パーティ帰りとは思えないほどに二人の格好は汚れてしまっていた。
九代目の計らい、というよりは企てといったほうが正しかったかもしれないパーティの隠された余興で綱吉はすっかり体力も気力も使い果たしていた。
今はXANXUSの腕の中で大人しく小さくなっていた。

一方XANXUSは九代目の怒りに満ちてイライラが募っていた。
元々乗り気ではなかったパーティへの参加に、綱吉のエスコート、さらに自分の父親に嵌められたとあっては穏やかでいられなかった。

「XANXUS?おれ、もう歩けるよ、降ろして・・・」
「傷、ひでえことになりたくなければこのまま部屋まで我慢しろ、カス」
「・・・うん、ありがとう」
本来褒められたものではないXANXUSの言い方だったが、綱吉は従うしかなかった。
本当はもう歩く気力も残っていないのだ。
XANXUSもそれに気づいていて、あえて酷い言い方をして腕の中に留める事にした。
少しの間こいつを独り占めにしたい、と考えていたからだ。

しがみつく事も出来ず、くたっとした様子の綱吉。
まだ、少女、という言葉が似合っている彼女に自分がこれほどまでに惹かれるとは思っていなかった。
戦っているあの瞬間の綱吉は、とても美しいと思った。
戦いの場で一瞬隙が出来てしまうなどというのはヴァリアーのボスにあってはならないことだったが、目を惹かれ心も持っていかれたように感じた。
数年の月日はこれほどまでに人を変えるものだったのか。
XANXUSも綱吉も、ここ数年で周りが驚くほどに『変わった』のだろう。



綱吉自身が九代目にお願いしたことから、部屋は小さめのものが用意されていた。
普通の部屋よりも多少大きい程度のそれだったが、綱吉にはこれでも大きすぎると思っていたようだ。
「もっと小さい部屋でもよかったのに・・・」と一人ごちていた。
今後、もっと広い部屋に宿泊しなくてはならなくなるというのに、この様子ではボスとしての心積もりをもう少し指導してもらったほうがよいだろう。
「・・セキュリティの問題もある、次からはでけぇ部屋にしろ」
「ん・・・でも広い部屋に一人なんて寂しいじゃん?」

キングサイズのベッドに綱吉を降ろすと、安心したように大きく呼吸した。
これだけ布のあるドレスを着ていても、なお小さくて壊れてしまいそうな大きさしかないこの少女。

「あ・・・どうしよう、ベッド汚しちゃわないかな」
「いいから寝ておけ」
「・・・でも」
「てめえの部下に着替え持ってこさせるまで寝ておけ、カス」
「・・うん、わかった」

周りの事に気を使いすぎるのがこいつの欠点だ、とXANXUSは思った。
寝ろ、と命令したらすぐに寝息を立て始めたところを見ると、相当疲労していたのだろう。
これからこの世界で生きていくには今日のようなことは日常茶飯事である。
まだこの少女には早かったのではないだろうか。
これでは、こいつが壊れてしまうかもしれない。

今までこんなに壊したくないものが出来たことはなかった。
以前はこいつ自身を殺してしまおうと思っていた俺が、だ。
暗殺者が破壊ではなく、慈しみの心を持ってしまうなんて可笑しかった。
気の迷い。
そうに違いない、とXANXUSは考えた。


今日だけ、酒にでも酔ったのだろう。
そう思うことにしてXANXUSは綱吉を軽くなで、部屋を出た。
その場にいてしまってはまだ妙なことを考え始めてしまいそうだった。


普段と違った、あいつらの空気に巻き込まれただけだ。
パタン、とドアが閉まる。
その音を綱吉は、まどろむ意識の中で聞いたのだった。









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