ずっと熱かった。
音がしそうなほどの腰の痛みと、お腹の中で動く自分の子供と、傍で自分の旦那の声が聞こえる。
ボンゴレの皆、ごめんね。
本当はおれとXANXUSが二人で休むなんて、ボンゴレにとっては大惨事なのに。
今ここにXANXUSがいてくれることがすごく落ち着くんだ。
泣きそうなほどの幸せな感覚に包まれたときに、泣き声が響いた。
まるで綱吉と戦った後のように血も意識も駆け巡るようだった。
一緒にいなくても大丈夫と思っていたが、実際不安を抱えていたのは自分のほうだった。
今、目の前で産まれる綱吉と俺の子。
何度もいいのかと考えた。
自分が親になることも子供に対する消えない恐怖心も不安でいっぱいだった。
それが綱吉の精一杯に産もうとする姿を見て、すう、と目の前が晴れていった。
一筋の涙が綱吉の手のひらにぽたりと落ちた。
廊下の外で待っていたスクアーロが泣き声を聞き、弾かれたかのように顔を上げた。
入るべきか否かで迷っているうちに聞こえてきてしまったのだ。
こういうとき自分の判断力のなさを良しとすべきか迷うところだが、無事生まれたようでほう、と息をついた。
よかった、本当によかった。
普段人の命を絶つことばかりで産まれる場面に立ち会ったことなどなかった。
「・・・産まれたん、だよなあ゛」
今はもう泣き声が止んでいる。
赤子はずっと泣いているものだと思うスクアーロはそろりと扉に近寄り、音が出ないように扉を少しだけ開いてみた。
そこからちらりと中を覗く。
少しだけ明るく見えるそこでスクアーロが目にしたものは、XANXUSが赤子を抱き上げている姿だった。
「・・すげえ、すげえもんみた・・・」
笑えば恐ろしさで人をも殺せそうなXANXUSが赤子に柔らかく微笑んでいた。
綱吉に向けるものに近いが、それよりも強いものを感じる。
大事そうに手と腕で抱え込んでいた。
赤子を恐れていたXANXUSはもうそこにはいなかった。
スクアーロは静かに扉を閉めると、黙って廊下を歩き出した。
自分も浮かれているのがわかる。
XANXUSが、綱吉が、幸せそうに微笑んで赤子といる姿は自分にも幸せを分け与えてくれていたのだ。
たったあれだけで幸せになれる、赤子はすごい存在だ、とスクアーロは思った。
同時に一生味わえないそれに軽い嫉妬も覚えた。
やはり、どこまでいっても綱吉には適わないんだという諦めはとっくについているはずだが、今更にその気持ちを大きくさせていた。
「うらやましいよな・・オレも養子でも育てっかなあ゛」
出来もしないことをポツリつぶやいて、廊下を突き進んだ。
本来父親だって産休を取るべきなのだから、今日一日ぐらいはあいつにも休みを取って欲しい。
そう考えたスクアーロはXANXUSに黙って、元の自分の計画を進めるためにキャバッローネのアジトへ向かう準備をしようとしていた。
廊下の角を曲がったところでとす、と何かにぶつかった。
「んあ゛・・・って跳ね馬」
「いたたた・・よお、スクアーロ」
そこには今日一緒に行く予定のディーノが床に尻餅をついていた。
部下を連れていないようだ。
「ツナは?」
「おお、無事産まれたぜ!」
「そりゃよかった!めでたいな!!」
にこにこと笑うディーノはやっと立ち上がった。
あちこちに埃がついてしまっている。
「祝いに来たのかあ?」
「いやそれは後日改めてくるよ、今はこっちもやることがあるから」
「じゃあ?」
「お前を迎えに来たんだぜ・・てまだスーツなのか」
「あ゛」
「ちゃんと飾っておけって言ったじゃないか、これから準備するんじゃ間に合わないだろ、仕方ないな」
ぺらぺらと一人で話し続けるディーノをぽかんとした顔をしてスクアーロは見ていた。
会合に行くために着替えたスーツにけちをつけられるのは少し気に食わないものがあった。
今日一日こいつといなくてはいけないのかと気が滅入ってくる、そのぐらいスクアーロはディーノが苦手だった。
ぱちりと音をたてて携帯を出したディーノは部下に言伝をしてすぐに電話を切る。
「ほら、行くぞ。ドレスはこっちで準備するからよ」
「は?どれす?」
「今日の会合の後パーティ参加、会合は形だけだからそっちがメイン、ドレス必要だろ?」
「はああ゛!?」
本気で知らなかったスクアーロのてをボンヤリしているうちに取って自分へ引き寄せると、ディーノは手を引いて廊下を歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ちやがれええ゛!」
「はは、スクアーロが同伴してくれるなんて光栄だよな」
話のかみ合わない二人がボンゴレ本部を出られたのは1時間以上たってからであった。
こんな小さな体からよくもまあこれだけの泣き声が出せるものだと、XANXUSは腕の中の我が子を見ながら思った。
自分が恐れていたものが、こんなに小さな存在だったということに気づかされる。
「綱吉」
「ん・・・なあに?」
「ありがとう」
それは自然に出た言葉で。
子を産んでくれたことにも、その選択をさせてくれたことにも、そして自分を変えてくれたことにも感謝したいと思ったのだ。
「おれもXANXUSにありがとうって言いたい・・抱っこしてくれてありがとう、産ませてくれてありがとう」
出産で疲れていた綱吉だったが、充実感で気持ちが一杯で目はすっかり冴えていた。
自分の子供はすごく小さくて、暖かかった。
用意してもらったミルクを飲ませて、すっかり大人しく眠ってしまった我が子を見て嬉しくてたまらなかった。
「皆にも連絡しなきゃね」
「ああ」
「XANXUSの抱っこ、様になってるよ」
「・・・そうか」
心なしか緊張しているようで、目に見える筋肉が強張ってる。
それすらも嬉しくて。
幸せな気分で、いっぱいだった。
「XANXUS」
「どうした?」
「名前、XANXUSにつけてほしい」
ふわり、笑った顔はまだ幼さが残るようにも母親の余裕が出ているようにも見える。
それを見て、XANXUSもまた笑った。
「決めてあるぞ」
「ほんと?・・・何?」
「名前は――――」
陽だまりの午後、新しい命と共に過ごすボンゴレ十代目とヴァリアーのボス。
それはまた新しい家族の形を見せていた。
(END)
ここまで読んでくださってありがとうございました!
子供の名前や性別は、ご想像にお任せいたします。
双子にしたかったけど、双子なんてそう簡単に産まれるものではないと思っているので。
ザンもツナもスクも幸せになるといいなという思いを込めて。
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