ボンゴレ十代目、としての仕事を周りの優秀なサポートのおかげで何事もなく進められている綱吉と、
今まで以上にボンゴレのため(というよりも綱吉のため)に尽力しているXANXUS。
二人が結婚してから、初めて起こった事件のお話である。
「じゅっ、十代目!?今からですか!?」
「うん、だから後のことは任せるよ」
「しっしかし!」
「右腕でしょ?ボスの穴を埋めるのが右腕の役目、そうだよね?」
「・・・はい、わかりました」
ボストンバック片手に綱吉が急に、日本へ行く、と言い出したのだ。
「あ、行き先は黙っててね。リボーンあたりが気づいちゃいそうだけど・・・特にXANXUSには」
「・・いいのですか?」
「うん、いいの!今回はちょっと許せないもん」
結婚する前も結婚したあとも、綱吉とXANXUSは誰も付け入る好きのないほどお互いを好きあっていて、
今の今まで喧嘩というものを皆が目撃したことはなかった。
普通は喧嘩するであろう事柄でさえも、どちらかが、はたまた両者が折れて、大惨事に発展することはなかったのだが・・。
「じゃ、ちょっと家出するから、後はよろしくね、獄寺クン」
中学校の頃から綱吉を見てきた獄寺でさえも、今回の怒りが尋常でないことを悟っていた。
かつて強敵と戦ったときでも見せることのなかった平常時での冷酷な瞳は
笑っているにもかかわらず恐ろしいまでの光を放っており、
文句の一つもつこうものなら、今ここで床にキスをすることになるであろう。
「はい、お気をつけて・・・」
引き攣った笑いで見送る獄寺を尻目に、綱吉は単身でボンゴレ専用機に乗り込み、
自分の生まれ故郷である日本へと向かったのだった。
初めての家出。
いわゆる、『実家に帰らせていただきます』を綱吉は実践しているところだった。
一方のXANXUSは普段よりも大分遅い時間に、執務室へと顔を出した。
綱吉と結婚してからというもの、丸くなったという表現が似合うほど無駄な暴力も下らない怒りもなくなっていたのだが、
今日は、かつての『憤怒』が帰ってきたようだった。
予定では幹部が集まり会議が行われるはずの時間になっても一向に現れないXANXUSが
やっと登場したと思ったら、恐ろしいまでの影を背負い、どす黒いまでのオーラを放っていた。
普段XANXUSの怒りに慣れているはずの面々ですらも驚きを隠せない。
「ど・・どうしちゃったのかしら・・ボス?」
「さあ。やばいっつーのはわかるけどっ」
「ボス・・どうなさいましたか!?」
とにかくボスLOVEのレヴィが空気も読まずにXANXUSに質問する。
「何でもねえ、会議を始める」
「しっしかし」
「いいから座りやがれ、カス」
「はっはい」
機嫌も相当悪いようで、眉間の皺がいつもおりも色濃く出ている。
そして・・・。
傷跡のある左頬が、なんとなく赤くなっているのが遠くからでも確認できる。
髪の毛でほぼ隠れてしまっているが、指の形が残っている部分があるのだ。
明らかに、頬に平手打ちをくらった跡。
「あー、ボス。やっちゃったかな、シシシ」
「笑い事じゃないわよぉ、まずいわねえ」
「・・行き先、ボク探しとくよ。こじれると嫌だし」
幹部それぞれ、XANXUSの怒りの矛先にならぬようにこそこそと存在を消し始めていた。
こんなときに限って、サンドバック役のスクアーロが出張中。
となると、自分に矛先を向けられる可能性も否定できない。
空気が読めてる幹部たち(レヴィ除く)は、早いこと会議を終わらせて、
綱吉に怒りをおさめてもらえるように説得しようと考えていた。
XANXUSよりも綱吉が説得しやすいと考えていたのは皆一緒だ。
だがその考えが、甘すぎることに気づくのはマーモンの能力で綱吉の場所を特定したときだった。
「これは・・」
「シシシ、こりゃ無理じゃね?」
「そうねえ・・・」
「家出、かなあ。綱吉の予定、当分本部での活動ばかりだったよね?」
「出張は入ってなかったはずよねえ?」
「あ!王子わかった!」
「「え!?」」
「これ、『実家に帰らせていただきます』ってやつじゃね?よくある夫婦喧嘩の」
「・・・」
「あらまあ・・・」
三人は顔を見合わせて考えた。
これは、誰に求められるものではない、と。
「・・・任務いこっと」
「あたしもそうするわあ」
「ボクも行かなくちゃっ」
かつてない夫婦喧嘩にキモを冷やした三人は、
気づかない振りをして任務へと向かったのだった。
三人とも、本気で怒らせた時の綱吉の恐怖を知っていた。
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