イタリア滞在期間中、XANXUSと綱吉は再び会うことはなかった。
あっという間に日本への帰国の日が来てしまった。
綱吉は、ザンザスに会ってきちんとお礼を言いたかったのだが、叶わなかった。

「ヴァリアーの仕事は尽きませんからね、伝えることがあれば拙者が代わりに言っておきますが」
「ありがとう、バジル君。でも、自分で伝えたいことだから、こっちから又連絡してみるよ」
「わかりました、お気をつけて」

見送りに着てくれたバジルにお礼を言い、日本行きの飛行機に乗った。
代表の見送り役だったバジルからは持ちきれないほどのお土産を渡された。
多分九代目と自分の父親だろう。
まるで孫に対しての贈り物をするように、九代目はあれこれしてくださるのだが嬉しい反面申し訳ない気持ちもあった。
きっと、日本に帰ったらまたたくさん荷物が届くのだろう。
それも予想の範疇だった。
お礼何が良いかな、と考えるのは日本人らしいというか律儀というか綱吉らしい部分ではあった。

忙しかったイタリアでの日々から解放されて、一息ついた飛行機の中で。
また明日から来る忙しい日々のことは考えたくはなかったけれど。
日本で待ってる家庭教師の機嫌を損ねぬ為にも一応の対策を考えておこうと綱吉は渡された書類に目を通し始めた。


十代目として生きていく。
皆を守るのがおれの使命。
やることはいっぱいあるけど、きっと、頑張れる。






十代目就任後のボンゴレはとにかく忙しかった。
日本の拠点のアジト建設はもちろん、イタリア本部との連絡や他のマフィアとの会談など毎日びっしりスケジュールが詰まっていた綱吉は誰よりも多忙を極めていた。
守護者の面々も自分にあった仕事が来るようになってはいたが、それ以外でも出来るだけ綱吉のサポートに回れるように仕事を引き受けていた。


「あはは・・・中学や高校のときのほうがよっぽど楽だったなんて・・ね」
「リボーンさんはそれも見越してらっしゃったんでしょうね」

夕方というには遅すぎる時間にようやく一息つけた。
タイミングを見計らって獄寺がお茶を入れてくれて。
秘書としての役割も担ってくれている獄寺はほぼ綱吉と一緒に仕事をすることが多かった。
学生時代のように他愛もない話で盛り上がったりすることもしばしばあった。

「今日はもう予定ないよね?獄寺くん、休んじゃって良いよ」
「まだ、事務処理が少し残ってらしたでしょう?」
「え・・・あ、これ?このくらいなら一人でも出来るから大丈夫だよ。イタリアから帰ってきてから獄寺くんに休み出せてなかったから、少しは休まないと!」
「それは十代目も一緒ですよ?」

確かにそうだったが、それでも優先すべきは部下、の綱吉は引かなかった。
「じゃあ、残りは明日やることにしよう。だから休んでください、ね?」
十代目命令、と付きそうなほど丁寧な物言いで伝えた。
休んで欲しいのも本当だったから。

ただ、できれば一人でしたいことがあったから。
獄寺には退室を願った。

そこまで言われては獄寺はひかないわけにはいかなかった。
「わかりました。十代目も出来るだけ早くお休みくださいね」
何かありましたらすぐ連絡を、といつもと同じことを言ってから獄寺は退室した。
こういう事に聡い獄寺くんにはばれたかな・・・?
隠し事が下手だと言われる綱吉の精一杯は、今日の獄寺にはばれていないようだった。
獄寺の入れてくれたお茶と自分の母親が差し入れてくれたお茶菓子で休憩を取りつつ、いつもは連絡を入れないその場所へと無線を繋いだ。


『あらあ?十代目のお嬢ちゃんから連絡なんてめずらしいわねえ』
「ルッス、こんにちは。あ、ツナでいいからね。呼び方」
『んまーっ、じゃあツナちゃんって呼ぶわあ。ツナちゃん、今日のご用件は何かしら?』
「XANXUSいる?出来れば直接したい話があって・・』
『ボス?あらあらごめんなさいねえ、今日ボス急用で本部行きなのよぉ』
「え・・・ああ、そっか」
『伝言あるなら伝えておくけれど?』
「んー、また頃合見て連絡するよ。この間はありがとうございました、ってだけ伝えてくれるかな」
『御安い御用よお、伝えておくわね。ツナちゃんの頑張り、聞いてるわよぉ。無茶はあんまりよくないと思うんだけど?』
「ぼちぼち、で頑張ってるつもりだよ。無茶はしてないって」
『そーおぉ?ならいいわ、またこっちにも仕事の連絡ちょうだいな』
「あはは、出来ればヴァリアーに頼み事する連絡はしたくないんだけどなあ、また連絡するね」
『ツナちゃん、まったねーっ』


連絡を取りたかった相手はXANXUS。
イタリアから帰るときに渡されたお土産の中に、一つ差出人の名前のないものがあって。
添えられたメッセージカードには『for tunayoshi』とだけ記されていて。
箱の中には、小さな髪飾りがちょこんと入っていたのだ。


白くて可愛らしい花の付いた髪飾り。
直感で、XANXUSからだ、って思った。


九代目にも父さんにも悪いけど、他のどのプレゼントよりも嬉しくて。
大事にしようと思って。
今は綱吉の執務室の机の、一番上の引き出しに入れてある。
いつでもすぐに見られるように。

この間のパーティのお礼もこの髪飾りのお礼も言えてないのがずっと引っ掛かっていた。
嬉しい、からちゃんとお礼いわないと。
綱吉自身の自覚があまりないまま、恋心は大きく育ちつつあった。

「明日は無理かな・・・また時間取れたら連絡してみよう」
甘くてほんのり苦味のあるクッキーをほおばりながら、綱吉はXANXUSのことを考えた。







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