守護者もヴァリアー幹部も、忙しい日が続いていた。
あちらこちらで小さな抗争が多発しており、それを鎮めるために借り出されていたのだ。
マフィア同士ならばこちらに害が及ばない限り放っておくが、一般人が巻き込まれる可能性の高い場所でのいざこざも数多くあった。
ボンゴレの目の届く範囲のものは能力のあるものを出して鎮めさせていたのだ。
まるで、マフィアの警察、のようだった。
「う゛お゛おい、こっちは抑えたぜええぇ!!」
「おうお疲れサン、スクアーロ。こっちも終わったぜ」
「凝りもせずにまた暴れやがってえ゛、味気ねえ闘いしか出来ねえカス共があ」
「ここんとこ、この辺で多いもんな。ほぼ毎日出ずっぱりだぜ」
今日はスクアーロと山本が現場に出ていた。
元々二人とも、デスクワークよりも外に出るほうが性に合っているため、一緒に任務を行うことも少なくなかった。
山本もスクアーロとともに出ることで、学べることが多いらしく、本人も望んで出ることが多々あるらしい。
「なあ、山本?このあと飯食いにいかねえかあ゛」
「まじで?行く行く!おごり??」
「バカ言ってんじゃねえ、割り勘だ割り勘!!何で奢んなきゃいけねえんだよ高給取りがあ!!」
「スクアーロだって同じくらい貰ってんのに」
「てめえの方が多いはずだあ、てめえが奢りやがれぇえっ!」
スクアーロが山本を誘ったのは、もちろん綱吉の事を聞くためだった。
仕事の後は体が疼く為、本当は部屋へ戻り剣を磨いて気を静めたかったのだが、守護者相手に時間が取れる機会はまたすぐに来るとは限らない。
山本は綱吉の親友と言うから、何か聞いているかもしれないとスクアーロは考えたのだ。
「スクアーロって細い割に良く食べるのな、俺よりも食べるんじゃない?」
「そうかあ゛、普通だろお?」
「いやいや、ツナには負けるけど、よく食べるほうだって。女の子で良く食べる子、俺好きなのな」
「その綱吉に釣られて食べ始めたからなあ、綱吉ってものすごい食いやがるからなあ゛」
「ツナは昔からあんな感じだっだぜ?小さいのに良く食うんだよな」
軽く4人前はあると見ていた料理を二人でペロリ平らげて、食後のコーヒーを飲みながらの会話だ。
こんなことを言っているが、山本も見た目どおり良く食べるのだった。
イタリアでも屈指の大盛りの店だというのに、見た目細い二人がさらりと食事を終わらせた様子には周りが驚いていたほどだ。
「そうだああ゛、山本ぉ」
「っとどうしたのな?」
「あのよぉ、綱吉のことなんだけどよぉ」
「ツナのこと?・・・ああ子供の話か!」
「・・・まあ、その話だあ゛」
綱吉の話、イコールその子供の話となってしまっているのはヴァリアーや守護者だけでなく、部下たちにまで広まっているため、山本もちょくちょく聞かれているのだろう。
「俺らもあの発言ビックリしたんだぜ、ツナってすごい子供好きだからよ」
「あ゛?綱吉が子供好き?」
「おう、うちのランボ小さい頃なんて、ツナが育てたようなもんだし、今でも子供見るとつい世話しちまんだぜ」
「へえ」
「部下の子供が着たら、必ず抱っこしに行く位だしな」
「おお」
「だからよ、ツナが子供産まない、って言うとは誰も思ってなくってよ。獄寺なんか泣いてたもんなー、『十代目のお子様抱っこしたかった』なんて言ってさ」
山本も少し、寂しそうな表情をした。
獄寺が、という言い方をしたが、山本も同じ気持ちなのだろう。
守護者も皆、同じ気持ちなのかもしれない。
それだけ綱吉は、皆に愛されている、ということなのだ。
「正直守護者皆で、いつ子供産んでもいいように仕事を引き受けられる体勢まで準備していたんだぜ。ツナがいつ妊娠してもスグ産休が取れるぐらいによ」
「う゛お゛・・十代目がそんな簡単に休めるのかよ!?」
「ああ、だってツナ自身、そうなったら休めるかなーなんて言ってた位だからな。獄寺が必死に組み替えやって作ってたんだけど・・もう必要なくなっちまったから」
「・・・?何だか矛盾してねえか?」
産休取りたい綱吉と、子供を産まないという綱吉。
今の話でまるで二人いるように聞こえる。
「子供欲しそうにしてたのって、それこそ新婚の頃の話だからな。最近忙しいってのもあってそんな話出なくなっちまってた」
「そうなのかあ゛・・・」
山本からは理由を聞かなかったが、収穫があったのは儲けものだった。
綱吉は子供が好きだということと、子供が欲しいと思っていた時期があったということ。
いや、もしかしたら今でも欲しいと思っているのかもしれない。
あくまで作らない、と言っただけで欲しくないとは言っていないのだ。
「あ゛ー子供かあ゛・・・」
スクアーロも子供は好きだったし、今は無理だが望んだ時期もあった。
産めるのに産まないのはもったいないと思えるのは、自分が『産めない体』だからだろう。
「ん?何、スクアーロも子供欲しいのな?」
「・・・可愛いとは思うけどなああ゛」
「協力してやろうか?」
「・・!?う゛お゛おい、バカ言ってんじゃねえぞおぉ!!」
ニコニコして意図の読めない山本に、スクアーロは大声を出して誤魔化した。
冗談でも、年下の男のその言葉にドキッとしたことは違いなかったから。
「はは、冗談だって。大体スクアーロに釣り合おうならXANXUSくらいの男にならなきゃ無理なのな」
「んな゛!!・・そんなことねえけどよぉ」
「ん?そういや、XANXUSも子供いらねえのかな?ツナは自分で言ってたけど、XANXUSの話って聞いてねえよな?」
「あ゛?ボスがかあ・・・跡取り産ませんなら綱吉に、って話は前に言ってたけどなあ゛」
「んー、じゃXANXUSは子供欲しいんじゃね?」
「でもよお、ボス確か子供嫌いだったと思ったぞぉ?」
「ふうん・・・それも変な話だよな」
スクアーロは今の話で、解決の糸口が見えたように思えた。
XANXUSがどう思っているのかは、今誰も知らないのだ。
綱吉は二人の意思だと言っていたが、本当はXANXUSの意思で綱吉がそれに合わせているだけだとしたら――――――。
綱吉が誤魔化しているのも理解できるし、辻褄が合ってくる。
「・・・スクアーロ?」
「っおっうあ!?な、何だあ、近えぞぉ゛!?」
「急にぼーっとするからなのな。閉店時間みてえだから行こうぜ」
「ん?ああ゛わかったあ」
「送ってくのな」
夜とはいえ、暗殺部隊の人間に危険と言う言葉は似合わなかったが、イタリア慣れしてきた山本にとって女性を送り届けるのは当たり前の行動だった。
「つってもよぉ・・行き先一緒だろうが」
「はは、一応女性は言わなきゃいけないらしいから」
「誰に言われたああ゛」
「へ?ツナのおじさん、じゃなくてドン・キャバッローネにだけど?」
呆れて酷い顔をしたスクアーロだったが、天然なのか気にしない性質なのか山本はスクアーロの手をとり、そのまま宿舎まで送り届けたのだった。
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