スクアーロとXANXUSを引き連れ、相手の待つホテルへと向かう。
相手がセッティングした場なので、期待はしていなかったのだが、彼らのもてる一番のホテルを用意したようで小奇麗で見栄えするところだった。
郊外に位置するそのホテルは高級の一色を前面に押し出したいかにも、なモノであった。
「わ、なかなか綺麗なところだね」
「・・・・」
XANXUSはスクアーロまでが共に来た事に対して、周りに負のオーラを飛ばすほど不機嫌だった。
ただし、スクアーロも綱吉も不機嫌なXANXUSに慣れていたので、困ったのは詫び入れにきたファミリーの構成員だろう。
その瞳に睨まれたら、常人では身動きも取れなくなるだろう。
「お待たせ致しました、ドンナ」
「いえ、私たちも今着たばかりですから」
初老の、九代目と同じくらいの年齢に見える男が、このファミリーのボスのようだ。
落ち着いた雰囲気は九代目に通じるものがあるが、ボンゴレというビックネームに完全に気圧されているようで。
せわしなく動くハンカチが気になるほど、汗をかいていた。
「今回、私の部下が大変失礼を致しました。私のほうでも把握しきれていない部分がありますが・・・」
「把握しきれない、と言いますと」
「は、あの、私の息子が勝手した行動で引き起こしているものばかりでして」
「息子さんが、ですか」
「はい、調査と情報収集をしておりますが、未だ息子の消息も掴めておりませんゆえ・・・」
「ということは、貴方が直接命令を下していた訳ではないのですか?」
「もちろんです、いくらマフィアでもルールがあることは私もわかっております」
口はよく動くタイプのようだ。
どこまでが本心で、どこまでが媚びて言っているのかは大体わかった。
悪いタイプではないのだが、正直綱吉にも、この男がトップに立つような人間でなかったことぐらいは読めた。
この人をトップに据えたファミリーにも、それに嫌気がさして自ら動き出した息子もろくな者ではないのだろう。
「息子もこの場に連れてきて、謝罪させるつもりでしたが」
「いえ・・ファミリー内の抗争というわけでもなさそうですし、この件は約束を取り交わすということで収めて頂いてもよろしいでしょうか?」
「なんなりと」
相手のボスも、よく話せたものだと思った。
緊張でだらだらと汗が流れ、嘘をつこうものなら直感なしでも見抜けそうなほどの怯えぶり。
ボンゴレの力はそれほどまでに恐ろしいのだ。
「今後は民間人を巻き込む抗争はしないことをお約束ください。私共もマフィア同士なら手を出す気はありません。それと、息子さん、は」
「はい」
「一度発見次第、お話させて頂きたいのですが」
「わ、わかりました。再度、必ず、席を設けさせていただきます」
「では、調印ですね」
思いの外早く物事が進んでほっとする綱吉に、XANXUSもスクアーロも首をかしげていた。
結局この場に主犯の男がおらず、その上の人間に約束を交わすだけではまた同様のことが起こるに違いないと思っていた。
そして、すんなり事が進みすぎている気がしてならなかった。
それでも、綱吉はこれでいい、と考えていた。
直感が告げる嫌なもの、嫌な現場から早々に立ち去りたかったのだ。
互いのサインを確認し合い、握手を交わした。
同盟でない格下のファミリーでもボスが来る場合には、なるべく綱吉は出向くようにしていた。
握手まできちんとかわして、こちらの戦意のなさを見せるようにしている。
今回も例外ではなく、その行動から同盟の申し込みをするようになったファミリーも数多く存在した。
「こ、今回はわざわざ出向いて頂いてありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。少し頭を悩ませていたもんだいが解決できてよかったですよ」
綱吉は、嫌な予感が外れてよかったと感じながら席を立ち、扉のほうへ向かった。
遅れてXANXUSとスクアーロが付いてくる。
相手ファミリーの部下たちが層々たるメンバーに怯えながら見送る中、綱吉は帰るつもりだったのだが。
キインッ
頭の中を痛みが走る。
これは、危険信号、超直感が告げる危険の印であった。
「綱吉!」
XANXUSに抱え込まれ、スクアーロが剣を振って何かを叩き落した。
カンッ、と跳ね返る音が何度かして、それが銃弾であることに綱吉も気づいた。
バンと机をなぎ倒し、隠れる場を作り身を潜める。
「何・・敵襲、にしてはお粗末だけど?」
「わからねえ、相手の野郎も驚いてやがるからな」
相手のボスが驚いた顔をして、敵と思われる人物を逃げることなく見ていた。
驚いて動けないにしてはおかしいぐらい、相手の顔をじっと見たまま固まっている。
知り合い、なのだろうか。
「貴様・・何をしている」
「まんまだよ、てめえとボンゴレ十代目の命を刈ろうと思ってな」
「馬鹿な真似をするんじゃない・・・大体今まで何のつもりでこんなことしていたんだっ!!」
「てめえがここまで動かねえから、俺が動いてやってんだろうが・・・ペコペコしてたって何にもならねえんだよ」
綱吉もXANXUSもスクアーロも二人の様子を覗っていた。
話しぶりからすると相手ファミリーの失踪していた息子のようだが、ボスに従う様子もなく逆に殺意を抱いているようだ。
仲間割れに巻き込まれたと言うことだろう。
「チッ面倒だな・・クソが」
「隠れている人数もそう多くないから、突破するだけなら多分出来るけどこのまま帰ったら元の木阿弥だよね」
「またちっせえ争い止めんのは余計面倒だあ゛」
「なら、おれが出た方がよさそうだね。後方支援よろしく」
す、とテーブルの影から立ち上がり、綱吉は前へ出た。
そしてニコリ笑って言った。
「はじめまして、私がボンゴレ十代目、沢田綱吉です」
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