちらこちらから持ってこられ、その断りを入れるだけでも一仕事となっていた。

「役つきの人って皆こんなにお見合い話来るのかな・・・守護者の分も来てるじゃん、どうしよう」

自分で休憩用のお茶を入れて、お茶菓子も出して。
ちょうど午後のお茶の時間になったので、休憩を取ることにした。

今日はこの執務室には綱吉一人。
獄寺は銃器の仕入れルートの確認のために外で仕事をしてもらっていて。
獄寺の不在時に必ずいる山本も、リボーンも、今日は別の仕事で出てもらっていて。
他の守護者にもそれぞれの仕事を割り振ったため、アジト内はがらんとしている状態だった。
アジトを作るに際して相当入れ込んだので、セキュリティには問題ないのだが。

「守護者の分は皆自分で断りいれてもらおう、と。人少ないと平和だなあ」
一人でぼんやりする時間が以前にも増して減った綱吉にとっては、この平和なひとときがとても貴重だった。
最近、ちょっとだけ入れるのが美味くなったと思う紅茶を手に取り、一口飲んだ。
紅茶もコーヒーも入れる練習を欠かしていない。
今度はお茶菓子も奈々に習ってみよう、と自分の母親特製のスコーンを食べつつ考えていると。


急に内線が入った。


「はい?どうした?」
「ボス・・・面会人がきたの」
「ん・・?面会人?今日は誰とも会う予定入ってなかったと思ったけど」

『外』との連絡を取ってくれる人間は何人もいる。
その中の一人、クロームから連絡が入った。
よほど知った顔でもなければ、予定にない人間を通すことなどないのだが。
そんなクロームが綱吉に連絡を入れてきた、となるとボンゴレ内でも重要な人物だろう。

「誰が来たの?今じゃないとダメなのかな?」
「・・・今、そっちに行く、みたい。ごめんなさい、私じゃ止められない」
「??クローム?ねえ、誰が来たの?クローム?」

何故かクロームは来訪者の名前を言わないまま、通信が切れてしまった。
綱吉は危険はない、と思ったものの、予想もつかない今の状況にどう対処しようか考えた。
直感でなんとなーく嫌なものを感じるが。

せっかく入れたお茶が冷めるほうがもったいないなと思い。
客人が来るまで、自分で入れたお茶と少なくなってしまった休憩時間を楽しむことにした。
数分の静かな時間。

「んー、誰が来たんだろうなあ・・・」

思い当たる人物といえば・・・、もしかして―――。


綱吉の執務室のドアが突然開いた。
ノックもなしにずかずかと入り込んできた人物は、綱吉の予想したとおり。



XANXUSであった。





back/next



背景画像提供→空色地図