「XANXUS、この間送った資料、目を通してくれた?」
それは日本では早朝、イタリアでは夜に当たる時間の婚約者二人の会話であった。

『ああ、スクアーロを送る予定だが。変更がでたか?』
「うん、その件、相手方から会談の申し出があってね。相手もこっちの動きを窺ってたみたいだから、いっそおれが出て片をつけようかなと思ってるんだけど。」
『てめえが出るのか、護衛は?』
「えへへ・・・だから連絡したんだよ。十中八九これは黒。相手はおれ狙いで、さらに裏も汚れまくってる。これ以上はほおっておけないなあ。」
『何がいいてえ?』
「XANXUSに出てもらえないかなーって。報酬二倍で」
『上等だ、手加減無しでやってやるよ』
「あくまで表向きは話し合いだからね、・・・多分無理だとは思うけど」

綱吉は手元に用意された資料をぺらぺらめくりながら、困った表情を見せた。
出来る事ならば『殺し』はしたくないのだが、今回は被害が大きすぎた。
黙っておけないほどイタリア中を引っ掻き回し、ボンゴレ内にまで被害が及び始めている状況で、相手を放置するわけには行くまい。

『薬に手ぇ出した時点で消すべきだったな』
「おれも読みが甘かったよ、思ってたよりもやり手だった」
『こっちからは俺だけでいいのか?何なら全員でもかまわねえが』
「ん、全員連れて行きたいけど、XANXUSだけで十分だよ。女だってだけで小馬鹿にしてるような奴だから油断してるに決まってる」
『ドンナ・ボンゴレの恐ろしさを知らねえなんざおめでてえ奴だな』

クク、と相手先で笑うのが聞こえてきた。
む、と思ったが、自分でも少しだけそう考えていたので否定は出来なかった。
ボンゴレに手を出す馬鹿は全世界を見てもそう多くはないだろうから。

「日は決まり次第またすぐ連絡するよ、早いうちだろうけど」
「ああ」

仕事の話がひと段落しXANXUSは通信を切ろうとしたが、ちょっと待って、と通信機の奥から聞こえてきたので再度手に持ち直した。
綱吉が突然、こんなことを言い出したのだ。

「XANXUS、その後の仕事って何も入ってなかったよね」
「ああ、てめえが仕事くれねえからな」
「皮肉はいいよ・・じゃあ、おれと一緒にバカンスにでも行かない?」
「は?バカンス?」

急な誘いにXANXUSは瞬時に言葉の意味を捉えることが出来なかった。
バカンス、とは旅行や保養のための長期休暇のことであるが。
「おれもこの大仕事片付いたら、少し休暇を取る予定でいたんだ。働きづめはよくないって皆口を揃えて言うもんだから、取らされたってのが正しいのかな?」
過保護な守護者はどこまでも過保護なようだ。
「どうせならそのまま一緒にどこか暖かい島ででも休息を共にするってのもいいかなって、ね」

「あ、ああ。わかった。一緒に行こう」
「やったぁ!じゃあ、その手配もしておくね!!」
「ん、いや。俺が準備しておいてやる。ボンゴレ内でも気に入りの場に連れて行ってやるぜ」
「ほんと?じゃあ、お願いしちゃう!楽しみにしてるね」
「ああ、俺もてめえとの時間、楽しみにしといてやる」



仕事の手は抜くなよ、と釘を刺してXANXUSは通信を切った。

彼の今日の仕事は綱吉との定期連絡で終わりであった。
私室へ戻り好きな酒でも飲みながら、初めての旅行計画を密に練ろう。
XANXUSのオーラがピンク色に見えるようだった。
めったに見られることのない、機嫌のいいXANXUS。
やたらと機嫌のいいオーラを出しているXANXUSを目の当たりにしてしまった一部下は、その日から三日ほど寝込んでしまったという。




一方の綱吉は朝一番に私室から連絡を入れた。
起き抜けすぐに、といっても過言ではない時間にだった。
彼女の仕事はこれから始まるのだが。

「やった・・・やったあ!XANXUSと旅行!!」

彼女の心はめいっぱい『XANXUSと一緒に旅行に行ける』ことで埋め尽くされていた。
喜びで一杯で。
もちろん頭の中は花畑で。
恋する乙女に想像力の限界はないようで、旅行先での着る物や食べる物の事を考え始めていて。
仕事をする時間になっても、執務室に訪れないのを不思議に思った獄寺が
「十代目ーっおはようございますーっ!」
と迎えにきたことにも気づかず、クロゼットの中で着て行く服を選ぶためにひっくり返していたのだった。


そんな綱吉はその日、獄寺に仕事を替わられてしまうほど何も出来ず、そのせいでリボーンに説教をくらい。
たまたま遊びに来ていた雲雀に同情の目で見られてしまうほど仕事ができなかったのは言うまでもないことで。
二日、三日と続くようなら『XANXUSとの婚約解消』を言い渡され。
必死で仕事をするようになったのだった。






next



背景画像提供→空色地図