「ここ数日、急激に動き始めたファミリーがいてな」
「ボンゴレ本部のすぐ傍、だよねこれ・・・・」

ボンゴレから程近いビルを占拠のちに根城とし、周辺に爆発物をつけて時間差で爆発させると言うもので。
狙いはボンゴレ周辺を混乱させることのようだ。
お抱えのバーやホテルもそのターゲットに入っているところを見ると、ボンゴレ狙いというのがよくわかる。

「それはほんの一部だ。今手隙の奴らに当たらせているが、根が深いらしくずるずると次々出てきやがる」
「ここ、今日いた場所・・だよね」
「わかってんじゃねえか」

今日歩いていたルートも、その標的となった場所がいくつもあった。
綱吉が襲われたその銀行も金を奪うと言う目的ではなく、爆発物を設置するための行動だったのだ。
派手に暴れて目をそちらに取られている隙に、隠れていた者がその『仕事』をしていたということだ。
綱吉についていたスクアーロが急に姿をけしたのも、そのことに気づき処理を施していたからだろう。

「・・・おれ・・・・」
「しらなかった、か?それとも気づかなかったか・・・てめえは自分がボンゴレ十代目だってこと忘れやがったのか、ドカスが」
「っ」
「どれだけお前の下に人間がいて、どれだけ皆がお前を心配していたか想像できるか」

綱吉は自分から血の気がひいていくのがわかった。
甘い、自分は甘く考えすぎていたのだ。
ボンゴレ周辺なら安全だ、なんてことは間違っても有り得ない事だったのだ。
それだけの危険を察知できなかった自分にも酷く落胆した。
本調子でないならば、なおさら本部で大人しくしているべきだったのだ、これほどまでにXANXUSを怒らせてしまうことにもならなかったのだ。

「・・・綱吉」
「・・」
「直感、働いてねえんだな。自分で気づいていないだろうが、普段のお前なら気づくことも反応できてねえ」
「うそ、そんなことない、と思う、けど」
「てめえの駄犬が報告してきた、薄々感づいてはいたがな。子供できてから鈍くなってんだろう」
「・・・うそ」
「本当だ」

自分はまったく気づいていなかった。
超直感、ボンゴレの血の為せる技ともいえるそれが使えないとなると綱吉自身、自分が単なる鈍臭い人間になるとわかっていた。
危険察知能力としても十分に威力を発揮していたそれは、いつの間に消えてしまっていたのだろう。
綱吉は首を傾げた。
不安な気持ちが心の中で渦を巻き始めていて、怖い。
泣きたいくらいだった。
もう一人自分がいたら、自分で自分を罵っていっそ思い切り泣いてしまいたい、そう思った。

「・・・ごめ・・なさ・・・・」
「わかったならいい」
「っ・・・う・・・・」
「次出かける時は休みの時にしてくれ、出ないときが休まん。ただでさえすれ違いな生活してんだからそれぐらいはさせろ」
「え・・」
「忙しいのは確かだがな、お前の我が侭ぐれえは聞けるから」

XANXUSの大きな手が綱吉の頭をくしゃりと撫でた。
ふわふわした髪が揺れる。
綱吉はそこで初めて、XANXUSのめが和らいだ様に感じた。
それだけ心配させていたんだ。
いくら自分が強くても、妊婦でなおかつ、直感が鈍くなっているとわかっているXANXUSに本当に心配をかけてしまっていたのだ。

「ん、もうおでかけはいい。子供産むまではおとなしくしてるよ」
「そうか」
「うん、買いたいものはちゃんと揃えて来たから・・・あれ?」

今、自分の手は空っぽだ。
ポケットに入るサイズのものではない、ぱたぱたと体に手を当てて考える。

「どうした」
「買ったものがない・・どこやったんだっけ・・・・」

綱吉は自分の記憶を辿る。
スクアーロと一緒にいたときは手に持っていた。
その後、強盗が現れて、それをかわして、それから――――――。

「・・・落としてきちゃった、かも」
「さっきの現場か」
「うん・・・多分。その後持っている記憶がないから」
「少し待てるか」

XANXUSは数枚の書類を机に戻し、携帯で連絡を取り始めた。
二言三言ほどしか話さず、すぐに通話を終了させた。
そしてすぐ、次の連絡を取り、それを数回繰り返して携帯を置いた。

「今、カス鮫に持ってこさせる」
「あったの?」
「ああ」
「よかったあ・・・もう買えないって言われたから、なくしたら終わりだし」
「お前の手持ちで買えないモンがあるわけねえだろ、カスが」
「違うよ、あるんだって!」

そう力説する綱吉に、XANXUSは首を傾げることになった。
今、ボンゴレのボスになって買えない物等ある訳ないと考えていたXANXUSにとって、彼女が強く主張するほど買えない物が何かわからなかった。

「何を買った」
「それはちょっと・・秘密、かな。あとで教えてあげる」
「・・・・」

あからさまにまた不機嫌になるXANXUS。
しかし、綱吉はまだそれを言うつもりはなかった。
本当は二人で選びたかったのだが、それが叶わなかったのでせめて完成までは黙っているつもりなのだ。
不器用な自分にとっては、完成するかもわからないことなのだから。

「あとで必ず教えろよ」
「もちろん」

ふわ、と綿毛のように笑う綱吉を見て、XANXUSは安心したように表情を緩めた。





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