交渉予定だった相手ファミリー、と呼ぶにも相応しくないほど繋がりの悪いものだったが、それは思っていた以上に脆いものだった。
あれだけでかい顔して悪い顔しまくってたにもかかわらず、ドンナ・ボンゴレとヴァリアーのボスが動いたと聞いただけでファミリー構成員のほとんどが逃げてしまったらしい。
単なるチンピラの寄せ集め、だったということだ。
そのチンピラ共にもボンゴレの名が通るほどだったのには綱吉は驚いていたが。
残されたボスも、自分が出向く前に自ら命を立ったとのことだ。勝ち目ないのは初めからわかっていただろうに、彼の往生際の悪さがこの結末を産んだ。
後味の悪さだけを残し、おさわがせなファミリーの一件はあっけなく幕が下りてしまったのだった。


「つまんねえ」
「うん」
「無駄足じゃねえか、ドカスが」
「まあ、自らの手で下すことにならなくて良かった・・・かなあ。これでまた後処理が大変なことになりそうだけど」
「やっぱりこんなカス相手にてめえや俺が出る必要はなかったろうが!下っ端に任せときゃよかったぜ。」
そうしたら、面倒な後処理も減ったであろうが、それは後の祭りである。

「まあ、終わったことだし・・・ね?」
「・・・・」

それでもXANXUSの仏頂面は消えることがなかった。
せっかく自ら足を運んだにもかかわらず何の仕事もせずに終わったとあってはヴァリアーのボスにとっては不満の一点だろう。
こんなあっけない結果を残すなら、やはりスクアーロあたりに仕事を回すべきだったと後悔していた。
相手を立てる意味で会談の場に二人で訪れたのだが、待っていたのは死体のみとなると無駄足もいいところ、である。
面倒だと思いつつも綱吉に会いたい一心に出向いた先の仕事がこれでは、文句の一つも言いたくなるというもんだ。


「とりあえず、本部とおれんとこの守護者に連絡を入れて、片付け頼むからちょっと待ってて」
そう言って綱吉は携帯を取り出して方々へと連絡を取り始めた。
XANXUSもヴァリアー本部で待機させているレヴィに状況連絡と後処理を任せる旨を伝えた。
レヴィとしては自らが付いて行けなかったことを悲観していたが、仕事をボス直々に、しかも単独で与えられたことによってずいぶんと機嫌がよくなったようで。
「三日、留守にする。後の事はてめえに任せる」
というXANXUSの言葉により。
手がつけられないほど張り切ったおっさんが出来上がってしまったのだった。
細かいことは他の誰かが何とかするだろう、大体いつもXANXUSはこの調子で他の誰かに仕事を任せてしまっていたのだ。


綱吉は日本のアジトの誰かに連絡を入れているようだ。
「うん、じゃあこの件は任せるよ、ヨロシクね。あ、あと。今日から三日間おれが休暇取ることになってるよね。うん、そう。・・・うん」
大体いつも右腕が連絡を取っているので、今もそうなのであろう。
「これから、XANXUSと旅行に行って来るから!・・え?聞いてない?うん、だって言ったら行かせてくれないじゃん。・・・行き先?おれも聞いてないよ?・・・うん」
綱吉がどこかへ行くときは必ず誰かが付いてくる、護衛の役割として。
多分、そのための要員を送るために行き先を聞いてきたのだろうが綱吉本人も知らされていなかったため答えられなかった。
「うん、出来れば連絡は入れないで欲しいな・・・は?だってXANXUSがいれば護衛いらないじゃん。・・・えーいいよ。皆仕事割り振ってあったでしょ?」
着いてくる気満々の様子で相手は話しているのだろう。
「きちんと仕事してくださいね・・あと雲雀さんに連絡入れたりしないでよ・・・わかってるね?」
じゃあよろしくねー、と明るく携帯を切ってしまった。
電話の奥で『じゅうだいめええぇ』という叫び声が聞こえたようだが、綱吉の耳には届かなかったようだ。
多分耳に届く前に遮断してしまったのだろう。




「・・・てめえんとこの守護者はまだあの調子なのか・・・」
「そうなの、婚約者と旅行に行くことの何に問題があるんだろうね・・・困った人たちだわ」
「論点はそこじゃねえ、と思うがな」

旅行に行くことを伝えていなかったことが問題なのであろう。
まあ、守護者としては『婚約者』という存在も認めたくなかったようだが。

「だって、旅行に行くって言ったら誰か着いてくるじゃん。護衛はXANXUSがいるからいらないっていつも話してるのに」
「だからってあんまりその調子で続けてるとGPS埋め込まれるぞ」
「う・・・リボーンがそんなこと言い始めてた・・・」

あの家庭教師ならやりかねないことである。
どのみちこの場でじっとしていたら、誰かが二人を見つけて付いてきてしまう可能性がある。
後処理でこの場を訪れるであろう人間たちを考えると、今すぐにでも移動を開始したほうがよかった。


「XANXUS、行こうか」
「ああ」
「どこに連れて行ってくれるの?まだ聞いてなかったよね」
「着いてからの楽しみにしておけ、少し移動することになる」
「うんっ」

そのまま二人は街中へと歩いていったのだった。
XANXUSがその場で行き先を告げなかったのは、周りで聞いている人間がいたからだった。
たとえそれが一般の人間であっても、ボンゴレ幹部が情報として仕入れる要因になりうるからだ。
用心には用心を重ねる。


行き先はヴァリアー所有の別荘。
この旅行のために購入した新しいもののため、ボンゴレ本部ですら存在を把握していない場所にある。
邪魔が入らないところで、ゆっくりと時間を過ごしたいという綱吉の願いを叶える為に。
XANXUSが用意した小さな別荘に二人は向かっていた。





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