綱吉は予定よりも早く帰国することになった。
いつもならばリボーンに怒られることが日常のダメツナが、本領発揮といわんばかりに仕事に没頭していたからだ。
ただ、仕事をしている以外の時間はその反動なのか、ものすごくぼんやりしていることが多かった。

「十代目・・大丈夫ですか?」
「・・へ?あ、獄寺くん。大丈夫だよ、何でもないって」
「・・・そうですか、まだ到着までは時間がありますからゆっくり休んでいてくださいね」
「うん・・・」

帰りの飛行機内でもほぼ寝ているようなぼんやりした表情をしていた。
ヴァリアーのボスとの面会の後から、ずっとこの調子なのだ。
仕事が出来りゃいいだろうというリボーンに対して、獄寺は心配が募る一方だった。
あの日、何かされたショックで立ち直れないのだろうかと。
仕事の面ではフォローできても、精神的な部分では獄寺自身では支えにならないだろうかと。
言えない、聞けないが6年近くも続いている獄寺は、目の前のPCの画面が奇怪な文字を打ち出していることに気づけないほど苦悩していた。


一方の綱吉は、『失恋』のショックから立ち直りつつはあった。
だが、そのことについて、考えを巡らせる度に浮いては沈みを繰り返していた。

「大人っぽい・・か」
綱吉は、自分がまだお子様体型なことは十分理解している。
これを成長させるには・・・。と思ったが、すでに成長期は過ぎた身体にそれは望めず。
成長、はかけらもなく終わってしまっていた。
XANXUSに見合う、大人な女性になるために。
考えをめぐらせ、また八方塞になり、落ち込む。
そのせいで、周りからはぼんやりしているように見えていたのだ。

「大人っぽく、なりたいな」
まだ日本までは時間があるようだし、眠くもないから。
一歩前進するために、綱吉は使えるだけの脳みそをフル回転させた。


いっそ、嫌いになれれば、こんな努力しなくていいのに。
あきらめられないから、また・・・。
せめて、XANXUSに見てもらえるくらい大人になればいいのかな。
そうしたら・・・おれのこと、少しは考えてくれるかな?





日本に戻ってからの綱吉は、またドレスとヒールの靴を身につけて歩く練習をした。
今度は立ち振る舞いの勉強も、話し方の勉強も、十代目になる前にリボーンから一通り学んだテーブルマナーなども勉強しなおした。
悩みに悩んだ結果、身体を成長させるのは無理でも、雰囲気で大人になることは出来るからと。大人になるための雰囲気作りを実践しているところだった。

仕事のほうも、大きな支障は出ておらず、綱吉自身も安心していた。
特にヴァリアー関連に関しては、自分を通すことになって本当によかったと思った。

「これも、これもこれも。こっちもそうです。こっちも全てヴァリアーへの依頼ですね」
「うーわーあー。今までこんなに仕事やってたんだね」
「多分、十代目経由になって頼みやすくなったと思った奴がコッチに流してきてる分もあるのではと思いますが」
さすがに多すぎですから、と整理しつつ獄寺が発言した。

「大抵はさして急ぐものではなさそうですし、中にはヴァリアーにまわす必要ないものもありそうですね」
「うん、やっぱりコッチに回して貰って良かったよ。ヴァリアーには悪いけど、出来ればこういう仕事はなくなって欲しいと思うから」
まとまった書類を手に、綱吉は願いを口にした。

「皆には少し仕事が増えてしまうことになりそうだけど、頑張ろうね」
「はい、頑張りましょう。まずは目の前のこの書類から、ですね」
「ハハハ・・頑張らないと・・・本当にね・・・」

ヴァリアーにはとにかく暗殺依頼が色んな所から来ていた。
ただそれが、ボンゴレのためには良くない私利私欲を含むものが少なからずあったわけで。
多分今まではその依頼すらも全部受けていたに違いない。

「こればっかりは、譲れないからね」
一人ごちて仕事に没頭することにした。



日本に帰ってきてから、まだXANXUSと直接連絡を取る機会がなかったため、あれからXANXUSの声を聞くこともなかった。
まだほとんど仕事をまわしていなかったので気づかれていないと思うが、しばらくしたら仕事の少なさに文句の一つもぶつけに来るだろうと思った。

きっとそれが最後のチャンス。

それまでは、一生懸命成長しよう。
努力を重ねよう。

少しでもXANXUSに近い存在になれるように。





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