「母さん、ただいま!」
「ツッ君、お帰りなさいっ急に来るって言うんだもん、びっくりしちゃった」
「ごめんなさい、帰るって決めたのも急だったから・・・」
「XANXUS君と喧嘩したのね」
「・・・うん」
綱吉は日本に着いてすぐ、実家を訪れていた。
母の元を訪れるのは結婚以来、初だ。
そんな母は綱吉を見てすぐ、喧嘩したことを見抜いてしまった。
さすが自分の母というべきか、はたまた自分がわかりやすすぎるのか・・・。
やはり、自分の憧れた母親像は揺るぐこともない。自分もこうなりたいものだと綱吉は思った。
「しばらくここにいようと思うんだけど・・・」
「お仕事はいいの?」
「うん、獄寺クンにお願いしてきた。後で日本支社に行って仕事確認してくるけど」
「なら、気が済むまでおうちにいなさい。どうせ、すぐに寂しくなって帰ることになると思うから」
「そ、そんなことないもんっ!・・こっちにいるもん・・・」
「はいはい、じゃあ今夜はごちそうね」
ニコニコ笑って台所へと向かっていく母を見送り、綱吉は自分の部屋へと向かった。
渡伊する際に荷物のほとんどを処分してもらったため、あまり物の残っていない部屋を見回してベッドへと腰掛けた。
何もない部屋ですることといったら、考えることぐらいしかない。
今までもけして短くない時間飛行機に乗っていたため、考える時間は大量にあったのだが。
それでも、怒りが薄れることはなかった。
「XANXUSがわるいんだもん・・・」
大人気ないというのもわかっているが、今回自分から折れる気にはなれなかった。
「仕事しに行こうかなあ、どうしよう」
今はほとんど使用されていない日本のアジトは、通信機能だけを残し、ほとんどの機能を停止していた。
それでも、こっち方面での仕事をする際に利用できるように、各所メンテナンスは怠っていない。
宿泊ももちろん可能だった。
自分がまだ日本にいた際に使用していた本部直通の回線が残っているはずだ、と綱吉は、
イタリアにいなくても出来る仕事をこちらに回してもらって片付けることにした。
優秀な部下達とはいえ、急に来てしまったために混乱しているかもしれないし。
仕事をすることへの言い訳を考えた。
何もしていないと、またXANXUSのことばかり考えてしまう。
そんな自分が嫌だったから。
「母さん、おれ、支社に顔出しに行って来るね」」
「はいはい、晩御飯には帰ってきてね。つっ君の好きなもの作って待ってるから」
「ホント!?ありがとう、ちゃんと戻るからね!」
ジャケットを羽織り、指輪を確認して(セキュリティに指輪が使われているため)外へ出た。
左手の小さな指輪を見て、またため息をつく。
こんなときでも外せない大事なものだから、こそ左手が重く感じる。
ふるふる、と頭を振って、平和な日本の地をひとりで歩いた。
「・・あれ?どうしてここに来てるの?」
「・・それはこっちの台詞だああ・・・」
日本のアジト内、通信機能が揃った部屋へ入った綱吉が一番に目に入ったのは、白金の流れるような髪の毛だった。
その髪の持ち主は、綱吉の知る限りただ一人―――スクアーロだった。
「てめえんとこの山本が出れねえっつーから、オレが代わりにこっちの任務受けたって連絡しただろうがあ」
「あー、そういえばそうだったような・・・」
「てめえちゃんと仕事してんのかぁあ!?」
「んーまあ、ね。忙しかったからさ、ハハハハハ」
誤魔化して笑ったが、スクアーロは嫌そうな顔をしてしまった。
「それで」
少し怒っている様にも見えるスクアーロが綱吉の手を掴んで、逃げられないように捕獲する。
がし、と掴まれた手の力は女の人とは思えないほど、力強いものだ。
「何でてめえが単独でここにいるんだあぁ!?」
「いちゃだめかな?」
「ダメだろうがああ!さっきからボンゴレの人間が入れ替りに捜してるって言ってやがったぞ!?」
捜してるか、ああ、面倒くさい。
流石に十代目がいなくなったとあっては、勢力を尽くして捜すに違いないだろう。
「おれはちょっと・・家出?」
「あ゛!?」
「ちょっと色々あって、家出してきちゃっただけだよ?」
苦虫を潰した様な、という表現はこういうときに使うべきか。
物凄く嫌な物を見たときの顔をしたスクアーロが濁音交じりの音を部屋中に響かせた。
「ありえねえだろうがあぁあ゛あ゛、てめえはボンゴレ十代目なんだぞぉお!!」
「でも・・・」
「とりあえず、本部に連絡しろぉ。無事だって伝えやがれ、あいつ等も心配してやがったからなあ」
あいつら、そこに含まれるXANXUSのことを考えてしまい、綱吉はぷいっとそっぽ向いた。
「そんなことしたら、XANXUSに居場所ばれるじゃん、絶対やだ」
「や、じゃねえだろうがあ!大体ボスにはもうばれてんだろ、マーモンいるって忘れてねえかあ!?」
「あ!!」
完璧に失念していた。
マーモンの便利な、そして厄介な能力のことを。
下手すると、もうこちらに向かってきているかもしれない。
「うー、仕方ないか・・・本部に連絡するよ」
「オレといるって伝えておけよぉ、そう言えねえなら首に縄付けてでも連れ帰るからなああ」
「帰るのは嫌・・・せっかく日本に来てるんだからもう少しいたいもん」
そそくさと本部へ連絡を取り始めた綱吉は、本当に面倒くさそうに自分の守護者たちと話していた。
唯一伝えていた右腕が、必死に事実を隠していたらしく、大きな安堵のため息をついた音がスクアーロの耳まで届いた。
守護者の面々は特に驚きもせず、日本を満喫してこい、と言っていた。
後ろの控えた死神と称されたアルコバレーノが目を光らせていたのが気のせいでなければ、
帰った後の綱吉は軽く三日ほどは拘束されるだろう。
「オレはもう帰還予定だったんだけどなああ・・・」
逆にこちらに拘束されることになりそうなスクアーロは、
任務の疲れ以上に疲労する事態に巻き込まれてしまった自分の運のなさを呪った。
「しばらく、日本滞在になりそうだなあ」
綱吉が通信を終えるまでの安らげる一時を味わおうと、ソファにどかりと腰掛けて目を瞑った。
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