「あらあ!いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
「オジャマシマス・・・」
日本のアジトで綱吉に遭遇したスクアーロは何故かそのまま綱吉の実家へ連れ帰られてしまった。
「約束だもん!今日、すぐにしてもらうからね!!」
「・・・はいよぉ・・・」
まるで本物の子供のように、スクアーロの手をひっぱる綱吉。
というのも、さっき、アジトでした約束を果たしてもらうためにも急いでいるようだ。
飲み終わったカップを洗いながら、綱吉は愚痴を続けていた。
「大体自分の髪がくるくるなのが悪いんだよ、父さんも母さんもここまで酷いくせっ毛じゃないのに」
「そりゃ生まれもったもんだから仕方ねえだろうが、似合ってるぜえそのふわふわの髪」
「おれもスクアーロみたいにさらさらの髪がいいんだよぅ・・・うらやましい」
スクアーロの髪はこれだけ長くても、絡むことなく重力の赴くままに下に向けて降りている。
一方の綱吉の髪は、長くても短くてもあちらこちらにふわふわと重力に逆らって跳ね上がってしまうのだ。
「だったら、試してみるかあ!?」
「え?」
「ヴァリアークオリティでの洗髪だあ、上手くいきゃ同じ髪になるんじゃねえのかあ?」
「ホント!?」
ここまでがアジト内での会話である。
綱吉はその『さらさら』という言葉に心惹かれ、無理矢理洗ってもらう約束をして。
スクアーロをひっぱって自分の家まで引き摺って来たのだった。
そのときの綱吉のキラキラした期待に満ちた目はきっと甘いものを目の前にした女の子と同様に可愛くて、
同じ女でもこうも違うものか・・と再び自分に自信をなくしたスクアーロだった。
「それにしてもよぉ・・・成人した女が二人入るには少し狭いんじゃねえかああ!?」
「そうかな?一人でお風呂に入ることなかったから、こんなものだと思ってた」
「てめえの周りにゃ常にちっこいのがくっついてたもんなああ」
「どちらかっていうと、洗ってあげる方の役目だったからね、じゃお願いします!」
そのまま風呂に連れて行かれ、さあ洗いたまえといわんばかりに頭を差し出す綱吉。
やる、と言ってしまった手前、やらないわけにはいかない。
人の頭を洗ってやるなんて、ほぼ経験のないスクアーロは少しばかり緊張しながら綱吉の髪を洗い始めた。
「あら、つっ君。良かったわねえ、髪の毛ふわふわじゃない!」
綺麗に洗ってもらったのね、と風呂上りの綱吉をみた奈々はそう感想を述べた。
夕飯の準備の合間に、来客用の布団の用意をしにいっていたようだ。
母は、素直に娘の髪を褒めているのだが。
「うん・・そうだよね・・」
綱吉の予定では、自分の髪がさらさらのストレートになるはずだった。
だが、実際洗いあがった髪は今まで以上に綿毛のようにふわふわのくるくるになってしまっていたのだ。
「わ・・悪い綱吉・・・他の奴にしてやったことなかったからよぉ・・・」
「・・・」
「髪質違うとこうなっちまうんだなあ・・・」
これはこれで物凄く愛らしい姿に出来上がっているのだが、綱吉は不満げだ。
そのぶすくれた顔もひよこのパジャマを着た姿では単なる子供が拗ねているだけにみえる。
実際撫すくれている内容も、子供のそれとなんら変わらないのだが。
「機嫌直せよぉ・・そのまんまのツラでボスに会うってのかああ!?」
「・・・だってまだXANXUSのこと許せないもん・・」
「そうか・・だが、明日にはイタリアに連れて帰るからな」
「「!?」」
いるはずのない、と思っていたのは綱吉もスクアーロも一緒。
声の主は綱吉の最愛の人、XANXUSだった。
急いで来たのか、隊服が少し乱れていて、髪もいつものようにかっちりセットはされていなかった。
髪が乱れているせいで、綱吉の着けた手の跡がよく見えるようになってしまっていた。
「心配させやがって・・急にいなくなるんじゃねえ」
そう言って綱吉を両腕に包み込んだ。
軽く抵抗するものの、綱吉も嫌ではないらしく、最終的にはその腕の中に収まった。
「また、髪、からまるから・・・離してよ」
「そんな言葉聞くと思うか?」
「・・・だってまた服引き千切ったら困るもん、どれもXANXUSに似合う服ばかりなのに」
ぐ、とXANXUSを押し返そうとするが、綱吉の力では動くものではなかった。
「カスが、服よりてめえが大事だ。服なんかいくらでも買えるだろうが」
「でも」
「それよりてめえが傷付くのは許せねえ、髪の毛一本すら欠けさせたくねえんだよ」
「・・う・・・」
「服に引っ掛けんのが嫌なら着なければいい、てめえのふわふわの髪が素肌に触れんのも悪かねえ」
さすがイタリアの男、と言うべきか。
恥ずかしげもなく思うことを口にして、自分の妻を再び口説いてしまった。
ほぼ毎日のようにXANXUSの傍に居ても、そんな姿を見たこともないスクアーロは目を丸くして二人の姿を見ていた。
絶対二人とも、自分の存在を忘れているだろう。
「せっかく綺麗なんだ、もうもったいねえことすんなよ」
「うん・・ごめんなさい」
再度二人が愛を確かめ合ってる隙に、とスクアーロはその場を去った。
本当にくだらないことで家出して、さらにこんなところまで来て愛を確かめ合って。
しかも、二人とも仕事を放棄しての行動なのだ。
「ったくよぉ・・・いい加減にしてくれよぉ」
多分二人ともしばらく二人の世界に行ったまま帰ってこないだろう。
さらに悪いことに、帰国も先延ばしにする可能性もある。
むちゃくちゃな上司を持ったスクアーロの心労は計り知れないものとなった。
夫婦話/