XANXUSは今、かつてないほどの戸惑いを見せていた。
いつもであれば、少し腕に触れるだけでも手を繋ぐだけでも照れてしまうはずの綱吉が、体に凭れ掛かりなおかつ腕を絡ませたり抱きついてきたりと妙なほどスキンシップを取ってきた。
もちろん綱吉に抱きしめてもらうのは嬉しいが、未だ嫌な予感が取れずにいたせいで純粋に楽しめずにいた。
酒のせいにしてはこの行動はおかしい。
何度となく盃を共にする機会があったが、酔いつぶれることはあっても今日のようなからみ酒になることはなかった。

「綱吉?」
「んう?何ぃ?」

見た目はただ酔っているだけのようだが、目が座っていて。
それだけではなく、額に炎が燈っているときのように目の色がオレンジに変わっていた。
どことなく身体に熱が篭っているような熱さも感じる。
意識はあるようだが、危険な臭いがする。

「綱吉・・てめえ、もう休め。おかしいぞ」
「ふえ?どうして?おれまだXANXUSと一緒にいたいもん」
「一緒にはいてやるから・・・自分の体が変だと思わねえのか?」
「ん・・お酒飲んだから熱いの。だからXANXUSにぎゅってしたくて」

おかしい。
酔いが回っているせいだけではない、何かがおかしい。

「ね・・・XANXUS、キス、していい?」

そう言って綱吉はソファに座ったXANXUSの上に乗り上げ、顔を寄せてきた。
そのまま、一度頬に口付けて笑った。

「ね・・いい?」

綱吉の目に引き寄せられる。
答えを待たないうちに綱吉がXANXUSに口付けてきた。
まだけして上手いとはいえない綱吉からのキス、彼女からすることなどは稀なことで。
その拙さがたまらない、といつも思う。

だが今日はいつもと全く違っていた。
まるで全てを吸ってしまうかのように、深く、深く口付けて、XANXUSから離れようとしなかった。
もっと、もっと。

欲しているのは判る。
だが、XANXUSは一度綱吉を止めようと試みた。
これだけ気持ちの良くなる行為をしていても、XANXUSからちりりとする嫌な感覚はなくなることはなく、余計に大きくなっていったからだ。
それでも綱吉は離れることを嫌がって、キスを続けた。

ちりり、ちりり、首筋が焼けるように痛む。
嫌な感覚が広がって。



次の瞬間、XANXUSの感覚が全て持っていかれたと思えるほど力の限り体中の何かが抜け出した。
引き抜かれるような流れ出すようなその不思議としか言いようのない感覚はどこかで受けたことのある感覚で。
やべえ、と思ったときには。

綱吉にほとんどのそれを持っていかれていた。

綱吉がXANXUSから奪ったものは炎で。
炎量の多いXANXUSから奪えるだけの炎を引き寄せてしまった綱吉は小さな体から炎があふれ出していた。
完全にオーバーフローだ。


XANXUSが感じていた嫌な感覚はこれだったと悟った。
血が抜かれちまったように、上手いこと身体が言うことを聞かない。
しかしこのまま綱吉を放置するわけにはいかない。

自分の目の前にいる彼女は今、炎の制御が出来ず身体を苦しそうに震わせていた。
時折、炎の塊をあちらこちらへ撒き散らしていたが炎自体の勢いは衰えることを知らなかった。

「つな・・よし・・・」
「・・・」

ぼんやりとこちらを見ているようだが、焦点が合っていない。
動きの鈍い自分の両手を伸ばして、綱吉を抱きしめた。

「綱吉」

自分には綱吉のように炎を吸収することも、ましてや氷漬けにすることもできない。
出来るのは、苦しそうな彼女を抱きとめてやること。
そのくらいしか見つからなかった。

解決の糸口を見つけるために部下共に連絡したかったが、この場を離れることは得策とは思えないため諦めた。
今すぐに解決方法が見つかるような簡単なものとは思えない。


今は、落ち着かせることを最優先に。
綱吉の背中をゆっくりゆっくり撫でてやった。



炎を纏った綱吉は綺麗、だった。
でもそれは、危険と隣り合わせ、だということも判っていた。




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