通信を終えた綱吉が、配線を跨いでスクアーロの休むソファまでやってきた。
「連絡したよ」
「そおかああ」
「ここの入館記録でわかってたみたいだけど」
「そりゃそうだろうなああ、指輪使って入ればすぐわかっちまうだろうしなあ」
「XANXUSもこっちに向かってるって・・・」

ぶすくれた顔をしてスクアーロに話す綱吉はもう怒っているというよりは、拗ねているだけのようにも見える。
成人したはずの彼女はまだそうしていると、学生に間違えられるほど幼くなってしまうのだ。

「XANXUSが来るまで、愚痴ぐれえは聞いてやるぜえ?どうせ喧嘩したんだろう?」
「・・・」
何も答えない、というのは肯定である。
「話しゃ、少しは軽くなんだろおぉ?」

むーとした顔のままの綱吉を連れて、食堂へ向かう。
コーヒーを入れて、二人で向かい合って座った。
生憎、飲み物しか食堂には置いてなかったようで、カップだけが湯気を上げてテーブルに置かれた。

「それで・・・あんだけ仲良かったてめえらに何があったんだあ!?」
「・・・XANXUSが悪いんだもん」
「う゛お゛い、それだけじゃわかんねえよ」
「だって、XANXUSがおれのプレゼントしたシャツ、引き千切ったんだもん!!」
「は!?」

引き千切った!?
一瞬聞き間違えかと思ったその言葉は、間違いなく綱吉の口から出てきた言葉だった。
ボスが、綱吉にプレゼントされたものを引き千切るだあ!?

「せっかく似合ってたのにさあ、まさかそんなことすると思わなくて」
「ボスが綱吉から貰ったもん、壊したってのかあ!?ありえねえだろうがああ!?」
「だって本当だもん」

どぼどぼと角砂糖を五つも入れたコーヒーを飲みながら綱吉は言った。
そりゃもうコーヒーじゃなくて砂糖水だろう、と無糖のコーヒーを口にしているスクアーロは考えたが、
綱吉の平常時でのコーヒーもこのぐらい甘くして飲んでいるため、これが普通だった。

「おれの髪がひっかかって取れなくなっちゃったから、引っかかった部分だけ切ろうと思ってたのにね
急にぶちぶちってボタン毟り取るんだもん。しかも力任せにやるから再起不能になっちゃったし」
「?髪引っかかってえ?」
「うん、オレの髪くるくるで絡みやすくてさあ、しょっちゅうボタンに引っ掛けてるんだけど」
「お゛う」
「今回酷く絡んじゃって取れなかったから切ろうとしたら、こうぶちぶちってやったのさあ!」

手でそのときの仕草を表して、さらにXANXUSの顔真似までして状況説明をする綱吉。
説明しきったところで、さらに思い出してしょんぼりした綱吉に、スクアーロは呆れた声を上げた。

「それだけ・・かあ!?」
「え?うん・・そうだけど」
「・・・」
「だって、凄く似合ってたんだよ!!もう直せないほどに引き千切ったんだよ!?」

よほど似合っていたのだろう、力説する綱吉は乙女の顔になっていた。
そんな顔をみて、スクアーロは大きくため息をついて。
「いいからよぉ・・・とっとと帰ってそのことXANXUSに話してやれえ・・」
「は?え、どうして?」
「それで万事解決だあ・・馬鹿らしいぜぇえ」

どうせ、ボスさんも綱吉の髪を切るほうが嫌だったってオチだろうしよぉ。
聞くだけ馬鹿らしいことだった。
単なる惚気話を日本くんだりまで来てしているだけの綱吉に呆れたスクアーロは自分の上司の早期到着を願った。
とっとと回収して、とっとと元の鞘に入って、そして自分に迷惑をかけないようにして欲しいものだった。

「ボスさん、早く来いやあああ・・・・」


傍から見たらくだらない。
でも本人達には譲れない、新婚さんの惚気話。





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