あっという間に目的地に着いたように思えたのは、どうやら綱吉がずっと移動中に眠っていたからのようだ。
「着いたぞ」
綱吉が眠っている間に、XANXUSが運転する車で海の近くの別荘まで移動していた。
そこは海が一望できる丘の上にあり、周りは木々が生い茂っていて自然に溢れていた。
まさに隠れ家、な場所だった。
「すご・・きれいなところ・・・」
「だろう?」
日が沈みかけていたその時間の海は光の反射と夕焼け色で何にも換え難いほど綺麗だった。
波や虫の音が響くほど静かで。
忙しかったこの頃とは全く正反対のこの自然が痛いくらいに染み渡った。
「中、入るぞ」
「もうちょっと見たい、な」
「中からでも見れる、てめえの体、冷やすんじゃねえ」
「・・・うん」
XANXUSに手を引かれて、綱吉は別荘内へと入っていった。
まだこの空気の中で見ていたい、平和な空だった。
あしたもきっとみられる。
そうだといいな。
休暇はまだ、始まったばかりだから。
別荘はXANXUSの持ち物にしては小さいものだった。
以前、大きな部屋やベッドが苦手だと綱吉が言ったことを憶えていたため、小ぢんまりとしたこの別荘を選んだのだ。
食料庫とリビング、寝室、キッチン、あとは風呂とトイレしかないこの別荘。
二人で過ごすなら十分、と綱吉は大層喜んだ。
「あ・・・食べ物は?」
「ある程度は買ってきた、食糧庫にも多少置かせてあるから2人で食うには事足りんだろう」
「ほんと?じゃあ食料庫見てくるよ、何か食べたいものある?」
「てめえの作るものなら何でも」
「嬉しいこと言ってくれるよね・・ほんと。期待しないで待っててよ?」
なんだか新婚さんみたい・・・と綱吉はぼんやり考えながら食料庫へと足を進めた。
自分の作れる料理など限られている。
基本、日本の食事で育った綱吉はXANXUSが好むイタリアの料理を作れるか心配だったのだが。
食料庫には大量の缶詰と保存食に混じって、XANXUSの好む料理のレシピがこっそり置かれていた。
ルッスーリアであろう。
XANXUSの好みの難しさを知っているからこその行為だ。
いくつか足りない食材もあったが、それはXANXUSの買ってきたものに含まれていると期待してキッチンへと食材を運んだ。
「よかった・・・でも、初めて作るもの食べさせて大丈夫かな・・・」
自信なさそうに綱吉がひとりごちる横で、XANXUSが車から荷物を運んできた。
その中には数十種類におよぶ酒瓶も含まれていて。
「どうした?足りないものがあるなら街まで出るぞ?」
「多分大丈夫だと思うんだけど・・・それよりそのお酒って・・・」
「てめえも飲むだろうと思って見繕ってきた。食料庫にもあるだろうがアレは俺用のものばかりだからな」
「でも、食料庫にも結構種類あったよ?」
「それでも二人分には足りねえだろう?」
「・・・」
XANXUSが酒好きとは聞いていたが、ここまで飲むとは思っていなかった。
綱吉は驚きを隠せない様子で。
逆にXANXUSとしては、なぜ綱吉がこれほどまでに驚いたのかわからなかった。
ワインは水替り、の文化で生きてきたXANXUSとまだ成人になりたての綱吉とでは『酒』の扱いが違うということに二人とも気づいていなかった。
レシピはこれさえ読めば誰でも作れる、というくらい詳しく書いてあった。
おかげで作ったことないメニューだったが、何とか形にすることが出来た。
「おいしい・・?」
「ああ、うまいぜ」
「ホント?」
「嘘言ってどうする、カス」
「ん・・・良かった。初めて作ったからさ、食べられるもので良かったよ」
照れながらも嬉しそうに笑う綱吉を見て、XANXUSも嬉しそうに酒を飲んだ。
格別に美味い、と思った。
綱吉もXANXUSの用意した酒を飲んでいた。
以前に比べ多少度数が高くなったのだが、それでも美味しいなと思っていた。
今日は多少酔っても大丈夫、と判断したせいか気にせずどんどん飲み進めていた。
綱吉自身は、自分が酒に強くなったと思っていたようだが実際はほとんど飲める量は変わっていなかった。
「XANXUSの選ぶお酒ってどれも美味しいよね」
「まずい酒は飲めねえからな、自然と選ぶ術が身につくんだ」
「前はお酒苦手だったけど、XANXUSの選ぶお酒のおかげで美味しく飲めるようになったんだ」
「味が判る様になるともっとうめえからな、経験つむといいぜ」「イタリアは美味しいお酒多いんでしょ」
「水替りだからな、そうじゃねえのもだいぶ混じってる」
「そっかあ、えへへへへ」
XANXUSはいつもよりもだいぶ早いペースで飲み進める綱吉を心配になった。
自分も彼女のことを言えないのだが、浮かれているのだ。
ごくまれに、しか一緒にいる時間が持てないからこそ。
今一緒にいるのが嬉しいが、それにしても綱吉は飲みすぎていると思う。
綱吉の作った料理は想像よりうまかった。
普段口にしている食事に近い味のものを出してきたことには驚いたが。
レシピ見ながらできちんとした食事を作れるのは日頃からキッチンに立っているということだ。
思いがけず、惚れ直した。
だが、なぜかXANXUSの首の辺りがチリチリした。
これだけ幸せな条件が揃っているにもかかわらず・・だ。
何か嫌な予感がする。
XANXUSも綱吉ほどではないが、感が相当当たる。
酒では拭えないほどの、それ。
思い過ごしであれば、と願った。
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