「十代目・・オレもそろそろ任務に行かせて頂いても」
「あ、ごめん。来てくれてありがとう・・・仕事よろしくね」
「はい、了解しました!それと、もし必要でしたら付添いの人間を誰か呼びましょうか?クロームあたり・・・」
「いや、大丈夫。多分・・・言わなくても来ると思うんだよね」
「?・・わかりました。では失礼します」
また丁寧に頭を下げ、獄寺は部屋を出ていった。
元々朝から任務をこなす獄寺を呼んで時間を取らせることはロスに繋がっているのだが、今日ばかりは仕方がないだろう。
先程のようにバタバタと廊下に響く足音がないだけ、また彼にも余力があるに違いない。
右腕として、なんていうには本当に勿体無いほどの人間である。
残り少なくなったオムライスを欠き込みながら、綱吉はぼんやり考えていた。
久しぶりに食べたこの味はやはりおいしかった。
「多分だけど、来ると思うんだよね」
感だけれど、XANXUSが綱吉に付添うようにいう人物といえば彼女だろう。
昨日の夜中にまだ外で暴れていた、とXANXUSは言っていたが、そろそろこちらに来てくれるのではと思っている。
もしかしたら直接こっちに、などと思考を巡らせていると。
「ああ゛、どこだよ医療班って、ここじゃねえのかあ゛」
ハスキーボイスの愚痴り声が廊下に響き渡っていた。
もうすぐそこまで来ていたのだ。
乱暴に扉を上げた音が聞こえるが、今綱吉がいる部屋ではない場所の扉を開けたようで声の大きさは変わらなかった。
「こっちだよ、スクアーロ」
綱吉が扉に向かって声をかけると、気づいたらしくスクアーロは部屋の扉を開けた。
「こっちかあ゛、おう綱吉ぃ、大丈夫かあ゛」
「うん、今のところは全然」
獄寺とは違って落ち着いた様子で部屋へと入ってきたスクアーロは、綱吉の顔色を確認してほ、と一息ついた。
任務先から一度帰還できたようで、Yシャツに黒のスラックスという格好だったがそれに戦闘のあとは残っていなかった。
「昨日、暴れてたんだって?」
「・・・ありゃあ゛ベルが悪いんだあ゛」
くすくす笑いながら綱吉が言うと、スクアーロはバツが悪いといった顔をして明後日の方向を向いた。
自分も大人気なく暴れていたという自覚があるようで、スクアーロも困った顔をしている。
上司である綱吉も別段咎める気はないのだが、指摘されたことがそのまま注意に繋がると思ったのだろう。
「最近ベルがよお、変に暴れたがってんだよなあ。てめえの赤ちゃんが楽しみで待ちきれねえんだと」
「へ?ベル、楽しみにしてくれてたの?」
「ああ゛もう赤子に触れたことねえらしいからなあ゛」
「そうなんだ」
なかなか会うことのないヴァリアーの皆も何度か会いにきては色々話をしお腹を撫でてくれていたが、ベルフェゴールだけは急に来なくなったのであった。
それはXANXUSが言うには気遣いらしいのだが、突然来なくなったことを少し綱吉は気にしていたのだった。
「あいつなりに楽しみにしてんだよ、一度綱吉の姿見ちまったら、腹にべったりくっついてる事になりそうだなんてほざいてやがったぜぇ」
赤ちゃん返りだろ、なんてスクアーロは笑って言っていた。
暴れるのもそれに含まれるならば、とんでもない赤ちゃん返りである。
そんなベルフェゴールも産まれたら見にきてくれるかな、と綱吉はぼんやり考えた。
「ところで、スクアーロの今日の任務は?」
「元々オフだあ゛、今日から三日間なあ゛」
「そうなの!?」
その言葉に目をキラキラと輝かせた。
だが、それにスクアーロは釘を刺す。
「わかってると思うけどよお・・・出かけられねえからなあ゛」
「・・・そうでした」
外は雲が少し見えるだけで温かい日差しが窓から入り込んでくるほどのいい天気だった。
欲求は、満たされる状況ではなかった。
シャマルが食事を終えて戻ってきたのは一時間以上も後の事だった。
ゆうゆうと歩いて帰ってきた彼は、満足そうに白衣を手にして着替えていた。
「あー旨かったぜ、ボンゴレの飯担当の奴ら、腕上がってるよな」
「ああ!最近イーピンが手伝いに来てたからそのせいかな?」
「あの中華娘ね、いい子に育ったよなあ」
「手は出さないでね」
「へいへい、わかってるよ」
聴診器を手にして、再度綱吉の診察をする。
なにやら仰々しい機械も用意された。
それを慣れた手つきで腹部につけていく。
「お前さんはホントに痛みに強いんだな、普通なら痛くて転げ回ってるぐらいだぞ」
「え?そうなの?確かにさっきよりは何となく痛いけど・・・わかるの?」
「そりゃあなあ、この機械もそう言ってるぜ」
「へえ・・・便利なもんだね」
何だかピコピコと針が行き来しているのを見るだけで出産の進み具合がわかるらしい。
綱吉はお腹につけられた不思議な機械を眺めながら、ほお、と感心のため息をついた。
「綱吉、てめ・・痛くねえのかあ゛?」
「痛くないわけじゃないんだよ、下半身が鈍い感じはするけどその程度」
「おっさん、陣痛って痛いんじゃねえのかあ゛?」
「痛いんだよ、普通はな。この嬢ちゃんやお前さんみたいな痛み慣れしてる奴は違和感ばかりが前面に出てるってことだろうな」
「ふう・・ん」
ちゃぷちゃぷと手を洗いつつ、シャマルが話すのをスクアーロは黙って聞いていた。
「まあ、これからさらに痛くなって来るんだし、旦那がいねえ分お前さんがこいつについていてやれよ」
「?・・おお゛」
そういいつつ、シャマルは隣の部屋へと入って行った。
準備が色々ある、だの言いながら。
綱吉はたまにう、とお腹がしまるような感覚と体が内側から開かれていく感覚に声をあげて反応していた。
「今のうち、欲しいものがあったら言っておけよお゛、何でも持ってきてやる」
「ん・・・と、水・・・だけでいいや」
「了解」
ベッド脇の椅子から立ち上がり、スクアーロは冷蔵庫のほうへと向かっていった。
何となく喉は渇くし、汗も少しかき始めていた。
体が少しずつ出産へと体勢を整え始めているのだろう。
痛みはなくとも、自分の体じゃなくなっていく感覚というのは不思議でならなかった。
未知の体験が今、綱吉に起ころうとしているのだった。
違和感、でもそれが新しい命の誕生に繋がる。
楽しみが広がっていた。
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