「・・・代目?十代目?」
「・・・んぅ?獄寺くん・・・?」
「すみません、お休みのところに。着替えと荷物、持ってまいりました」

綱吉の荷物と、各人から頂いたであろう贈り物が部屋の中にたくさん持ち込まれていた。
花束も数多くあるようで、花のいい香りがした。

「そのままで寝てらしたのですね、出来れば着替えをなさったほうがよろしいかと・・・」
「うん、そうする・・・」
まだぼんやりとした顔をふるふるっと振って、着替えを受け取った。
いつもなら気を使ってすぐに退室する獄寺が、今日は珍しく部屋に残る様子があって。
「・・・獄寺くん、着替えたいんだけど・・・?」
席を外す様言うと、獄寺は綱吉に問いだした。

「十代目、あの」
「何?」
「・・・XANXUSに何かされませんでしたか・・?」
「・・へ?」

不覚にも間の抜けた返事を返してしまう綱吉。
「何か・・・って?何もなかったと思うけど。部屋まで連れて来てもらって、あとはすぐおれ、眠っちゃったみたいなんだよね」
「そう・・・ですか」
綱吉の答えを聞いても釈然としない表情をした獄寺だったが、
「変な事聞いてスミマセンでした、お休みなさいませ」
何かあったらすぐ連絡下さい、と部屋を退室した。


何かってなんだろう?
まだ眠りから冷め切ってない頭をフル回転して考えた。
何か・・・って何もなかったと思うんだけどなあ。
変な事といえば、妙なくらいXANXUSが優しかったことだろうか。
腕が暖かくて気持ちよかったなあ。
そんなことをぼんやり考えながら、綱吉はパジャマに着替えた。
きっとこのまま考え続けてもわかんないだろうなあと、割り切って再び眠りにつくことにした。
お花の香りが心地よく眠りを誘ってくれた。




一方、獄寺は不機嫌な表情で部屋の外に立っていた。
何もなかった、とはいえほぼずっとエスコートされていたのだ。
身体やらなんやらべたべた触りやがってっと怒りでいっぱいだった。

獄寺は十代目としての綱吉も、女としての綱吉も大事に思っている。
だからこそ今日のパーティは自分が傍にいて守って上げられなかったことを相当悔やんでいたのだ。
会場では自分も右腕としてやるべきことが多く、気づいたら先にXANXUSに綱吉を連れ去られていた。
大失態、だった。
荷物を抱え、綱吉の部屋に訪れたときの綱吉の綺麗な寝顔と乱れのないシーツに安心をおぼえたのだが。


「お、獄寺!」
でかい花束を抱えて山本が綱吉の部屋を訪ねてきた。
「ツナ、もう寝ちゃったか」
「ああ、とっくに休まれたよ。それ渡すなら明日にしろ」
「ん、ツナのおじさん、じゃなくてディーノさんだったな、に頼まれたやつだけど。部屋の前にでも置いとくか」
「てめえで置いてこいよ、静かにな」
「わかってらって」

すでに綱吉の部屋も花に溢れていたのだが、入りきらなかった分がドアの前にも山積みになっている。
その一角に花を置き、山本はまた獄寺のほうを向きなおした。


「・・・ツナ、大丈夫だったか」

どの意味にも取れる言葉で獄寺に問うた。
山本の目にも心配になる状況に写っていたようだ。

「ああ何もなかったと本人はおっしゃっていた、多分、本当に何もなかったと思うが」
「・・・そうか」
「ああ」

お互い綱吉を守ることを前提にし、抜け駆け無しで今までやってきたのだ。
自分たちのお姫様が、いきなり現れた魔王に攫われて、しかも美味しく頂かれてしまいましたでは今までの苦労が水の泡である。

「これからしっかり十代目をお守りする、それが俺達の使命だ」
「ああ、わかってる」

含まれた意味まで理解しあって。
お互い再び心を引き締めた。







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