いつも殺伐と、いつもある意味でほのぼのとしているヴァリアー本部ではXANXUSが不機嫌な様子で仕事をしていた。
青筋たっているそれはもう誰にも触れられないほどのイライラを表に出していた。

「・・・ボス?ちょっといいかしら・・・」
正直ルッスーリアもこういう時のボスには触れずにいるのが吉と思っているのだが、多分現在の状況においての最重要ともいえる伝言を伝えぬわけには行かない。
事を荒立てずに早めに終わらせてしまおうという算段だった。

「何だ」
「日本の、ツナちゃんからの伝言預かってるの。この間はありがとうございました、ですって」
それまで眉間に皺を寄せ、書類に没頭していた手が止まった。
「・・・そうか」
「あとでまた連絡するそうよ。直接ボスとお話したいんですって」

それまでものすごい怒気を払っていた雰囲気がすこしやわらいだ気がした。
が、それは一瞬でまた機嫌悪そうに仕事を始めた。
「わかった、さがれ」
「はい」
てを休めることなくルッスーリアに指示を出した。
ルッスーリアはそれに抗うことなく従った。

このところのボスは可笑しい。
そう思っていたのだが、可笑しかった原因がこれで確定したのだ。

―――XANXUSは綱吉のことが気に入っている。

イライラはもしかしたら、XANXUS自身がその異変に気づいていないせいもあるかもしれない。
「・・・上手くいくといいんだけどねえ・・・」
ふう、とため息を一つつき。
生きた心地のしない報告を終えたルッスーリアは、アジト内の暖かな午後を母親のような気持ちで迎えていた。




一方XANXUSは、目の前の書類をじっと見たままで手が止まっていた。

「ありがとう・・・か」

パーティの事かもしれないが、もしかして綱吉は気づいてくれたのかもしれない。
期待などはしていなかった。
ただ、目に入った髪飾りが綱吉に似合いそうだと思って。
気が付いたら、買っていた。
『for tunayoshi』とだけ書いたカードを添えた。

綱吉は、喜んでくれただろうか。

パーティの日の妙な感覚がまだ続いている。
綱吉を大事にしたい。
綱吉に笑っていて欲しい。
――あいつを俺のだけのものにしてしまいたい。

娘でも出来たら、こんな感覚にでもなるのだろうとXANXUSは考えた。
次はこちらから連絡を入れてみよう。
綱吉の予定表を手配させるよう、すぐ連絡を入れた。
十代目就任と共に増えた仕事も苦にならずこなせるだろう、と思った。









イタリアから帰って一ヶ月経たずにまた、綱吉はイタリア本部へ出向くことになった。
今回は九代目代行での仕事を引き受けたためと、ヴァリアーを正式に十代目傘下にするためにだ。
同行人は獄寺と山本、護衛の役割をなぜか引き受けてくれたリボーンだった。

家庭教師の任を降りてからも、暇さえあれば日本支部に出向くリボーン。
「今回はどこ行って来たの?」
「仕事は守秘義務だ、ボンゴレの依頼だったけどな」
「ふぅん」
こちらからの依頼となると暗殺業の方、深く聞くのはやめておこうと思った。

飛行機内で出来るだけ仕事を進めておこうと、書類やら何やらを出して進めることにした。
もしかしたら、XANXUSとゆっくり話す機会取れるかな、と淡い期待を持ちつつ。
さらに子供のように早く飛行機着くと良いな、なんて考えて。
ドキドキしながら仕事を進めた。

結局あの後、何度連絡してもXANXUSを捕まえることは出来なかった。
元々暇というもののないヴァリアーのボスがそう簡単に連絡がつくものとは思っていないが。
時差も即座に計算できるようになってしまったくらい連絡してみたのだが、それが報われることはなかったのだ。

「・・避けられてるわけじゃない・・よね・・・」

嫌われているかもしれない。
でも、あの髪飾りの贈り主がXANXUSであれば。
パーティで見せた一面を信じてもよいならば。
少しだけ、気に入ってもらえてるのかも、そうだといいなと心より願った。


ニコニコ仕事をする綱吉の隣では、獄寺がため息をつきつつキーボードを叩いていた。
このところの綱吉を横で見守ってきた人間としてはイタリア行きは複雑な面持ちだった。

休む前に必ずドレスとハイヒールを持ち出して歩く練習をしていたことも、
机の引き出しに大事に仕舞っている宝物のことも、
時間が取れるたびに連絡を取ろうと奔走していたことも、全て獄寺は知っていた。
もちろん綱吉自身が誰にも知られていないと思ってやっていることなので、止めることは出来ないのだ。

相手がXANXUSだということもわかっていた。
実は、たびたびあちらからも連絡が入っていたから。
だが、獄寺は頑として取り次ごうとはしなかったのだ。

「ヴァリアーのボスが十代目に何の用だ」
『てめえに用はねえ、綱吉にかわれ、カス」
「今十代目はお出掛けなさっている、用件があるなら伝えてやってもいい」
『・・・後でまた連絡すると伝えろ、それだけだ』

などというやりとりを綱吉がアジト内にいようがいまいが繰り返した。
当然、伝えろといわれたこともさして重要とは判断しなかったので伝えなかった。
全部、獄寺の独断、だった。

だからこそ、今本部に十代目をお連れすることは避けたかった。
二人が会ってしまったら・・・・。

何も代わらないことを祈って。
獄寺は仕事を進めるよう勤めてみた。
カタカタと、キーボードの音が響く。
タバコの吸えないイライラと相俟って、ちっとも落ち着きは取り戻せなかった。

結局、現地に着くまでに持ち合わせた仕事を一つも完成できなかった。








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