次の日、護衛兼運転手として、綱吉とXANXUSに着いて行くことになったスクアーロは予定よりもだいぶ早い時間に目を覚まし準備を始めていた。
昨日の綱吉の話が頭に残ってしまい、寝つきが悪かったうえに早く目が覚めてしまっていたのだ。
子を望まないXANXUSの気持ちはスクアーロには検討つくものではなかった。

「ボスさん、変だよなあ゛」

髪をまとめながら再度考えて見るものの、理解できるものではなかった。
男女の差だけではここまで考えが異なるとは思えない。
きっと何か切欠になることがあったのかもしれない。
もう両手の年数では数え切れないほど共にいるというのに、XANXUSの考えはわからなかった。
そして、その切欠すらも、スクアーロには思いつかなかったのだ。

「遅れたらまずいかあ・・・早めにいっとくかあ゛」

いつもの隊服ではなく、黒のスーツにネクタイ。
そして髪を一本にまとめて、会議や護衛のための格好をする。
髪をまとめるのは気合を入れるためと、呆れるほどに伸びてしまった自分の髪を確認するため。
綱吉はもう準備を終えただろうか。
二人が待つであろう執務室へと足を進めた。
ただじっと自室にいたのでは、変に考え込んでしまうから、早く誰かに逢って違うことを考えたかった。





一方、綱吉はまだ自室で準備をしているところだった。
「・・そろそろ行くぞ」
「う・・うん、ちょっと・・待って」

元々あまり器用なほうではない綱吉が、今日は一段と準備にもたついている。
綱吉は昨日感じた嫌な予感が抜けず、XANXUSを連れて行くことに戸惑いを感じていたのだ。
そのことばかりを考えていたため、手が動かず、準備がいつまでも終わらなかった。

「綱吉」
「・・何?」
「来い、その様子じゃいつまでたっても終わんねえだろうが」
「え!?やだ、着替えくらい自分でできるって」
「その着替えにお前はいったい何分かけるつもりなんだ」

時計を見ると、着替え始めてからすでに30分が経過していた。

「え、あれ・・やば・・・」
「・・考え事は着替えが終わってからにしろ。せめて前留めてからにしねえと襲うぞ」
「そっそれは余計っおくれちゃうっから・・・だめだ、よ」

冗談で言っているのだろうが、XANXUSがいうとそれも冗談に聞こえない。
綱吉は必死で手を動かすが、あせってしまってうまく手が動かなかった。
ボタンが手からすべり、何度やっても穴に通ってくれない。
結局綱吉は強引に後ろから、まるで子供のようにXANXUSに着替えさせられたのだ。

「・・・ごめん、ありがとう」
「何を考えていた?いくら格下相手でも緩んだ気持ちのままなら行かねえ方がいい」
「・・・今日行かなくていいならそうしたいくらいだよ」

行かなければ、相手はまた同じことを繰り返すに違いない。
相手から詫び入れに来るぐらいだが、今日だって本気で謝るなどとはXANXUSも綱吉も思っていないのだ。
自分たちのほうが格上で従う必要があることを知らしめる為にも、行って力を示さなくてはならない。

「守護者もヴァリアーもこれ以上無駄な戦いはさせたくない、だから行かなくちゃ」
「なら、気を引き締めろ・・・嫌な感じが取れねえんだ、てめえを怪我させる様な真似はしたくねえ」
「おれも・・・嫌な予感してる・・・ねえ、XANXUS。今日ここで待機しててくれないかな?」
「バカ言うんじゃねえ、なら余計オレがてめえを守んなきゃなんねえだろうがっ!!」
「でも!おれだってXANXUSが傷付くのは嫌だ!」
「・・・俺はもう傷なんか作らねえよ、だから安心して守られてろ、ドカスが」
「・・・」

XANXUSはけして弱くはない。
場合によっては綱吉よりも強いのだ。
それでも綱吉は、XANXUSを連れて行きたくなかった。
綱吉の感覚では、間違いなくこの嫌なものの矛先がXANXUSなのだ。

「てめえが首振っても俺は行くからな。わかってんだろうが、俺も直感使えるってことぐれえ」
「そう・・だけどさあ」
「俺がそう簡単にやられるタマだと思うのか?」
「・・・わかった、一緒に行こう」
「それでいい、俺も自分の必要な人間を守れる力はある」

意地でも着いてくる、というのなら、自分が彼を守ればいい。
彼が自分を守ると言うように、綱吉もXANXUSを守る力があるのだから。
無事、また二人でこの部屋に戻ってこれればいいんだ。

「XANXUS・・キス、していい?」
「来い」

体格の差を埋めるようにXANXUSの首に手を回し、背伸びをして軽く口付けた。
そしてそのまま、腕の力いっぱいに抱きしめた。
じくじくと腹部に回るほどの嫌な感じは取れなかったが、気持ちを切り替える切欠としては十分だった。
時間がない、でも、まだ不安でいっぱいの綱吉は部屋から出るのを躊躇っていた。

「XANXUS・・大好きだよ」
「ああ、俺も、てめえを愛している」

今度はXANXUSから振ってくるようなキスを受けた。
自分の唯一の人だから、おれが守る。
この温もりをまた二人で感じられるように。



決心が揺るがぬように。
綱吉は再度気を引き締めて、十代目としてXANXUSという部下を連れて。
部屋を出て、交渉の場へと向かうのだった。





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