「何・・スクアーロまで遣い人にされちゃったの?」
「う゛お゛おい、何で知ってやがったんだあ!?」
「そりゃ、毎日入れ替わりに誰かが訪ねて来るんじゃ、来る人皆を疑いたくもなるよ」

とうとう万策尽きた、と言わんばかりにヴァリアーの人間まで送り込んでくるとは。
ジジイ共も、使える手は使うと言ったところか。
綱吉は想定外の人間の来訪をある意味では喜んだ。
大体、スクアーロを使うならXANXUSの方に聞きに行けばいいのに、と思ったが、端から答えそうもない人間に問おうとするほどバカな人たちじゃなかったなと思い出した。
要は、自分は舐められてるんだな、とウンザリしたため息を吐いた。

「お前も苦労人だよなあ、あんな父親と義理の父親がいるんだもんなああ゛」
「そう思うなら、二人まとめて引き取って欲しいよ。何なら葬っても」
「めったなこというんじゃねえよぉお!でもいいのかあ?XANXUSまで一緒に貰っちまうぜえ?」
「それはだめっ!!XANXUSはおれのだから!!」

もちろんスクアーロも本気で行ってるわけではなく、綱吉も本気で捕らえているわけではない。
少し変わってはいるが、これが二人の仲の秘訣だった。
アジト内でも数少ない、女同士の話ができるのはお互いがお互いだけだった。

「そこまでして理由を知りたいものかなあ」
「そりゃあ、自分らの孫が見れねえっつーんだったら悲しいだろうしよぉ。他の奴らだって頼まれてはいるものの自分が知りたいから来てんだろうし」
「だったら、本人が直接来ればいいのに」
「来たにもかかわらず、門前払いしたのはどこのどいつだああ!」
「だって、うざかったし」

綱吉は、目の前の紅茶にちょんちょんちょん、と砂糖を三つ入れてかき混ぜながら答えた。
うざかったのは本当だ。

「スクアーロも気になるの?理由」

甘党の綱吉の目の前にはクリームたっぷりのケーキも置かれ、さらに甘い水と思われる紅茶を飲んでいる。
綱吉は必ず砂糖を紅茶、コーヒー問わずたくさん入れる。
疲れていればいるほど、数が多くなるようで。
今は特に疲れているらしく、一口飲んで、さらに二つ加えてかき混ぜていた。
スクアーロは出されたままの紅茶を口にしてから質問に答えた。

「そりゃあ、なあ。大事な跡取りの話になるからなああ゛」
「跡取り、ね・・・」
綱吉は少し長めにため息をついた。

「スクアーロにだけ教えてあげるよ、おれ達が子供を作らない理由」
「は・・あ゛?いいのかあ?」
「うん、いいよ。その・・・跡取りだから、てのが理由」

今の今まで黙っていたと言うのに急にさらりと理由を吐き出した綱吉。
「生まれてすぐ、男だろうと女だろうと十一代目って皆に言われて、誰からも跡取り扱いされて。おれ達二人の子ならそうなるだろう?」
「そりゃ、九代目の息子と十代目の子供だしなあ」
「それが嫌なんだよ、XANXUSと綱吉の子供、ではなくなってしまう」

少しつらそうに話す綱吉にスクアーロは違和感を感じていた。
普段自分と話す綱吉はもっとくだけて話すと言うのに、今の綱吉は『十代目』として話しているように思える。
何かを隠すために建前の理由を述べているようだった。

「まあ・・・納得はしねえだろうが、理由としてはもっともな事だなああ゛」
「うん、それが理由・・まあ子供がいなくても、二人でいられればそれでいいんだけどね」
「・・・てめえがうらやましいなあ」
「でしょ?愛されてるっていいもんだよ」

ケラケラと笑って惚気話をする綱吉は、また普段どおりの綱吉に戻っていた。
甘いものを食べて嬉しそうに笑う。
スクアーロと女同士の話しをして、またケラケラと笑う綱吉に戻っていた。



スクアーロは頼まれてきたもののその役割が話せなかったと、九代目には伝えた。
話していいものだろうか、と悩み、結局綱吉のことを考えて話すのを止めた。

「君でも無理だったか、そうかね・・・」

九代目は半ば諦めているようだった。
元々、自分の子供たちはこの世にはおらず、最後の望みにも断られてしまったのだから。
孫のように慕う綱吉を大事にするほうを考えているのかもしれない。
スクアーロに感謝の言葉を述べて、また何かあったら頼むよと力なく話した。
苦笑を返すことしか出来なかった。

中途半端に理由を知らされてしまったスクアーロは、逆に綱吉がそこまでして理由を隠さなくてはいけないことに疑問を感じていた。
それならそうと皆に言ってしまえばいいのに。
まるで、スクアーロが行った時に思いついたかのように理由を話した綱吉。
自分にすら、建前でしか話せないほどの理由があるのだ。

「何考えてんだああ゛綱吉・・・」

本部内でも、同盟ファミリーでもすっかり知れ渡ってしまった十代目夫婦の『子供を作らない宣言』
スクアーロは誰に言われるまでもなく、自分が気になってしまった理由を調べ始めた。






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