窓から入り込む光が綱吉の顔に当たる。眩しさを避けるために寝返りを打つと、ごつんと顔に何かが当たった。
「いたっ・・・うー」
 シーツは肌触りが良く、ベッドのスプリングも丁度いい。しかし、綱吉が頭をぶつけた所だけはなぜかごつごつと硬く、寝ぼけた顔の綱吉には何かわからずぺたぺたとそこを触ってみた。
「ん・・・あれ?」
 感触の不思議さに目を開けると、目の前には眠っているXANXUSの顔が一杯に広がっていた。
「・・・っ!!うえええ!?」
 慌てた綱吉がぐ、と身体を離すように引くと、そこにはもうベッドはなく、ゴロンと床へ落ちてしまった。落ちた反動で一緒に毛布も巻き込んでしまったらしく、身体に巻かれた毛布で身動きが取れなくなってしまったのだった。
 ばたりばたりともがいていると、毛布ごと抱え込まれベッドへと戻された。XANXUSを起こしてしまったようだ。
 苦笑いをしている顔が見えた。
「あ・・えと・・・おはよう、ございます」
 ぽんぽんとまるで寝かしつけるかのように綱吉の背中を叩くXANXUSはもう一度眠るつもりなのか、目を閉じてしまった。綱吉をまるで抱き枕であるかのように抱き込んで、身動きが取れないほどに腕の中におさめてしまっていた。
「ざ・・んざす、あの・・」
 ぽす、とXANXUSの身体を叩くと目は開けてくれた。
「おれ、どうしてXANXUSのベッドで眠ってた・・のかな?」
 さも当り前のように再度ベッドへと引き込まれてしまったのだが、そもそも同じベッドに眠っていること事態が可笑しいと気づいた綱吉はXANXUSに問うてみた。
 答えるのも面倒そうに、XANXUSはのっそりとおきだしてベッドの横のローテーブルからメモを手に取り、さらりと書いて渡した。
『ソファで眠ってしまったから連れて来た』
 そこまで書かれたメモを見て、綱吉は思い出したのだ。昨日の夜のことを。
 ノンストップでイタリアのヴァリアーのアジトまで移動し、時差の感覚にもなれずにいた綱吉は相当疲労していたらしく、XANXUSの横でココアを飲んでいたときにはすでにふらふらだった。何度かXANXUSが先に眠っていろと言ったのも覚えているが、傍にいなくてはと必死で起きていたはずだ。
 その後の記憶が曖昧だということは、その後眠ってしまったのだろう。
「ごめ・・重かったよね」
 平気だというように、ぽんぽん、と頭を撫でられる。
「で、でもさ!一緒に寝なくても・・・ね・・・あの・・・あれ」
 今更ながら綱吉は真っ赤になっていた。
 気づくと自分はXANXUSのであろうシャツを着ており、下は下着だけしか身に着けておらず、XANXUSは上半身裸だった。明らかに一度脱いだか脱がされた形跡があるのだ。
 ぎゅうと毛布を掴み身体を隠すように口元までたくし上げた。
 同意の上で脱がされるならまだわかるが、自分が勝手に脱いだのだとしたらこれ以上の恥はないだろう。覚えていないことにこんなに不安を抱くとは思っても見なかった。
「おれの服・・は?」
 さ、と指した方向に綱吉の服はあった。それはあちこち色付いてしまっていてとても着れそうにない汚れっぷりで。色からして多分ココアとXANXUSの開けた赤ワインの色だろう。
『こぼしたから着替えさせた』
 さらりとそうメモで記す。もちろんXANXUSが着替えさせたのだ。
「・・・下着、みた・・よね」
 また、ぽんぽんと頭を撫でる。綱吉の言葉を肯定するかのようににやりと笑った。耳の奥までもが真っ赤に染まる感覚が起こる。
『前は身体の隅まで見た、恥ずかしがることはない』
 XANXUSがそういったとしても、綱吉はとんでもなく恥ずかしかった。正直自分の下着なんて色気の欠片もないし、勝負下着どころか今日身につけていたものは幼さの残るピンクのチェックで大き目のリボンが特徴の可愛いだけのもので。
 じわりと涙が浮かぶ。
『気にしたなら謝る』
 今度はXANXUSは困った顔をしていた。ぎゅ、と綱吉の身体を抱きしめてゆっくりと背中を撫でた。
「ごめ・・ただ、恥ずかしかった、だけ・・・」
 大丈夫、と呟くとXANXUSは綱吉の顔にキスをし、安心したようにまた再び眠りについた。
 綱吉はというと、XANXUSの腕の中に抱え込まれたまま身動き取れなくなってしまい、次にXANXUSが目覚めるまでは真っ赤になったままぷるぷると震えていたのだった。





 昼に近い時間になってやっと二人は起き出した。とはいえ綱吉はずっと起きていたのだったが。
 XANXUSがシャワーを浴びているうちに綱吉が簡単な昼食を用意した。一週間分の献立表のようなものから、オープンサンドとフルーツサラダ、食前酒として用意されたシャンパンを出し、天気がいいのでテラスへと並べた。
 この別荘で色々と動いてみて、綱吉はあることに気がついていた。
 食器類は一組ずつしかないし、部屋数も少ないせいか大人数で座れるようなソファセットが一つもなかった。一人掛けのソファはどの部屋にも必ず用意されていたというのに。
 多分この別荘は単身用に用意されたものなのだ。
「・・・だからか。ベッドも一つしかなかったんだ」
 テラスのテーブルも小さくて、二人分の食事を置くには少々狭かったし椅子も二つあるものの、一つは小ぶりで椅子と呼ぶには不十分な丸太のものだった。見栄えがいいようにとテーブルクロスも掛けてみたものの、それも何だか不釣合いになってしまった。
 ベッドは一つ、キングサイズのベッドだから二人で眠っても大きさの問題はないのだが、ただまた同じベッドで眠ってしまった恥ずかしさと同衾しているにも関わらず手も出されなかった悲しさが綱吉の心の中にあった。
 真逆のような気持ちが出ては消え、一方を掻き立てた。
「そしたら、今日も・・・同じベッドだよね」
 前回、綱吉がXANXUSのお世話になった際にも同様に一つのベッドを共有して眠ったが、XANXUSが綱吉についていなくてはならなかったため仕方がなく、とXANXUSが言っていた。
 綱吉もXANXUSに、逃げたり仕事をしたりしないようについていなくてはならないのだ。監視役、なのだから。
「恥ずかしい・・違うな、いたたまれないが当てはまるかな」
 まだ女性としての自信に欠ける綱吉は自分から何かを進める勇気はまだなくて。
 ばたり、と扉が開く音がした。XANXUSがシャワーを浴び終えたようで、タオルで髪を拭きながらリビングへと入ってくる。
 綱吉は作業の手が止まってしまっていたことに気づき、急いで昼食の準備をした。





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