「九代目、お久しぶりです」
綱吉はまるで自分の祖父との再会のように九代目との再会を喜んだ。
「悪かったね、わざわざ出向いてもらって」
「おれ・・じゃない私が九代目に会いたかったから着たんですよ?喜んでもらえないんですか?」
「もちろん嬉しいよ、最近めっきり綱吉くんと会う時間が減ってしまっているからね」
十代目候補であった頃と今ではやはり時間の余裕に大きな差があるため、九代目との面会も今までに比べて極端に減ってしまっているのだ。
「今回の仕事は先に伝えた通りだ。何か問題があるようだったら遠慮なく言ってくれたまえ」
「仕事の件は問題ないんですが・・・あの・・・」
含みを持たせた言い方で、綱吉は九代目にお伺いをたてることにした。
「・・・お願いしたいことがありまして」
「?・・私に出来ることなのかな、欲しい物だったらいくらでも言って欲しいのだが」
「い、いや!物が欲しいのではなくて・・・明後日、正式にヴァリアーを私の方の傘下にするにあたり、XANXUSとの面会を許可頂きたいのですが」
「!!」
予定になかったその綱吉の台詞に一同が驚いた。
「ハハハ、そのくらいだったらお安い御用だ、明日の夜にでも予定を組ませることにしよう」
だが、九代目だけはその言葉に驚きもせずすんなりと了承した。
「会うついでに食事にも行っておいで、最近美味い料理屋を見つけてね」
「ありがとうございますっ」
ヴァリアーを正式に十代目直属の組織にする。
綱吉と九代目、それとボンゴレの他の重役で進めていた話である。
当の本人たち抜きで話をしていたので、XANXUSには綱吉本人から話を聞いてみたかったのだ。
この件に対して、文句の一つも聞こえてこないところを見るとどうでもいいのか、下手するとその事自体が伝わっていない可能性もある。
あのXANXUSの性格からして単純に納得できることではないだろう、だからこそ話す必要があった。
だが、獄寺も山本もその面会には賛成したくなかった。
XANXUSと会うことが今の綱吉の最も喜ぶことであっても、守護者のほぼ全員が全力で阻止したいことだから。
書類上で済ませられることだから、ヴァリアーを傘下に入れることに対して文句は出なかった。
日本とイタリアとの距離は長い、会わなければ連絡を取らなければあきらめるだろうと皆が思っていた。
でも、『十代目』の意思はそう簡単なものではなかったのだ。
「イタリアン、よりも日本食のほうがよいかな?」
「いえ、せっかくこちらに着たんですから、こちらの美味しいものが食べたいです」
言い出したら止まらない綱吉の発言を否定することは、獄寺にとっても山本にとっても難易度の高いことだった。
今までの小さな努力は水の泡になってしまった・・気がした。
そんな二人の考えをよそに。
綱吉はXANXUSとの食事する機会に恵まれたことに素直に喜んでいた。
髪飾り持って着てよかった。
ドレスとハイヒールの靴も持って着てよかった。
今度こそちゃんとお礼をいえたらいいな、と。
無理なスケジュールだったけど、それを押してでもイタリア行きを選んでよかった。
綱吉はニコニコ顔で九代目の部屋を後にした。
その後を付いて行く側近たちの顔は悲壮感に溢れていた。
本部の敷地はものすごく広い。
何度か着ている綱吉でも、未だに迷子になりそうだった。
その中にはたくさんの人がいて、会う人全員の顔を把握するのは不可能だろう。
知ってる顔に会えるなんて、稀なことだと思っていた。
まさか、ここでXANXUSに会えるとは、思ってもみなかった・・・。
「・・・XANXUS・・?」
「・・綱吉」
本部での綱吉の執務室で九代目代行の仕事を終えたところだった。
一息ついて中庭でひなたぼっこでもしたいな、と部屋を出たところでばったりと二人は会ってしまった。
かろうじてスーツの上着は着ていたものの、だいぶ着崩してしまっていた。
ボサボサになってしまった髪をぱたぱたと整えて。
XANXUSの目に少しでもよく写ればいいなと手を動かした。
「ざ、ンザス。今日の話、伝わって、いるかな」
「・・・ああ」
「おいしい、お店、らしいから、たのしみ、だね」
パタパタと手を動かしてるせいで、さらに緊張しているせいで、言葉が途切れ途切れになってしまった。
そんな綱吉を見て、XANXUSはふ、と笑った。
「少し、落ち着いて話せ」
「・・・あ、ごめん・・・なさい・・」
「せいぜい着飾ってこいよ、カス。お子様は入れねえところだからな」
「う・・・うん。頑張る」
「あとで・・・な」
ぽん、と頭を撫でていってしまった。
綱吉はその手の大きさやら暖かさやらに、真っ赤になった。
どうしよう、楽しみすぎて。
XANXUSの小バカにした言葉ですら、嬉しくなってしまう。
頑張らなきゃ。
ちゃんと化粧して、ちゃんとドレス着て、あの髪飾りをつけて。
XANXUSの隣に立っても、見劣りしないように頑張らなきゃ。
偶然の出会いにすごくまたドキドキした。
そのまま綱吉は、ふらふらと中庭まで歩いていった。
深呼吸して落ち着かせようとしたが、どうにも落ち着かない。
約束の時間まではまだ数時間。
心臓の音の大きさだけでも、収まって欲しいと願った。
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