常に中から押されているような感覚、上半身と下半身が別物になったような感覚、全身が心臓になったような熱のこもる感覚。
今まで何人かが綱吉に話してくれた出産の痛みの体験談を体中がずきずきする中で思い出していた。
言葉で表現するのは難しいとも言っていたが、今それを身を持って体験しているところだ。
割れそうとか、裂けそうとか、そんな単語が頭の中を回るが一番良い表現はこじ開けられているような感覚だろうか。
綱吉はそんなことを考えていた。
「嬢ちゃん、ほら、これにつかまって丸まってろ。少しは楽になんだろ」
スクアーロを連れて廊下へ出て行ったシャマルが大きなクッションを抱えて戻ってきた。
ベッドの上で丸々綱吉の横にそれを下ろし、抱え込ませた。
確かに、このほうが体勢は楽になった。
「ちょっとそのままな、もう一度診察しとくから・・・ん、いい感じに進んではいるみてえだな。もう少し頑張れよ、出来るだけ力は抜いて呼吸は止めるなよ」
声を出すのもつらいので、首を縦に振って理解したことは伝えた。
出来る限りやろうと思っているけれど、出来るかどうかは別問題だ。
自分の体が自分のものではない気分だ。
痛みが酷く、本来は治まっているときですらも軽い痛みが続いていた。
痛い分だけ体力は消耗していくが、体を休められるわけもなくずっと頭だけは冴えていた。
「痛えよな・・あと少しだからな」
シャマルが汗を拭いて、水も渡してくれた。
ストローで少しずつ飲む、その冷たさが気持ちよかった。
母親になるというのは大変なのだと実感する。
自分の母も皆の母もこれを経験していると思うと母親の偉大さもよくわかるものだ。
今度母にあったら、感謝と尊敬の言葉を伝えたいと思った。
綱吉がうなりたくもなるほどの痛みを堪えていたところ、廊下でばたばたと響く足音とがなり声が聞こえてきた。
スクアーロが帰ってきたのだと思い、綱吉が扉のほうをむくと、バタンと扉が開いた。
「う゛お゛おい綱吉ぃ!!まだ産まれてねえかあ゛!!」
予想通りにスクアーロが飛び込んできたのだが、その後ろに着いて来た人物にまではさすがの綱吉も予想していなかった。
羽飾りが風に揺れる。
眉間の皺が刻まれたその顔を見て、綱吉は体が少しだけ軽くなるような気がした。
XANXUSが再びこの部屋へと戻ってきたのだ。
ぱくぱくと話したいことはあっても、ううとうなり声しか出せない綱吉は、顔をXANXUSのほうに向けた。
それだけで今の精一杯。
また少し痛みが増しているのだ。
その痛みすら、なぜか今は大事なものの感覚が湧く。
「お前が無事出産できたら任務へ向かう・・・そこのカスがそうしろと言うからな」
「・・・てめえだって来たかったくせによお゛」
「うるせえドカスが」
綱吉の傍により、XANXUSは綱吉の腰を撫でた。
大きな手のひらは熱を持ち、腰をゆっくりと撫でるだけでも気持ちが楽になった。
その分だけ、表情も和らぐ。
「おお、すげーなXANXUS。そんな知識まで持ってやがったか」
「おっさん何だあ?そんな知識って」
「腰撫でてやると痛みがやわらぐんだってさっき教えただろ?お前さんもやってただろう?」
「おお゛」
「ルッスーリアが持ってきた本に書いてあったが」
さも当然と言わんばかりに主張するXANXUSがあまりにいつもと違いすぎて、スクアーロはぶ、と笑ってしまった。
なんだかんだ言っても父親になることが嬉しいのだろう、それが見て取れるほどXANXUSの表情は優しさを含み始めていた。
「あれ、全部読んだのかあ゛・・?」
「当たり前だ、カス」
ルッスーリアの用意した本の量も情報の量も任務の時の情報量以上あったが、任務で忙しかったXANXUSが合間を縫ってでも読み進めたということはスクアーロにとって余計におかしかった。
恐怖の塊も子供には違う、ということなのか。
それだけ生命の誕生には動かされることが多いのだ。
クッションを抱えていた綱吉がぴくり、と動いた。
「っどうした?」
「下・・・水が・・・」
「あー嬢ちゃんそろそろかな、破水したんだろ」
綱吉の下半身が水びだしになっていた。
それを見てシャマルが動き出す。
隣の部屋の扉を開けて、ガチャガチャとなにやら準備をする音が響いている。
その間にXANXUSがベッド脇にあったタオルを手にして綱吉の体に巻きつけた。
「多分着替えは無理だろ、これ巻いておけ」
「おーい嬢ちゃんこっちに連れてきてくれー」
「・・・連れて行くぞ、少し我慢しろ」
XANXUSが綱吉を抱え上げて、運んでいく。
先に行ったシャマルが扉の先で待っていて。
その先が綱吉にとっての勝負となった。
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