「う゛お゛おい、ボスさんよお゛・・・」
「・・・・」

部屋で立っていられたのはXANXUSのみで、他の人で在った物はXANXUSによって焼け焦げた塊となっていた。
ああ、また壁が見えるようだな、とスクアーロは思った。
すべてを否定しすべてを拒み、何者も寄せ付けないオーラを放つXANXUS。
スクアーロを肩越しに睨み付け、言葉を言い放つ。

「何をしに来た」
「ドンナの命令でなあ゛」
「・・・・」
「てめえを連れ戻せって言われてよお、こんなとこまで来てんだあ゛」

これは嘘だ、綱吉は未だ眠り続けていると連絡を受けている。
綱吉の命令でも今のXANXUSは動きもしなかったのだから、実際この行動を正当化するためにスクアーロは言った。
ただし、XANXUS自身が大人しく従うなどとは、スクアーロも山本も思っていなかった。

「まだ任務が残っている、帰りやがれドカス共」
「そうはいかないのな・・大体ルート潰し終わったんだったらほぼ任務完了だろ?」
「ち・・・クソが、どこで知りやがった」
「そこに転がってんのの仲間が言ってたぜ?けっこう残党残ってたのな」
「・・・カス共が」

苛立ったXANXUSは手に持っていた酒を口にして、それ以上は何も話そうとしなかった。
半数が割れてしまっているが部屋へ転がる瓶の数と充満する酒の匂いから相当量飲んでいるようだ。
酒に逃げる、などこの男らしくない。
ここにいるXANXUSもイタリアで待つ綱吉も、あまりにらしくない行動ばかりを続けているのだ。
引き金になったあの一件にいたからこそわかる、その心に引っかかっていたことをXANXUSに問うた。

「ボスさんよお、帰りたくねえなら好きなだけここに残りゃいいし、任務もやってんだから問題ねえけどよお゛・・綱吉のことどうすんだよ」
「カスには関係ねえ」
「あれだけてめえの事想ってる綱吉のこと、放っておくのかよお゛!?」
「・・・関係ねえといってるだろうが、カス」
「ああ゛!!そりゃてめえら夫婦の問題だ、オレらが何か出来るわけじゃねえ、だけどよおお!!」
「うるせえ、ドカス、消えろ」
「・・・ぐっ」

手から放たれた炎がスクアーロの顔を掠める。
当てる気はなかっただろうが二発目は違う、これ以上楯突けばと威嚇をこめたその炎にもスクアーロは屈することなく反論する。

「あんたは綱吉を選んで、綱吉はボスを選んだ。これ以上の幸せはないんじゃなかったのかよお゛!!」
「うるせえ・・・うるせえっ!」

XANXUSが手にしていた酒瓶をスクアーロに投げつけた。
それを避けることなく額で受け止めたスクアーロは、それでも微動だにしなかった。
そして、今までスクアーロ自身も引っかかっていた疑問を投げつけた。


「何で、たかがガキのことで・・・こんなにあんたは突っ掛ってやがんだあ゛・・・」


この間の任務、いやそれ以前からXANXUSが子供に対して嫌いの一言では片付かないほどの反応を示していた。
嫌いなものを排除するという考えの持ち主だが、それにしてはあの任務の際の脅えぶりが説明つかない。
何か、綱吉だけが知る―――もしかしたら、綱吉さえも知らないXANXUSの秘密があるのかもしれない。
XANXUSは何も言わない、だがこの件は確実に『子供』がキーワードなのだとスクアーロは踏んでいた。
スクアーロはXANXUSを見続けていた、返答が帰ってくるとは思えなかったが、それでも何かを待っていた。

だが、静かな時間を打ち破ったのは山本だった。

「XANXUS、悪いけど時間がねえのな。ツナのためにもあんたを連れ帰らなきゃいけねえのな」

山本は最初、ツナが倒れたことは言わずに連れ帰りたかった。
それは、移動の最中にスクアーロとも約束していたことだったが、あまりに動かないこの男に起爆剤として投下するためにそのことを言った。
これは賭けだ。

「昨日、ツナが倒れた。今もまだ眠っている・・・このところ眠れてなかったのな。仕事も根詰めて休もうとしなかったぐらい働いてたのな」
「・・・山本!」
「スクアーロ、駄目だ。この男にはちゃんと言ってやんねえとわかんねえのな!」
「・・・」

山本はスクアーロを守るようにして前へ出て、XANXUSを真っ直ぐ見ていった。

「ツナは一言も言わなかったけど、あんたを待ってた。どんなに守護者が頑張ってもあんたの代わりにはなれねえんだ」
「・・・」
「ツナのこと愛してるなら、あいつのためにも帰ってきて欲しい」

それを聞いてXANXUSは――――一瞬そのどぎついまでの怒りのオーラを和らげ、そして困惑した顔をした。
明らかに顔色が変わっていくのが手に取るようにわかる。

「・・・倒れただと?」
「ああ」
「・・何故」
「それはあんたが一番知ってることじゃねえのか?俺たちもわかんねえことなのな」
「カスが」

その一言は誰に当てたものかはわからなかった。





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