現在XANXUSが行っている任務は、本来スクアーロと部下数人で行われる予定のものだった。
イタリア内でとあるマフィアの仕入れと販売ルートの根絶と、残党の始末が目的だった。
一人で行うようなものではなく大体がチームを組んで行うものなのだが、XANXUSが勝手に一人で始めてしまった任務なので時間がかかっているようだっだ。

「XANXUSでもてこずる任務っつーのもあるんだなあ」
「ああ見えても、ボスは任務に関しては慎重派だからなあ゛」
「いつものホテル、ってここか?」

スクアーロと山本の二人は香港の繁華街に程近いホテル前まで来ていた。
そこは以前XANXUSが利用したことがあり、気に入っているホテルである。
大体アジア圏での仕事は日本のアジトを拠点に動くことが多い。
しかし、日本アジトの使用記録はなく、携帯通信機の連絡記録からこちらのホテルが割り出されたのだ。
高級を形にしたようなそのホテルの前をスクアーロと山本は通り過ぎた。

「・・・裏路地入ってからにしろよぉ」
「わかってるのな」
「6人、いやもっといるな」

ホテルに入ろうと進めていた足を少し先の路地へと方向を変えた。
観光客と間違えられたのか、あきらかに下っ端な人間が数人、後をつけて来ていた。
高級ホテルに入るためにそれなりの物を身に着けていたせいだろうか、金目当ての強盗とみた。
お粗末なその尾行を逆手に取り、路地へ引き込んだ。
そして、相手が行動に移す前に8人ほどいた男共を次々と薙ぎ倒し、気絶させていった。

「スクアーロ、ずるいのなあ!俺がやりたかったのに」
「てめえだって半数はやったろうが・・全員ひとりでやろうとすんなあ゛」
「こんな下っ端に剣帝サマが腕を振るう必要ないんだって、俺だって強くなったんだし」
「わかってらあ゛、任務は任務だからなあ」

そう言って、床に倒れている比較的まだ傷が浅そうな男の首根っこ引っつかんで起こさせる。
そして、顔をぱちり、と叩いて、目を覚まさせた。

「う゛お゛おい、起きろぉお゛」
「う・・あ゛」
「悪いなあ゛、オレらはそんなに弱かねえんだぜぇ」
「・・・・てめえらボンゴレの人間だろ・・・・」
「ん・・?」
「てめえらのせいで、ウチのボスが・・・」
「どこの野郎だ、てめえ・・ああ、そのマークは」

どうやら下っ端と見ていた人間は、二人がボンゴレの人間と判って付いて来ていた様だ。
胸元に小さくついているバッチをみて、この男の所属がXANXUSの追っているファミリーだと判った。
イタリア中に薬をばらまいて、あちこちに傷跡を残していったファミリーの残党だ。

「ボンゴレで薬はご法度なのな、守れねえ奴は粛清すべし、なのな」
「・・もううちのルートは全部やられた、悪魔のような赤目のにな。これ以上は流れようもねえよ・・・」
「おーそりゃよかった」

XANXUSの任務のひとつはこれで終わっているということだ。
この男がXANXUSに遭ったことも、この言葉からわかる。

「それで、その赤目。どこに行ったか知らねえか?知るわけねえか」
「知るかよ・・・あんな悪魔みてえな男飼ってるボンゴレの気が知れねえぜ、クソが」
「お゛ーそうかそうかあ゛、口に気をつけたほうがいいんじゃねえかあ゛」
「そうなのな、その悪魔はうちのボスの最愛の人間なのな?」
「あ゛!?」

酷く驚いた顔をする男を、スクアーロは手を離して降ろしてやった。
XANXUSのことを罵倒するような男に触れていたくはない、とさらに睨み付ける事も忘れずに。
ただ、ここにXANXUSがいたとしてもその『悪魔』という言葉を褒め言葉と受け取っていたかもしれないが。
赤目の人間がこの周辺にいるだろう、という情報は手に入った。
これ以上この男から有力な情報を手に入れることはできないだろう。
他の倒れている人間もきっと同じであろう、これ以上手を出しても無駄な働きである。

「処理班行きでいいのかあ゛?」
「いんじゃね?多分ツナが処分決めてくれるだろうし」
「そうすっかあ゛」

ぴ、と山本が処理班への連絡を始めると男がびくり、体を震わせた。
ボンゴレに連れて行かれた後にどう扱われるかは、今の自分の発言で予想がついたからである。
そのまま男は青ざめて、倒れて泡を吹いて気を失った。

「あらら?思ったよりも根性なかったのな、下っ端は下っ端か」
「ドンナの『やさしさ』でも想像したんじゃねえかあ゛」
「そら、違いないのな」

実際の処分は、ボンゴレの内部での下働きをしてもらうことになるだろう。
綱吉は甘いといわれても全員生かし全員ボンゴレに引き込んで、仕事をしてもらうのだ。
そしてお互い納得してからファミリーの一員として扱い始めるのが通例だった。
マフィアだった人間がなかなか一般の生活に戻るのは難しく、苦労するくらいならば・・という考えらしい。
ドンナの『やさしさ』でファミリーに入ったものも大分増えてきた。
もちろん、裏切り者はヴァリアーの任務として処理されるのだが。
男のイメージでは日本風に言って、拷問ののち打ち首、晒し首くらいは想像しただろうか。
あまりのイメージの違いに再び倒れるかもしれないと思うと、山本は笑いが止まらなかった。





処理班にすべてを任せ、再びXANXUSがいるであろうホテルへと足を進めた。

「ご予約は?」
「こういう者なんだけど」

そう言って、山本はボンゴレリングをフロントの人間に見せる。

「し、失礼いたしました。お部屋をすぐにご用意致します」
「ああ゛、そうじゃなくてなあ゛。他にボンゴレの人間が宿泊してると思うんだけどよお゛」
「・・・少々お待ち頂けますか」

フロントの一人が支配人と思われる男を連れてきた。
このホテルの対応の良さと機敏さをXANXUSは大層気に入っていた。
ボンゴレ自体も贔屓にしているホテルなのである。

「お待たせ致しました、確かに今ボンゴレの方が宿泊されていますが・・プライベートだと仰っていまして・・その」
「人をいれるな、ってことかあ゛」
「・・はい、こちらとしてもリネンの交換とルームサービス以外では立ち入らない様に言われておりまして」

久々に相当機嫌の悪いであろうXANXUSにスクアーロは軽い苛立ちを覚えた。
基本的に他人と相容れないXANXUSだが、綱吉の傍にいるようになって大分軽減していたようだったのに。
これではまるで以前の――――ゆりかごの時のXANXUSのようではないかと。
他の人間を使っているだけで常に心に壁があるXANXUSに逆戻りしてしまったのではないかと・・・。

「悪いけど、ドンナの命令なのな。案内してもらえるか?」
山本が強い口調で支配人に求めると。
「・・・わかりました、ご案内致します。こちらへ」

思ったよりも早い判断で支配人は二人を案内し始めた。
ドンナの命令の一言が使えるのは守護者と一部の幹部だけで、さらに先程指輪を確認したこともあり山本のことを信用したのだろう。
部屋の相手がXANXUSあっても、案内すべきことだと判断できたの支配人は本当に頭がいい。
もしかしたら、XANXUSに相当手を焼いていて困っていた結果なのかもしれないが。
支配人の案内の元エレベータへ乗り込んだ先は、いつもの部屋ではない等級のひとつ低い部屋だった。

「・・・ここかあ゛?どうして一番上じゃねえんだあ゛」
「ご本人がこちらを希望なさいましたので」
「変だぜえ?あいつ、あの部屋気に入ってたのによお゛?」

世間話をしながら案内されたその部屋の前まで来ると、突然、爆発音が鳴り響いた。
ビリビリとホテル中が振動する。
とっさにスクアーロと山本は弾かれたかのように戦闘体勢をとった。

「なっ!!」
「部屋ん中かあ゛!!?・・・おい、ホテルにいる人間を避難させろっ!早くだあ゛!!」
「はっっはいい!」
「山本お゛」
「わかってるのな!」

部屋の扉は飛ばなかったものの中から煙が上がっている。
音と衝撃だけが大きい威嚇用の弾を使用したのだろう。
今のところそれ以外の音は聞こえない、気配は多くても十人前後といったところか。
二人は自らの得物を構え、部屋へと飛び込んだ。

しかし、二人が飛び込んだときにはそれはすべて終わっていた。





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