予定していた到着時間を少し過ぎてしまったが、無事レストランまで到着できた。
「どうせじじいが勝手に取ったとこなら、多少遅れたってかまいやしねえよ」
と、遅くなったことを心配していたら、そうXANXUSが言った。
まだ、あまり九代目と仲はよくないんだな。
いがみ合う事ないと思うんだけどな、なんて考えていたら。
「大体てめえがもっと早く着てりゃ間に合っただろうが、カス」
「う・・・全くその通りです・・・」
正論を言われて一刀両断された気分だった。
レストランと言っていたのでどこかの食事所かと思っていたが、ホテルのレストランが用意されていてさらに部屋まで予約されていた。
どこまでも至れり尽くせりで。
「気にするな、カス。どうせじじいの金だろ」
「いや・・でも、おれ、XANXUSとの面会希望出しただけでっ・・・こんな大それた・・・」
「・・・本当にてめえは貧乏性だな・・・」
「・・・だ、って・・・」
慣れないんだって・・とXANXUSの腕の中で小さくなって綱吉が呟いた。
「おれ、庶民派だし・・」
「てめえが庶民の行く店なんざいったら身包み剥がされて、いいだけ喰われて海外行きだな」
「わー、カイガイリョコウカー・・・ははは、冗談じゃない」
悲しいけど否定できない事実だった。
XANXUSは移動に際して全て綱吉を抱えあげていた。
なるべく足を使わないように、と配慮してなのだが。
それが綱吉には照れて仕方がなかった。
歩ける、のにな。
お互い席に着き、ワインを頼んで乾杯した。
「それで」
XANXUSは早々に話を進めたがった。
「用件はなんだ」
美味しそうな食べ物を目の前に話をするのはもったいないと思いつつも、XANXUSの機嫌を損ねたくないなと綱吉も話し始めた。
「ん、明日のことなんだけど」
「明日?」
「明日から、おれんとこの下で働いてもらいますのでヨロシクオネガイイタシマスね」
「・・・・あ゛?」
眉間に皺を寄せて、XANXUSが綱吉を睨んだ。
「何でてめえの下で働かなきゃねえんだよ、カス」
「やっぱり話聞いてなかったんだ」
目の前のトマトを一つ、つまんで口にいれ、話を続けた。
「明日からヴァリアーが十代目直属組織になるって書類、大量に送ったじゃん」
「面倒なのは全部カス共にやらせた」
「・・・・自分の仕事くらい自分でやろうよ」
綱吉も大抵獄寺の手を借りているので人の事は言えた口ではないのだが。
「仕事も今まで通りだよ、ただこっちから仕事を送ることになるけど」
「・・・面倒くせえ」
「別にXANXUSの仕事が何か変化が出るわけじゃないんだから」
本当に面倒くさそうな表情をして、ワインを飲み進めるXANXUSに不安を覚えつつも。
こればっかりは今日中になんとかしないといけないと話を続けた。
「おれ、ヴァリアーの皆のこと大事だから、一緒に仕事したいんだ。だからよろしく、ね?」
ね、と力強く言う綱吉。
決定稿に対して異論を言ったところで綱吉は曲げることはないなと踏んで、XANXUSは綱吉の意見を黙って聞いていた。
仕事が変わらないなら問題ねえな、そう判断した。
大体において、ヴァリアーが意見を言ったところで通ることではないのだ。
XANXUSの沈黙は肯定である。
そう九代目に教えられていた。
そのXANXUSが沈黙を続けてワインを飲み続けているところを見ると、この話はそのまま通してもよさそうだ。
「ん、引継ぎとかは順を追ってってことで、大体は終わってるはずだから」
「・・・わかった」
「これで、おれ、一安心だよ。よかったあ」
そう言ってほとんど手をつけていなかったグラスを手に取り、全部空けた。
全面否定されたら、と内心冷や冷やしていたのだが、その緊張の糸もほどけてほっとした。
緊張のせいか、のどが渇いていたのでワインがとても美味しく感じた。
ただ、そのお酒の度数が綱吉の思っていたよりもずいぶん高いものだったのだが。
九代目のオススメだけあってすごく美味しい料理を食べながら、会話を続ける。
綱吉にとって食べることはなにより好きなことだ。
とくに、美味しいものを食べられるのはとても幸せだと思っている。
「そういや、ヴァリアーっていつも忙しいんだねえ。XANXUSにいつ連絡しても不在だしなあ」
もぐもぐしながら、綱吉がXANXUSに問うた。
「てめえだって同じだろうが、カス」
「えー、でもおれの仕事って大体日本のアジト内で済む事ばっかりだから連絡つかないことって稀だと思うけど?」
「・・・あ゛・・のカス・・・」
何かを思い出したように怒気を払い始めたXANXUSだったが、酒のせいでお構い無しに話を続ける綱吉。
「あ、そう!言おうと思ってたことが」
ニコニコしながら、ワインをまた飲んで。
「この間のパーティのときのことと、この髪飾りのこと」
ルッスーリアに付け直してもらった髪飾りを指差して。
「ありがとうございました」
満面の笑みを浮かべて、そうXANXUSに言った。
「おれ、すごく嬉しくてね。絶対今日は付けて来ようと思ってたんだ」
その綱吉の言葉にXANXUSはすごく嬉しそうな顔をして。
すぐに困った顔をした。
「・・・あ」
「・・・」
「・・やっぱり似合わなかった・・・よね・・・」
「いや」
「あ、無理して褒めなく、て・・も、あれ?何か、ぐらぐら、って」
世界がまわるな、と思ったら本格的にぐらっときて、綱吉は倒れそうになり。
それに気づいたXANXUSは倒れる寸前にとっさに抱え上げ、綱吉が床に叩きつけられるのを回避した。
「てめえ、酒弱えなら飲まなきゃいいだろうが」
「ん・・・」
「おい?綱吉!?」
「うん、なんか・・・XANXUSも回るぅ・・・」
その腕の暖かさが気持ちいいな、とっても気持ちいい。
はっきりしない意識の中で、綱吉はそれだけは覚えていられた。
思っていたよりもお酒が進んでいた綱吉は、そのまま眠ってしまったのだった。
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