その堂々たる行動に、相手もたじろぐことなく言葉を返してきた。

「・・・てめえがボンゴレ十代目か」
「ええ」
「さすがだよな、てめえらのせいで仕事しづらくなったからよお・・・イライラすんなその顔」
「民間人巻き込んでの闘争に、さらに薬漬けにして自分のコマにして使い、用済みになったらその辺に捨てる」
「だからなんだよ」
「そんな真似をする輩を野放しにするわけにいきませんからね」

冷えた笑顔で綱吉は続けた。
熱くなって血が頭に上りきっている人間にはこれが有効だ。
相手のボスがさらに驚いた顔をしていた、薬の情報を知らなかったのだろう。
情報不足は、相手の力不足ということも覗える。

「ああ、勘違いするなよ。あいつらが薬欲しいって言ったんだからな、所詮下町の奴らなんてその程度の薄い快楽に溺れちまうちっぽけな人間しかいねえんだよ」
「・・関係ない人間巻き込むのはやめて下さい。マフィアは一般人に手を出すべきではない」

綱吉の本心でもあり、ボンゴレと同盟ファミリーには厳守させていることだった。
道を外したなら外したもの同士で争うべきで、外の人間を巻き込んではいけないのだ。
ましてや、薬はご法度で。

「制裁・・加えさせて頂きます」
「できるもんならな・・・出て来い、お前ら!」

扉の外や窓の影から何人もの男が出てきて。
綱吉もそこまでは気配を読めていたので驚かなかったのだが、その人物たちを見て眼を見開いた。

「・・こども!?」
「ははは、一番いい駒だぜ?素直に言うことは聞くしよぉ、数はいくらでも確保できるからなあ」
「なんて・・ことを」
「用済みになりゃ、いくらでも売れるからな」

男は薄汚い笑いを浮かべ、子供たちに指示をした。
あまりに素直すぎるその様は薬だけの効果ではなく、洗脳されていることが見て取れた。
軽く舌打ちをし、綱吉は手袋をはめた。
本気で生かしておきたくない人物に、出会ってしまったようだ。

「XANXUS、スクアーロ。悪いけど、出来るだけ傷つけないで、気を失うようにしてあげて」
綱吉は後ろにいる二人に指示をする。

「わかったぞぉお゛」
「・・・」
「XANXUS?どうしたの?」

返ってくる返事がひとつのみ。
戦闘態勢に入りつつもXANXUSの様子を覗うと、困惑した顔をしていた。
綱吉の声が届いていないのか子供たちの顔を見て、拳を握り締め、その手を震わせていた。
子供嫌い、というよりも子供に対して怯えているようなその行動。
やはり連れてくるべきではなかった、と綱吉は後悔した。
自分が感じた悪いモノはXANXUSに対して、ということで当たっていたのだ。
奥歯をぎり、と噛み締めて、気持ちを切り替える。

「予定変更。スクアーロ、XANXUSと相手のボスの護衛頼む。おれが・・全部やる」
「バカ言うんじゃねえっ!てめえを守るのが最優先だろうがああ゛!!」
「いいから!!・・・頼むね」

有無を言わさず強制的に綱吉は敵の中に飛び込んだ。
XANXUSを守って、相手のボスも守って、子供たちを傷つけずにすむ方法はただひとつ。
――――相手の頭をとる、すなわち男を捕らえてしまうことだった。

それは、周りの人間には瞬きひとつで終わってしまっただろう。
綱吉は真っ直ぐ男に向かって飛んで、彼の回りの人間を当身で倒しつつ、男の銃を持った手を捕らえ捻り上げ、床にひれ伏せさせた。
一瞬、息を飲むほどのスピードで、綱吉は相手を捕らえたのだった。

「ぐっ」
「大人しくして下さいね、洗脳の解き方を教えてもらえますか?」
「・・・だ、れが、言うもん・・か」
「では、貴方には用はありません」

冷ややかな目をした『ドンナ・ボンゴレ』は男を腕ひとつで気を失わせた。
女の手であるがその辺の男とは比べ物にならないほど強く、そして無駄のない動きに相手のボスは息を飲み込んだ。

「・・・息子さんはこちらでお預かり致します、よろしいですね」
「・・・」

こくり、首だけが頷いた男は、力なくその場に沈み込んだ。
圧倒的な力の差は、今日以外の何者でもないのだろう。
そして、自分の息子の末路が見えているからこそ、絶望的な顔をしたのだ。

「あとは、君たちだね」

子供たちを向き、綱吉はさっきとは打って変って、やさしい微笑を見せた。
命令する人間がいなくなっても相変わらず攻撃できる態勢をとっている子供たちだが、その手が動くことはなかった。
『攻撃しろ』の言葉がなければ動けないようにされているようだった。

「少しだけ、おやすみなさい。後でゆっくりお話しようね」

そう言ってその場にいた子供たちを一人ずつ武器を落とし気絶させていった。
やっていることとは裏腹に、彼女はまるで子を寝かしつけるかのように穏やかな顔をしていた。
最終的に、その場に立っていられたのは綱吉とスクアーロ、XANXUSの三人だけであった。
一仕事終えて、綱吉は大きくひとつため息をついて、思い切り背伸びをした。
そして、XANXUSのほうを向いて。

「XANXUS・・ごめんね、帰ろう?」
「・・わる、い」
「いいの、帰ってからゆっくり話そう、ね。だから、帰ろう?」
「・・・ああ」

まだ軽く強張っているXANXUSに駆け寄り、綱吉は手を握った。
大丈夫、そう口が動いたのをスクアーロは見逃さなかった。

「スクアーロ、本部に・・」
「連絡は入れたぜぇ、もうすぐ来るだろうぜええ゛」
「ん、ありがとう」
「引き上げかあ?」
「うん・・・早く帰ろう」

綱吉もXANXUSもそれ以上は何も話さなかった。
口数の多い綱吉がここまで話さないのはいつ以来だろうか。
本部に着くまでの長い時間、三人は、静かな空間で時を過ごしたのだった。



スクアーロは今日の任務で考え始めたことがあった。
思っていた事実と異なる真実の存在が見え始めていたからだ。
鬼だろうと悪魔だろうと、顔色一つ変えることのないXANXUSが子供を見てあそこまで豹変するのはおかしすぎる。
綱吉とXANXUSだけで隠している『子供』に関することがきっとあるのだ。
そうでなくては、XANXUSが子供を望まない理由が見えてこない。

「何があいつをそうさせたんだあ゛・・・・?」

口から出かけた疑問に今、答えは出なかった。





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